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【弁護士解説Q&A】 共同開発の成果を適切に活用したい! 知的財産権の帰属はどう定める?
2026.10.05

【弁護士解説】共同開発契約において、研究成果の知的財産権の帰属を取り決めるときのポイントとは?|企業側からの契約審査(契約書レビュー)Q&A

この記事では、共同開発研究契約(産学連携(対大学・研究機関等))における共同研究の成果に関する知的財産権の帰属について、先方との間でどのように調整すればよいか?
について、企業側の立場からのご相談にお答えします。

相談事例

~A社(共同開発研究契約 企業側)より~

化粧品などの製造販売を営む当社(A社)は、利益率の向上を狙い、現在の主要基礎化粧品シリーズよりも高価格帯のプレミアムシリーズの展開を考えています。そこで、まずは消費者のニーズを把握すべく市場調査を行ったところ、老若男女を問わず、アンチエイジングに対する意識が高まっているという調査結果を得ました。

その調査結果を踏まえ、新製品のプレミアムシリーズは予防美容をテーマとし、進歩が著しい再生医療の分野で用いられる技術を応用した、有効性と安全性、安定性に優れた成分(X)の研究開発を進めることに決定しました。

当社は、これまでに培ってきた一般的な化粧品製造に関するノウハウや開発生産力を持っており、企業ブランドイメージや財務状況は良好です。ただ、再生医療の分野に関するノウハウはありませんので、その分野に力を入れている研究機関等と共同で研究開発ができないかと模索していたところ、再生医療の研究に力をいれているB大学との共同研究の話しが持ち上がりました。B大学へ当社の事業目的を伝えたところ、先方より快諾が得られたため、当社新製品シリーズのためのXを共同で研究開発することになりました。(今のところ、当社・B大学ともに、特許権等の権利は存在しません。)

B大学との共同開発研究契約を結ぶにあたっては、Xの発明に関する特許権や特許を受ける権利「共同研究の成果に関する知的財産権」の取り決めを行っておきたいと考えています。

その場合、当該成果に関する知的財産権の帰属については、当社と先方(B大学)との間でどのように調整すればよいでしょうか。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答

共同開発研究契約を結ぶうえで定めるべき重要な事項の一つが、共同研究の成果に係る特許や著作権等の知的財産権の帰属になります。

大学は企業と異なり、共同研究の成果を商業的自己利用をすることが考えにくいため、後々のトラブルを防ぐためにも、お互いが納得して共同開発研究を行えるよう双方の利害を調整し、あらかじめ契約に定めておくことが重要です。

以下、詳しく見ていきましょう。

まずは、「共同開発研究契約」「共同研究の成果に関する知的財産権」について、説明します。

共同開発研究契約とは

「共同開発研究契約」とは、複数の当事者がお互いの技術や知見、いわゆるヒト・モノ・カネ・情報を持ち寄り、特定の技術分野に係る研究開発を共同で行い、その研究開発の成果を共同で利用しあうことを目的として当事者間で締結される契約です。

研究開発行為は、一つの企業のみで行う場合もありますが、自社の技術のみでは製品化が難しいことや、多額の費用がかかることも考えられるため、効率性や費用・リスクの分散の観点から、複数の企業等が共同して研究開発を行う場合があります。

そして、そのような共同で研究開発を行う場合には、共同開発研究契約を締結し、契約当事者の役割分担、費用負担、成果の分配等について定めておくことが重要になります。

契約当事者は、企業間であったり、企業と大学・研究機関等であったり様々です。

共同開発研究契約の中でも、企業(産)と大学・研究機関等(学)とが共同して研究開発を行うことを、産学型や産学連携などと表現します。

この産学連携のメリットは、自社新製品の開発の成功はもちろんのこと、特許の取得や自社の技術レベルの向上、自社の社員の質の向上、自社製品の宣伝効果・信頼の獲得等、多岐にわたると考えられています。

産学型や産学連携

共同研究の成果に関する知的財産権とは

はじめに、「知的財産」と「知的財産権」とはどのようなものでしょうか。

この2点については、知的財産基本法で以下のように定義されています。

●「知的財産」とは?
発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。(知的財産基本法第2条1項)

