
- 2026.07.29
【弁護士解説】販売代理店契約に関する契約書作成において、ブランドイメージを保つための注意点とは?|サプライヤー側の契約審査(契約書レビュー)Q&A
この記事では、「販売代理店契約(ディストリビューター方式)において、商品や自社のブランドイメージを保つためにどのような対策をすればよいか」について、サプライヤー側からのご相談にお答えします。
目次
相談事例
~A社(販売代理店契約: サプライヤー)より~
伝統的工芸品を製作する当社(A社)は、商品Xの販路拡大を目的として卸売業者B社との販売代理店契約を検討しています。当社(A社)には現状以上に在庫を保有する設備がなく、営業・販売にかける人手やノウハウも不足しているため、卸売業者B社との提携は非常に魅力的です。
一方で、過去の卸売業者C社との取引の経験から、商品Xや当社のブランドイメージが損なわれるリスクが増えることも懸念しています。当時C社との取引では、まとまった数量の発注があり、安定して売上を確保することができました。しかし、C社は商品Xの技法や特長を顧客に誤って伝える等、その内容や対応に戸惑う場面が度々ありました。
地域で培われてきた技法や伝統的工芸品としての価値を守りながらB社と取り組むには、どのような条項を定めるとよいでしょうか。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答
そのまま取引を進めると、貴社が意図しない方法や用途で商品・商標が取り扱われ、結果としてそれらのブランド的価値が損なわれるリスクがあります。
リスクを最小限に抑えるために、会社としてブランド管理の基本方針を整理した上で、販売店に対し、大きく以下3点を守ってもらう旨の義務付け条項を定めることが推奨されます。
① 商標等の取り扱い
② 販売活動における手続きや報告
③ その他遵守事項
以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、「販売代理店契約」について説明します。
販売代理店契約とは
販売代理店契約は、サプライヤー(メーカー)が自社の商品・サービスを広く販売するため、代理店に販売を委託、許諾する契約です。「代理店」については、「販売代理店」と呼ぶこともあります。販売代理店契約は、一般的にその方式により以下の2種類に分けられます。
本記事では、後者のディストリビューター方式を想定し説明していきます。
■エージェント方式/代理店型
代理店がサプライヤーの代理人の立場で取引に関わり、販売手数料を受け取る形態。「代理店契約」と呼ばれることもあります。顧客とサプライヤーは、商品・サービスに関し直接契約を結び、代理店は当該契約の当事者とはなりません。
■ディストリビューター方式/販売店型
商品を代理店が買い取り、自社の在庫とした上で直接に顧客に販売する形態。「販売店契約」と呼ばれることもあります。
前者のエージェント方式での代理店の行為は、法的な「代理」という意味(民法第 99 条第1 項)からしても、サプライヤーの「代理」ということができ、契約関係としては、サプライヤーが代理店に対し、顧客への営業活動や契約申込みの取次などの業務を委託する形となります。
一方後者のディストリビューター方式は、法的な意味からすると、代理店の行為は「代理」とはいえず、代理店とサプライヤーとの契約関係は、基本的には売買契約となります。そのため、ディストリビューター方式における代理店は、「代理店」ではなく「販売店」と呼び分けられることもあります。(本記事でも「販売店」と呼んで説明していきます。)
しかし、この法的な意味とは別に、ビジネス上はどちらの方式においても、「販売代理店契約」「代理店」などの用語が使用されています。
本事例における契約関係 ~販売代理店契約(ディストリビューター方式)の一例~

本事例の解説
状況の整理:販売店側の裁量とサプライヤー側への制約
今回の事例のように、ディストリビューター方式を採用する場合は、販売店に対し販売活動の裁量を広く認める傾向にあります。エージェント方式の場合は、販売店はあくまでも代理店の立場であることから、ほとんど裁量を持たせない事例が目立つ一方、ディストリビューター方式は、販売店が自ら販売主としての役割と責任を担うためです。同時に、サプライヤーに対しても独占禁止法によって制約が設けられており、販売店に販売価格を要請することが禁止されています(独占禁止法2条9項4号)。
しかし、これは販売活動に関する一切を販売店に委ねなければならないという趣旨ではありません。販売活動は、商品や企業のブランドイメージや評価などに直結する重要な要素であるため、ビジネス上、サプライヤー側が販売店の販売活動について一定の指示を行う必要があります。
流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下「独占禁止法ガイドライン」)も、販売店に対する指示(販売価格,販売地域及び販売先に関するものを除く。)に、商品の品質・安全性、使用方法の適切性、商標等の信用などを確保する合理的理由があり、尚且つ他の販売店に対しても同様の取扱いがされる場合には、原則違法とならないとしています。
そのため、販売価格等を除く販売活動については、実際の運用等に沿って両社間で入念にすり合わせ、契約を締結する時点で双方が共通認識を持てるよう、具体的な内容を契約書の条項へ落とし込むことが重要です。
・販売代理店契約を締結する販売店に対し、再販売価格を指定できる?弁護士が解説|サプライヤー側の契約審査(契約書レビュー)Q&A
販売店に守ってもらうべき事項とは
商標等の取扱い
