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2022.12.07
工事請負契約書とは?作成時の注意点などを解説!

工事請負契約には、建設業法による規制が適用されます。建設業法では、工事請負契約に定めるべき条項や、当事者が負う義務などが定められています。
今回は「工事請負契約書」について、作成の目的や建設業法による規制内容、作成時の注意点などを解説します。

自社に合わせた工事請負契約書を作成すべき理由

工事請負契約書には、施主と工事業者との契約書もあれば、元請けと下請けとの契約もあるため、それぞれ作るべき契約書の内容や注意点が異なります。
一般に公開されている標準約款やひな形は、契約書作成時の参考にはなりますが、個別の事情に合わせて作成する必要があるため、雛形をそのまま使用するのは難しいと言えます。トラブル予防の役割を果たすためには、自社の工事内容に当てはまる契約書を作成することが大切です。

また、雛形としてよく使用されている国土交通省作成の「民間建設工事標準請負約款(乙)」(以下「標準約款」といいます。)は、どちらかというと施主側に有利にできているため、そのままでは不利な条件で取引契約を結ぶ可能性があります。工事請負契約書を交わす際、発注者側と受注者側は「対等な立場」で契約を締結しなければならないため、内容を自社の立場に合わせた契約書の作成が必要となります。

工事請負契約書の基礎知識

工事請負契約は、民法上の「請負契約」に該当するため、請負人が果たすべき義務は「仕事の完成」です。これに対して、何らかの事務の委託を内容とする「委任」又は「準委任」の場合、受任者の義務は事務を行うことそのものであって、仕事の完成は義務の範囲に含まれません。
このように、委任・準委任とは異なり、「仕事の完成」が請負人の義務内容に含まれている点が、請負契約の大きな特徴です。

工事請負契約書を作成する目的はトラブル回避

工事の内容で合意したものの、認識の違いや不明確な部分を残しておくと、後日トラブルに発展する場合があります。例えば、一方的な変更を指示され、損害賠償が請求できない場合や代金を支払う期日について合意を得ていない場合などです。工事請負契約書では対等な契約を結ぶことに加え、万が一、問題が生じたときの解決方法をあらかじめ定めて記載しておくことでトラブルに発展することを防ぐことができ、工事を円滑に進めることができます。

工事請負契約書の記載事項

建設業法ではトラブルになりがちな工期の変更や賠償金、請負代金の支払い時期などをあらかじめ記載することが定められています。下記16項目が主な記載事項です。

1. 契約の目的と工事内容
2. 請負代金の額
3. 工事着手の時期及び工事完成の時期
4. 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
5. 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
6. 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
7. 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
8. 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
9. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
10. 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
11. 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
12. 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
13. 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
14. 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
15. 契約に関する紛争の解決方法
16. その他国土交通省令で定める事項

工事請負契約書の作成のポイント

契約書作成時の5つのポイントについて解説していきます。

ポイント1: 工事遅延の場合の違約金は適切に定める

標準約款第23条は、受注者の責任により、完成・引渡しが遅れたときは、代金全額に対して年14.6%の違約金を請求できる内容になっています。
しかし、法律上は、通常、遅延に対してのペナルティーは年3%の変動金利制で計算することとされており、14.6%としている標準約款は法律よりも高い違約金を受注者に課す内容になっています。
標準約款通り、年14.6%もの違約金を支払うと場合によっては赤字になる危険があります。完成・引渡しが遅れたときの違約金については、法律どおり年3%で計算することを定めておくとよいでしょう。

ポイント2: 工期の延長について適切な規定を設ける

標準約款第21条では、受注者は「不可抗力によるとき又は正当な理由があるとき」は工期の延長を求めることができるとあります。しかし、「天候不順」や「施主側の仕様決定の遅れ」などのケースが「不可抗力や正当な理由があるとき」に該当するとして工期の延長が認められるのかどうか、不明であるという問題があります。工事請負契約書を作成する際は、「天候不順により工事ができなかった場合」については、発注者が同意しなくても、受注者からの通知により自動的に工期が延長される旨を定めておくことをお勧めします。「受注者は、発注者に通知することにより天候不順により工事ができなかった日数分工期を延長することができる」などと契約条項を定めておけば、発注者が同意しなくても工期の延長が可能です。
このように、工期を延長できるケースを明確にし、また、発注者の同意がなくても工期を延長できるようにしておくことがポイントです。