例えば、新しい高度な技術的アイデア、商品のデザイン、商品やサービスに使用するロゴマークなどが考えられます。

この知的財産の特徴の1つとしては、有体物たる財産「もの」に限らず、無体物としての「財産的価値を有する情報」を含むが挙げられます。

●「知的財産権」とは?
特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。(知的財産基本法第2条2項)

例えば、高度な技術的アイデア「発明」という知的財産は特許法に規定があり、知的財産権は特許権になります。「商品のデザイン」なら意匠法に規定のある特許権、「ロゴマーク」なら商標法に規定のある商標権といった権利、それらを受ける権利が考えられます。

知的財産権のうち、発明を保護する「特許権」、考案を保護する「実用新案権」、商品のデザインを保護する「意匠権」、営業標識などを保護する「商標権」の4つを、「産業財産権(工業所有権)」といいます。

そして、「共同研究の成果に関する知的財産権」とは
共同研究開発の実施の過程において、新たになされた発見、発明等の成果に関する権利や、その成果に基づく特許、実用新案、意匠その他の知的財産権を受ける権利、そしてその権利に基づき取得される知的財産権をいいます。

 

《知的財産と知的財産権の関係》

知的財産のうち、法令上の権利・利益として保護されるものが知的財産権です。

知的財産
創造的活動から生まれるもの、事業上の表示、事業活動に有用な情報

創造的活動から生まれるもの
発明・考案・植物の新品種・意匠・著作物
産業上利用できる自然法則・現象の発見等

商品・役務の表示
商標・商号
商品やサービスのロゴマーク等

有用な技術・営業情報
営業秘密
技術上・営業上のノウハウ等

▼ 法令上の権利・法律上保護される利益として保護

知的財産権
特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の法令上の権利等

発明

考案

商品のデザイン

営業標識・ロゴ等

特許権

実用新案権

意匠権

商標権

この4つを産業財産権(工業所有権)といいます

出典:e-GOV 法令検索「知的財産基本法」第2条2項
https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000122

研究成果に含まれる発明等の範囲について

共同開発研究における成果の帰属を決める前提として、どの技術が成果に該当するのかという問題があります。例えば、契約締結前から当事者がそれぞれ保有していた技術、共同研究中に発生した新技術や改良技術、研究終了後に発生した技術など、共同開発研究に関連する様々な成果が考えられます。

成果に含まれるか否かの大まかな基準は、当該共同開発研究に関連して発生した技術であるかどうかです。

この基準に沿って考えると、契約締結前から当事者がそれぞれ保有していた技術は成果に含まれないことになります。また、契約終了後に発生する技術についても、原則としてはそれぞれの当事者の帰属し、成果に含まれない場合が多いでしょう。

一方で、研究期間中に発生した技術については、通常は成果に含まれることになります。
ただし、共同研究期間中でも、当事者が並行して別の研究を行っている可能性があるため、自己の共同研究と別の研究の成果を区別する措置は必要です。

したがって、共同開発契約書には、その成果を当該共同研究開発と合理的関連性のあるものに限定する旨を記載しておきましょう。

また、研究期間中に発生した技術(成果)を当事者の共有とするときは、共有持分を割合をどのように定めるかは別途重要な問題となります。

この点について、持分割合を特に定める条項がなければ、一般法の共有規定(民法第250条、第264条)に従い1:1となります。しかし、開発内容に関する有利な技術や知見を持つ側の当事者からすれば、自己の持分割合を多めに設定してもらったり、持分を均等にする代わりに研究費用を相手に多めに負担してもらう等の交渉を行う余地があります。

ただし、成果の持分割合の取り決めは、共同開発研究において、双方の利害調整が最も必要な場面の1つです。法務担当者にて持分割合の交渉を行うときは、その研究開発の最終目的や研究以外の資金面や設備面での負担といった事情も加味しながら、相手方と丁寧に意見を擦り合わせて話を進めましょう。