まず、貴社が商標権を有している場合には、以下の内容を定めることをおすすめします。商標の管理は、ブランドイメージを維持する上で特に重要なポイントです。
① 商標の使用条件(使用できる範囲、内容、責任の所在等)
② 販売活動時には、必ず商標を用いること
③ サプライヤーが商標のガイドラインを提供し、販売店はその指示に従うこと
④ 契約期間終了後は、商標の使用を認めないこと
これらの条項を定めることで、企業の大切な財産である商標を有効に活用しつつも、一方でその価値を損なうような用い方がされるのを防ぐことができます。
販売活動における手続や報告
続いて、販売活動における手続きや報告義務を定める規定の例をご紹介します。
① 販売促進キャンペーン等を実施する際には、サプライヤーから事前承認を得ること
② 販売数や販売方法、顧客からのクレーム内容について、報告義務を課すこと
これらは、販売店の状況や販売活動を適切に把握するために定めることをおすすめしています。問題が生じた際にも、販売活動の経緯を確認しやすくなるというメリットがあります。
ただし、これらの運用や管理体制が販売店の販売活動に大きな影響を与え、実質的に販売店に販売価格を要請する行為であるとみなされた場合は、前述の独占禁止法に抵触する可能性が生じてきます(独占禁止法ガイドライン「第1部 第1.再販売価格維持行為」参照)。
販売店との関係性や両社それぞれの市場規模等によりますが、くれぐれも誤解を招くような言動を行わないよう注意しましょう。
その他遵守事項
最後に、その他販売活動時の遵守事項や禁止事項に関する規定です。
① 販売店に付与した販売権を、他社に譲渡しないこと
② 他社に対し、販売権を再交付しないこと
③ 公序良俗に反する販売活動を行わないこと
④ サプライヤー側のブランドマニュアル(ロゴサイズ、指定画像の使用、無断のキャッチコピーの作成禁止など)の遵守
⑤ サプライヤーの交付した顧客向け商品説明資料等の無断改変の禁止
⑥ サプライヤーの指定する商品の品質管理マニュアルの遵守
⑦ 商品の品質・内容について顧客の誤解を招きうる不当表示の禁止
① ②について・・・
販売権の譲渡や再交付を認める場合、販売チャネルや売上の確保にはつながる一方で、販売店の管理は複雑になり、ブランドイメージや販売活動の質を均一に保つことが難しくなります。状況や相手先によって判断や結論は異なることが予想されますので、あらかじめ貴社での優先事項を整理し、最低限譲れない事項を明確にしておくようにしましょう。
また、上記以外にも、こうした取り組みによって、相互に秘密情報に触れる機会が増えるため、秘密保持義務も忘れずに定めておくことをおすすめします。
- 販売店による不当表示と不正競争防止法
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不正競争防止法では、広告や取引において、商品・サービスの一定の事項(原産地、品質、内容、製造方法、用途、数量)につき、誤認させうる表示をし又はその表示のある商品等を譲渡・引渡し・展示・提供等を行うことも、「不正競争」の1つに列挙しています(同法第2条 第1項 第20号参照)。
そのため、販売店が商品の品質・内容について、商品を購入する顧客に誤解を与えるような表示・説明をしたときには、サプライヤーは不正競争防止法に基づき販売店に対し当該表示等の差止めを求めることができます(同法第3条)。
販売店による不当表示でも、関与の態様・程度によってはサプライヤー側も景品表示法上の責任を問われる場合もあるため、上記差止請求権の存在は、サプライヤーにしてみるとリスクヘッジの最終手段として心強い味方となるでしょう。
おわりに
以上のように、販売代理店契約を締結する際、商品や自社のブランドイメージを保つためには、販売店に守ってほしい事項を契約書に明確に示し、あらかじめ要請しておくことが重要です。なかでも、商標は利害が絡む重大な権利であるため、慎重な対応を心掛けましょう。こうした取組みは、ブランド価値の維持だけでなく、サプライヤーと販売店双方の利益を踏まえた継続的な取引関係の構築にもつながります。
なお、この記事では契約書に記載すべき基礎的な条項を紹介しましたが、「特約店契約」を締結するという選択も有効です。特約店契約であれば、固有の販売店を他の販売店とは区別して、より強いパートナーシップやコミットメントを求めることが可能になります。したがって、販売店が行う販売活動にサプライヤーの意思を反映することが容易になるのです。販売店側にとっても、サプライヤー側からより手厚い支援を受けられることが多いため、他の販売店とは一線を画した販売活動が実現できる魅力的な仕組みといえます。ただし、特約店としての特典を付す一方で、特約店に対しサプライヤー側の提示する再販売価格や重要な取引条件に特約店を実質拘束していると認められる場合には、独占禁止法に抵触する可能性があるので、特約店制度を検討される際には専門の弁護士への相談が推奨されます。
また、昨今では、海外の販売店と販売代理店契約を締結する事例も増えていますが、商標は販売活動を行う国の範囲内でのみ保護される属地主義が採用されています。海外においても商標の保護を希望する場合は、現地での商標登録は欠かせません。必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします。
※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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