ポイント3: 追加工事代金を請求しやすい内容にする

標準約款第20条2項では、工事の追加や変更により工事代金を変更する必要があるときは、「発注者と受注者とが協議して定める」となっていますが、発注者の承諾がなくても追加工事代金を請求できる内容にしておくべきです。まず、工事の追加や変更の場合は、発注者は当然、追加や変更について追加工事代金を支払う義務があることを明記しておきましょう。
次に、追加工事代金額の決め方についての契約条項を入れておきましょう。
追加工事代金額については、別途追加工事契約書で決めることを原則とするべきですが、追加工事契約書が作成されない場合も、追加工事代金が請求できるようにしておくことが必要です。例えば、「受注者から追加代金について見積書を送付し、それに対して1週間以内に発注者が異議を述べないときには、発注者はその追加代金の支払いを承諾したものとみなす」等の内容の契約条項を入れておくのも一つの方法です。

ポイント4: 近隣からのクレームについての対応を定める

標準約款では、近隣からのクレームによる工事中止の場合も工期は延長できない内容になっています。
標準約款第12条で、施工のために第三者と紛争が生じたときは、受注者がその処理解決をしなければならず、これによって工期は延長されないことを定めているからです。
これでは、施工に対して近隣からクレームが入り工事を中止せざるを得ないようなケースであっても、工期が遅れたことについて、受注者が違約金を支払うことになりかねません。まず、受注者に責任のない近隣からのクレームについては、発注者の責任と負担で解決すべきことを明確に定め、工期を延期することになっても、工期遅れによる違約金等が発生しないことを明確にしておくことが必要です。

ポイント5: 地中障害物の発見などの場面の対応を定める


標準約款第9条4項では、土壌汚染、地中障害物の発見、埋蔵文化財の発見などによって、当初予定していなかった費用が生じ、請負代金を変更する必要がある場合は、発注者と受注者が協議して定めることになっています。そのため、発注者が追加費用の請求を承諾しなければ、追加費用を請求できないことにもなりかねません。
土壌汚染、地中障害物の発見、埋蔵文化財の発見などによって、費用がかさむ場合は、発注者の承諾がなくても費用を請求できるようにしておくことをお勧めします。

工事請負契約書に関する注意点

建設業許可の有無、元請け、下請け、公共、民間、工事の規模を問わず、すべての工事で工事請負契約書の作成が必須です。「建設業の許可を受けている業者だけが作成する」、と誤解するケースも少なくありません。建設業法で定めている29種類の工事でも、建設業法上では建設工事とみなされるので注意しましょう。
契約書を交わさない「口約束」でも契約は成立します。契約書を作らない場合でも、請負契約が無効になることもありません。しかし、建設工事を受注するには、工事請負契約書を交わすことが建設業法で義務付けられています。工事請負契約書を作成しなかった場合には、建設業法第19条の違反に対する行政処分が下されます。
これは建設業の許可の有無を問わず、国土交通大臣や都道府県知事の指導や、1年以内の営業停止処分を受ける場合があります。また、情状が重い場合、建設業許可の取消し処分になる可能性もあるので、工事請負契約書の作成は必ず行ないましょう。

工事請負契約書におけるその他の条項の例

上記の必須項目以外にも、工事請負契約書には、当事者の合意によって自由に条項を定めることができます。工事請負契約書に定められることの多い条項としては、以下の例が挙げられます。

・反社会的勢力の排除
当事者やその役員等が暴力団員等に該当しないことなどを相互に表明保証し、違反した場合には契約解除や損害賠償請求を認める条項です。コンプライアンスの観点から規定されます。

・管轄裁判所の合意
工事請負契約書に関する訴訟を提起する(第一審の)裁判所を合意する条項です。

工事請負契約書に貼付すべき収入印紙の金額

工事請負契約書は、印紙税額の一覧表(その1)の第2号文書に該当します。そのため、契約金額(請負代金額)に応じた金額の収入印紙を貼付する必要があります。工事請負契約書に収入印紙を貼付していないと、税務調査の際に指摘を受ける可能性があるので、忘れずに貼付しましょう。

契約金額 印紙税額
1万円未満 非課税
1万円以上100万円以下 200円
100万円を超え200万円以下 400円
200万円を超え300万円以下 1千円
300万円を超え500万円以下 2千円
500万円を超え1千万円以下 1万円
1千万円を超え5千万円以下 2万円
5千万円を超え1億円以下 6万円
1億円を超え5億円以下  10万円
5億円を超え10億円以下 20万円
10億円を超え50億円以下 40万円
50億円を超えるもの 60万円
契約金額の記載のないもの 200円

まとめ

工事請負契約では、当事者間の力関係が一方的であることにより、契約条件が一方にだけ有利に定められてしまいやすいという、いわゆる請負契約の片務性の問題が生じやすく、注意して契約を締結する必要があります。また、トラブルの原因となる工期や支払い期日、追加工事などの詳細を明確にすることで、後々に起こり得るトラブルを回避することが可能です。
建設業許可の有無を問わず、建設業法第19条より、施工主には契約書の作成義務がありますので、建設業許可の不要な工事だからといって、工事請負契約書の作成が不要と勘違いしないよう注意しましょう。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。 慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。 2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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