なお、共同研究開発を実施する際には、その研究開発に必要な範囲内で、それぞれが契約締結前から保有する技術や情報を持ち寄ることになります。

上述のとおり、法的なレベルでは、原則として、従前から保有する技術等は引続き各当事者の権利となります。しかし、現場レベルでは、どの技術が契約締結前に各当事者が保有していた技術等かの区別が曖昧になり、トラブルに発展するおそれがあります。

したがって、当事者双方が自らの正当な利益を適切に守ることができるように、従前から保有する技術等と研究開発過程で発生した技術等とを区別するための措置を講じることが推奨されます。有効な方法の一例として、従前より保有する技術等の一覧を契約書の別紙に記載し取り交わすといった方法が挙げられます。

本事例の解説

実務上、共同開発に掛かるコスト(研究費や研究料など)は企業側が負担することが多く、A社は当該コストを開発商品の販売で回収する必要があります。そのため、まずA社としてはプレミアムシリーズの事業計画(特に販売見込み)を適切に分析する必要があります。そのうえで、当該分析を踏まえ知的財産権の帰属のルールを取り決めることが大切です。

A社はブランドイメージが良好で認知度はありますが、プレミアムシリーズには「高価格帯のもの」及び「再生医療技術を使ったもの」というA社の従来商品とは異なる2つの特徴があります。価格帯が違えば消費者の需要も異なり且つ別の競合商品が存在します。また、再生医療技術を用いたものを生身に使うという点に対する消費者の抵抗感も考慮の余地があります。そこで、プレミアムシリーズの属する市場の規模や需要等を踏まえた事業計画を立てる必要があります。

次に、事業計画に合った開発コストを考える必要があります。

例えば、プレミアムシリーズについて試験的な販売期間を設けるときは、市場撤退も考慮して、ひとまず大学側に知的財産権を帰属させたうえ試験販売に必要な期間の専用実施権又は独占的通常実施権を設定してもらうといった方法も考えられます。また、試験販売の結果、本格的に新商品を事業化する場合に備えて、試験販売期間後にA社の判断で専用実施権等の更新や知的財産権の譲受けを選択できる旨の規定を置くことも検討の余地があります。

もっとも、共同開発は大学の協力が前提となります。大学は学問研究及び研究発表を主たる目的とする機関であり、B大学の共同開発に向ける動機やビジョンを適切にヒアリングし、双方にとって気持ちよく研究開発に集中できる土壌を作ることが肝要です。

以下の「5-1.」以降では、相談事例を考えるうえで役に立つ知識及び共同開発の考え方を解説していきます。

「共同研究の成果に関する知的財産権の帰属」について契約で定める必要性

共同開発研究契約ではその成果として、知的財産権の対象となる、発明や商品形態、デザイン、プログラム、技術・営業上のノウハウ等あらゆるものが対象になると考えられます。

本事例において、相談者A社とB大学は、Xの共同開発研究を行うということで、その主となる成果としては技術的「発明」が考えられます。そのため、本解説では「発明」に関する知的財産権である特許を受ける権利、特許権について具体的にみていきましょう。

A社はB大学との共同開発研究の成果(以下「本成果」という。)を、新製品プレミアムシリーズの展開という事業に利用する目的としています。本成果に関する知的財産権のうち特許を受ける権利については、特許権と異なり本成果の排他的な実施(使用、収益、処分)を許すものではないですが、譲渡や担保の目的とでき、仮の実施権設定の根拠となるため、特許権の登録がなされるまでの間を繋ぐ事業上の重要な権利です(特許法第33条以下参照)。

また、特許権の設定が登録され特許権を取得すると、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」(特許法第68条1項)と定められていることから、本成果を独占排他的に実施(利用)することが可能になります。(別に下欄「専用実施権」の設定がある場合を除く。)

本成果に関する帰属については原則当事者間の取り決めが優先されます(民法第521条第2項)。ただし、本成果に関する知的財産権の帰属の取り決めをすべて当事者の話し合いで決めるとした場合には、実際に成果が生じた後では話し合いがまとまらず、トラブルに発展することや不利益を被るおそれがあります。また、この場合には日本の特許法等の規定に基づいて帰属が決定されることになり、必ずしも当事者(特にA社)の臨む結果になるとは限りません。

ですので、本成果を最大限活用した事業展開を行うためにも、トラブルを回避するためにも、本成果に関する知的財産権の帰属については、あらかじめできる限り具体的に契約で定め、役割分担や費用負担等を考慮したうえで、その枠組みを定めておくことが重要になります。

<用語等の解説>
●特許権のライセンス
特許権の活用方法としては、特許権者が他者に対してする「ライセンス」(実施権)という制度が認められています。

このライセンスには、特許法上、その権利を許諾された実施権者だけが独占的に実施できる「専用実施権」(特許法第77条)と独占性のない「通常実施権」(特許法第78条)の2種類があります。

➢「専用実施権」
特許権の設定登録後、特許権者により設定される権利です。
設定の範囲内で、業として特許発明を独占的に実施でき、専用実施権者は自己の名で差止請求や損害賠償請求を行うことができます。
特許権権者にとってのデメリットは、その範囲内において特許権者自ら実施することができなくなるという点が考えられます。

➢「通常実施権」
特許権の設定登録後、特許権者と実施権者との契約による権利であるため、通常実施権の「許諾」と表現します。
独占排他的権利でなく、単に特許権者に対し、業として定められた範囲内で実施することができる権利です。(契約実務上は、独占的な通常実施権と非独占的な通常実施権があります。)

●日本の特許法のルール
日本の特許法では、発明に対する権利は「特許を受ける権利」「特許権」として構成されており、端的に表現すると、前者は特許を出願して特許権を取得する権利であり、後者は登録された特許に基づく独占排他的実施権です。

このうち特許を受ける権利は、原則として、発明をした者(個人)に帰属するとされており、発明が共同でなされたときは、共同者全員が発明者であるため、特許を受ける権利は、共同発明者全員の共有となります。そして、特許を受ける権利を有する者が、特許を出願できる(特許法第29条1項、第36条参照)としています。

➣特許を受ける権利の共有
特許を受ける権利が共有の場合には、共有者全員が共同して特許出願をしなければならず(特許法第38条)、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができません。(特許法第33条3項)また、他の共有者の同意を得なければ、特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、第三者にライセンス(仮専用実施権の設定又は仮通常実施権を許諾)することができません。(同条4項)。

なお、前述の「専用実施権」と「通常実施権の許諾」の設定が特許権設定登録後であるのに対し、「仮専用実施権」と「仮通常実施権の許諾」は特許権が成立する前、出願段階での行為であり、特許権の設定登録がなされたときは、前者の設定があったものとみなされます。

特許を受ける権利は、特許を共同出願して設定登録されることにより共有特許権となります。

共有特許権が設定登録された後は、各共有者はそれぞれ特許権の全部を、契約で別段の定めがある場合を除いて、他の共有者の同意がなくても自由に実施することが可能です。一方、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することや第三者にライセンス(専用実施権の設定又は通常実施権の許諾)をすることができません。(特許法第73条)

➣職務発明
企業内での発明(使用者(会社・大学等)等と従業者(従業員・役員・教員等)等という関係性の中で生じた発明)のうち、

ア.使用者等の業務範囲に属すること
イ.発明者が使用者等における現在または過去の職務として発明行為をしたこと

という条件を満たすものを「職務発明」といいます。(特許法第35条1項)

職務発明について、従業者等が特許を受けたとき、またはその特許を受ける権利を承継した者が特許を受けたときには、使用者等が、その特許権について通常実施権を有するものとされています。

職務発明は、有効な契約又は勤務規則等により、特許を受ける権利を使用者等に原始的に帰属する旨を予め定めておくことが可能です。(特許法第35条3項)

「職務発明制度」は、企業と従業員とのそれぞれの役割や貢献度などを公平に考慮しながら利益の調整を図り、従業者の権利を保護・保障する制度として、特許法に定められています。

「成果に関する知的財産権の帰属」4つの考え方

では、A社にとって、本成果に関する知的財産権の帰属を定める場合には、どのような考え方があるでしょうか。

一般的に、職務発明(A社及びB大学の従業者等が行った発明)について、特許を受ける権利が使用者等に原始的に帰属される契約や勤務規則等があること(本事例の解説6-1)が多いため、それを前提として、以下の4つの方法についてみていきます。

①発明者を基準とする帰属
②当事者の共有
③どちらか一方の単独帰属
④相手方の情報等に基づいた帰属

①発明者を基準とする帰属
「発明者」が在籍する当事者を基準に考える方法です。

A社及びB大学の共同研究に参加した従業者等が共同で創作した発明は共有とし、どちらか一方当事者の共同研究に参加した従業者等だけで創作した発明は, その当事者の単独帰属とする方法です。

この共同研究に参加した従業者等「発明者」の判断にあたっては、裁判例上「自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、すなわち、当該技術的思想を事業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指す」とされていることから、資金や設備の提供を中心とする経済的な支援を行う者や補助者としてデータのとりまとめや実験を行った者等は、発明者にあたらないと解されています。

そのため、前述のような貢献が本成果に関する知的財産権の帰属に影響を与えるようにするためには、その貢献も帰属を決める際の考慮すべき要素となることを、あらかじめ契約で定めておくことが必要と考えられます。

共同で創作した発明を共有としたときに、その持分割合を定めなかった場合は、民法上の準共有の規定(民法第264条、第250条)が適用され、その割合は均等と推定されます。

大学との共同研究では、大学側の学生が共同研究に参加することも考えられます。もっとも、参加する学生は大学の従業者等に当然に該当するわけではないので、あらかじめ大学と共同研究に参加する学生との間で、特許を受ける権利に関する譲渡契約等を交わすなど、事前にA社とB大学で取り決めをしておくことが望ましいです。

②当事者の共有
発明者が誰であるかに関わらず、「一律に当事者の共有」とする方法です。

持分割合については、均等にする場合や貢献度に応じて定める場合などが考えられます。特許法上、共有者の権利が持分割合により変わるものではありません。(本成果の利用については別途取り決めを行うことが考えられます。)

一律に共有とするため、上記①のような経済的支援を行った当事者も持分を持つことが可能になります。よって、発明に対する創作的な寄与がない場合でも持分を持てるということになります。

ただし、日本法による共有に関しては、本事例の解説5-1(共有)にある内容をはじめ、様々な規律があります。

③どちらか一方の単独帰属
上記②とは反対に、発明者が誰であるかに関わらず、「どちらか一方当事者の単独帰属」とする方法です。

本成果に関する特許を受ける権利については、原則当事者間の契約により自由に定めることが可能です。よって、A社が本成果を事業に最大限活用するため、自社の単独帰属とすることも可能ということになります。その場合、B大学は原則何の権利も取得しないことになるため、何かしらの利益分配(例えば、ライセンスや補償など)を付与することが考えられます。

産学連携では、企業側は成果を事業に利用することを目指し、大学側は成果を研究や教育活動に利用したり社会に還元することを目指すなど、企業と大学とでそれぞれ共同研究開発の目的があります。したがって、知的財産をどちらか一方の当事者に帰属させるときは、お互いの契約目的や研究開発への貢献度を適切に考慮しながら、他方当事者にとっても納得のいく着地点となるように努めましょう。

④相手方のバックグラウンド情報等に基づいた帰属
相手方から提供されたノウハウやデータ等のバックグラウンド情報(共同開発研究契約締結時に既に保有していた技術情報等)や共同研究の過程で相手方から提供を受けた技術情報等によることなく、発明が単独でなされた場合には、その発明をした当事者の単独帰属とし、それ以外の場合には共有とする方法です。

単独でなされた発明であるか否かにより帰属が分かれるため、共同開発研究の開始時点において、既に各自が保有しているバックグラウンド情報等が何であるかを特定したうえで提供し合うことが望ましいです。その場合には、「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(以下、「共同研究開発ガイドラインという。」)にも留意しながら、バックグラウンド情報等の秘密保持義務や目的外使用禁止等の定めをすることが必要です。

以上のように、A社が本成果に関する知的財産権の帰属を考えるうえでは、日本の特許法のルールを念頭におき、どちらか一方に偏った取り決めとならないよう配慮して両当事者の利害を調整することが重要になります。

また、帰属と併せて権利にかかる費用負担についても取り決めをしておくことがポイントの一つです。

それらを踏まえたうえで、本成果をどのように利用し得るか具体的にみていきましょう。

《研究成果に関する知的財産権の帰属 4つの考え方》

帰属方法

帰属を決める基準

成果の帰属の結果

典型的な活用場面

類型①

発明者等が所属する当事者に帰属させる

▪共同して行った発明等
⇒双方が持分を取得

▪単独で行った発明等
⇒発明者の所属する当事者が単独で取得

各研究者の発明等への関与を成果の帰属に反映させたい場合

類型②

当事者双方に帰属させる

双方が持分を取得

双方が継続的に研究へ参加し、成果を共同管理したい場合

類型③

当事者の一方に帰属させる

一方が単独で取得

一方にて成果の権利化や事業利用を一元的に進めたい場合

類型④

相手方のバックグラウンド情報等を利用せずに行った発明等は発明者の所属する当事者に帰属させ、それ以外は当事者双方に帰属させる

▪バックグラウンド情報等を利用しない発明等
⇒発明者の所属する当事者が単独で取得

▪バックグラウンド情報等を利用した発明等
⇒双方が持分を取得

双方が固有の技術、ノウハウ、データを持ち寄る場合

※ 成果を当事者に帰属させるには職務発明等の措置が必要です。
※ 典型例は選択の目安です。実際の契約では、研究目的、貢献度、成果の利用方法、ライセンス・補償等を併せて個々に調整が行われます。

「本成果の利用」に関する取り決め

共同開発研究の目的は本成果を実施(利用)することにあり、知的財産権の帰属との関係からも本成果の利用に関する取り決めは重要なポイントの一つになります。

産学連携の共同開発研究の場合、B大学は、大学単独で本成果を利用した事業をすることは考えにくいため、本成果を事業の目的として利用するのはA社のみとなることが想定されます。その場合、事業利用をしないB大学からは、「不実施補償」を求められることが考えられます。

<用語等の解説>
●「不実施補償」
大学と企業との間で共同開発研究を行い、その成果に関する特許権が共有となった場合、原則として両当事者ともに、相手方の同意を得ることなく本成果を実施することができます。

もっとも、大学は商業的な自己利用を行わないため、何の利益を得ることもできないことがあります。そのような不利な立場を補償するものとして、企業側が大学に対して一定の実施料を支払うことを「不実施補償」といいます。

企業に単独帰属となった場合や当事者の合意により企業側に独占的に利用を認める場合なども、企業側が大学へ対し、補償やライセンス料など実態に即した名目で分配をすることが必要と考えられます。

本事例において、仮に本成果に関する知的財産権を両当事者の合意によりA社の単独帰属にしたとします。A社としては、本成果を独占的に利用でき、事業化による利益を享受することも見込まれます。ですが、B大学は共同研究へ貢献しているにも関わらず、金銭的利益を得ることが困難です。そこで、A社はB大学の知への価値付け、見返り等として、B大学に対し、何らかの形で分配をすることが望ましいと考えられます。

また、B大学としては、A社が独占的に本成果を利用できるからといって、自己の研究・教育活動に支障がでるのは避けたいところです。特許法では、「試験又は研究」のためにする実施には特許権の効力が及ばないという定めがあります。(特許法第69条1項)

しかし、共同開発研究の成果を使いB大学が試験や研究を行った場合、それが「試験又は研究」に該当するか否かをめぐり解釈が分かれると、当事者の対立を招く可能性もあります。そこで、例えば、試験・研究に支障が生じないように、確認的に、B大学で想定される試験等の例示などを契約書に記載しておくことも有用です。

●本成果の公表等
大学は一般的に、学術研究のために共同開発研究に取り組んでいるという側面があり、その研究成果を学術論文や学会等でいち早く公に発表したいという考えがあります。

そのため、A社としてはB大学にもそういった考えがあることを踏まえ、本成果に関する特許権を取得する際の支障とならないよう取り決めをしておくことが必要です。

例えば、特許の出願を行う前に本成果を公表されてしまうと、本成果は公知のものとなり新規性を失うことになります。特許を受けるための要件の一つに、「新規性」その発明が未だ社会の公有物となっていないこと(特許法第29条1項1~3号)という要件があるため、特許の出願前に学術論文等で発表されてしまうと、本成果は原則として特許を受けることができなくなってしまいます。

本成果の公表については、相手方の承諾を得ることが必要とする旨や、公表の時期・方法などについて協議することなど、両当事者にとって有用性のある取り決めをすることが望ましいです。そして、本成果の散逸を防ぐためにも、本成果の開示や漏洩を制限することも重要になります。

研究成果の権利者の範囲と研究記録の取り扱いについて

共同研究開発の成果の帰属に関する基本的なルールは、その発明技術等に対し創作的に関与した者に帰属させるというものです。関与者が複数人いる場合には、成果に係る権利は複数の関与者の共有になります。

特に産学連携の場合、企業はこの基本的なルールを知っておかなければなりません。

なぜなら、産学連携では、企業が研究資金を調達するケースが多く、当然に自社に成果に係る権利が帰属すると誤解しやすい状況にあるからです。しかし、このルール上は、資金を拠出しても、当然には成果の権利は企業に帰属しません。

その他にも、単に設備提供をした者や研究テーマに助言したり補助した者についても創作的な関与に至らず、原則としては成果の帰属者に該当しません。

ただし、研究は基本的に無形的行為です。そのため、具体的な措置を講じないと可視化しづらく、発明が生じた後に遡って誰がその発明技術に創作的に関与したかを決めることは困難が伴うことがあります。

したがって、研究計画を立てる際には、各工程における研究内容や担当者のほか、研究のプロセスの記録の方法やその保管場所を定めておきましょう。異なる実験条件や検証方法が提案又は実施されたときに備え、その実施者名及び具体的な実験条件等を記録するといったルール作りもしておくことも、成果の帰属に関するトラブルを低減するために役立ちます。

もう1つ重要なポイントとして、秘密保持の問題があります。

研究工程の記録は秘密性が非常に高いものであり、漏洩する共同研究開発の当事者に対し大きな事業上の損失を与える可能性があります。特に本事例のように産学連携の場合には、企業側は将来の新事業の展開や新商品の販売を見据えて研究資金を負担していることが多く、研究情報が他の競争者に漏れると研究資金を将来回収する途が閉ざされるリスクに晒されます。

したがって、研究に関与する必要がなくなった研究員のアクセス権を解除するなど、具体的な研究開発の進捗状況に合わせて、研究記録へのアクセス権限が適切な範囲となるように適切に管理しましょう。また、例えば、相手方当事者の関連会社や外部の専門機関など、当事者以外の第三者が研究員として参加するときには、必ず秘密保持契約を締結し守秘管理を徹底させることが非常に大切です

➧秘密保持契約については下記の記事でも解説していますので、ご参照ください。
・秘密保持契約を締結する際の注意点は?知っておきたい契約締結時のポイント

おわりに(本記事のまとめ)

以上のように、共同開発研究契約(産学連携)における共同研究に関する知的財産権(特許を受ける権利、特許権)の帰属について先方との調整を行う場合には、日本の特許法のルールを把握したうえで、できる限り内容を明確にし、その成果を最大限活用できるようお互いの利害調整を図った取り決めを行うことが重要になります。産学連携でのポイントは、大学側は事業実施の主体となることが考えにくいところにあります。そして、共同研究では発明以外にも、共同研究の結果・報告書など成果物等を作成することが予想されます。そのような場合には、特許法だけではなく、著作権法など他の知的財産に関する法律が適用される可能性があります。また、大学側の研究成果の使用や他企業との共同研究を厳格に制限しすぎると、不当な取引制限や不公正な取引方法といった独占禁止法上の規制対象に該当するおそれがあるので注意が必要です。

その他に、日本企業と海外企業との間で行う国際的な共同研究の場合には、共同開発契約における準拠法や裁判管轄をどのように定めるかという点や、輸出管理や技術情報の国外移転などに関する法令の遵守という点が、ビジネス法務上の大きな課題となります。

現地法の中には、違反時に、多額の賠償金などの支払いが必要とされたり、政府当局による自社の事業活動への規制介入が行われるといった強力なペナルティを課されるものもあります。 特に、自社が海外企業と協働した開発取引に馴染みがない場合は、取引開始前に、遵守すべき国内外の法令上の義務を洗い出し、予め紛争を回避する入念な準備が大切です。

したがって、共同開発契約を締結する場合は、開発目的、研究内容、研究資金の分担割合、相手方当事者の所在地、関連法といった多方面から総合的に検討して、研究開発をめぐるトラブルを予防するようにしましょう。必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら契約書の作成やレビューを行うこともお勧めします。

電子契約を利用する際の留意点

電子契約で契約を締結すると、従来の紙の契約書で手間となっていた事務(作成・郵送・管理・検索など)の多くが省略できる上、電子署名を使って簡単に契約締結手続を済ますこともできます。また、収入印紙が原則不要になるため、取引の際のコストを削減できます(印紙税法第3条、第44条)。さらに、取引ごとに、契約書と関連資料との紐付けが容易に行えるので、取引担当者が契約関係の全体像を把握しやすいといったメリットがあります。そのため、電子契約を活用すると、会社の契約締結業務の効率を向上させたり経費削減を図ることができます。

一方で、事業用定期借地契約・任意後見契約・企業担保権の設定契約などの、公正証書での契約締結が義務とされる取引では、電子契約の締結が認められません(借地借家法第23条3項、任意後見契約に関する法律第3条、企業担保法第3条等)。また、電子契約の場合、電子帳簿保存法や法人税法に対応した保管方法や保有期間を遵守する必要があります。

自社への電子契約の導入を検討するときは、社内に、対象となる契約が電子化してよいものか否かを判断する手順や、関連法令に対応した管理・運用体制がきちんと整備されているかを確認しておきましょう。

その他に、電子契約は電子システムの中で管理されるデータであるので、セキュリティが脆弱だと、部外者等による無権限の契約書サインやデータ改ざんを招くおそれがあります。したがって、電子契約の導入の際には、不正アクセス等に対する技術的措置、社内整備、研修による周知徹底等を実施し、安全で適切なセキュリティ体制の構築を並行して行いましょう。

《電子契約のメリットとデメリット》

業務効率化とコスト削減が期待できる一方、法令対応と安全な管理体制が必要です

メリット

デメリット・注意点

● 契約締結業務を効率化
作成、郵送、締結、保管などの事務負担を軽減

● 契約関連コストを削減
郵送・保管費用を抑え、収入印紙も原則不要

● 検索・管理が容易
契約書と関連資料を取引ごとに紐付けて管理可能

● 契約関係を把握しやすい
従業員が契約関係の全体像を確認しやすい

● 電子化できない契約がある
公正証書など法定の方式が必要な契約を事前に確認

● 保存要件への対応が必要
電子帳簿保存法や税法に沿って保存・保有期間を管理

● 不正利用・改ざんのリスク
無権限の署名やデータ改ざんを防ぐ技術的措置が必要

● 社内体制の整備が必要
権限管理、運用ルール、従業員研修を継続して実施

当事務所での契約書審査サービスについて

当事務所では、主に企業向けに、最新の法改正に対応した契約書等の作成・審査のサービスを提供しています。契約書審査サービスでは、対象の契約を業務提携先(委託先など)も含めた広い視野で専門家が事前に確認し、無料のひな形では検出の難しい法的リスクを洗い出します。また、ビジネス上のメリットや交渉時のポイントも踏まえた契約書レビューで依頼者をサポートします。これらのサービスは、新規契約、契約更新、条件変更など、取引上のさまざまなケースやタイミングでご活用いただけます。

当事務所の提供するサービスの詳細やご依頼の流れについては、当事務所の案内ページ(https://pm-lawyer.com/service/contract-negotiation/contract-review/)の方で紹介しています。

※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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