- 2022.10.11
英文契約書で業務委託契約を締結する際には、さまざまな注意が必要です。
たとえばサービスの範囲やサービスの提供方法などを明確に定める必要がありますし、現地法が適用されるときに問題が生じないよう、契約の実態を把握しておく必要もあります。
本稿では英文での業務委託契約書を作成する際の注意点を専門家の観点からわかりやすく解説します。
海外企業や外国人フリーランスなどと契約される機会がある場合、ぜひ参考にしてみてください。
業務委託契約とは
そもそも業務委託契約とはどういった契約なのか、確認しましょう。
業務委託契約の定義
業務委託契約とは、委託者が受託者に対し一定の業務を委託し、受託者が受託業務を行うことを約束する契約です。受託者が委託者に対し、委託された役務(サービス)を提供する契約ともいえるでしょう。
英文では“Service Agreement”と表記します。
日本の民法にはいくつかの典型契約がありますが、業務委託契約は典型契約ではありません。一般的には「委任契約」または「請負契約」、あるいはその中間的な性質を持つものと捉えられています。
業務委託契約が締結されるケースとは
業務委託契約が締結され典型的なケースは、以下のような場合です。
- コンサルティング業務の委託
- アプリやシステム開発の委託
- ウェブサイトの制作業務の委託
- 商品の設計の委託
- サービス管理の委託
- 修理やメンテナンス業務の委託
- 写真撮影や動画製作などの外注
- ライティングやデザインなどの外注
業務委託契約において英文契約書の作成が必要となる例
業務委託契約において英文契約書が必要になるのは、海外企業や海外のフリーランスなどと取引するケースです。
たとえば海外企業にコンサルティング業務やシステム開発などを依頼する際には、英文での業務委託契約書が必要となるでしょう。
また海外で事業展開する際には、海外向けのウェブサイト製作が必要となります。そういった場合に現地の会社へウェブサイト製作を委任する場合などにも英文で業務委託契約書を作成する必要があると考えられます。
業務委託契約の英文契約書を作成する際の重要項目
次に業務委託契約の英文契約書を作成する際の主要項目について解説を加えます。
業務委託契約では以下のような事項が特に重要となります。
前文
業務委託契約では、サービスの内容を説明するにあたって背景事情を説明したほうがわかりやすいケースがあります。その場合、契約目的などを明らかにする「前文(Recitals、Whereas条項)」を詳しめにするなど、工夫すると良いでしょう。
サービス内容の範囲・質
業務委託契約では、受託者から委託者へ提供されるサービス内容の特定が必要です。
サービス内容があいまいになっていると、大きなトラブルのもとになってしまう可能性があります。
たとえば以下のように定めると良いでしょう。
Article◯(Services)
Under this Agreement, 【Service Provider】 shall render consultancy services to 【User】 in accordance with the scope, timeline, quality level, or any other specifications with respect to the services described in Appendix A attached hereto.
第◯条(サービスの内容)
本契約において【受託者】は【委託者】に対し業務範囲、スケジュール、品質水準、その他本契約書附属の別紙A記載のサービス仕様に従って、コンサルティングサービスを提供する。
この規定方法によると「別紙」によってコンサルティング業務の具体的な範囲や内容を特定する仕様になっています。別紙に詳細をつけて契約書に添付しましょう。
サービス提供の条件
業務委託契約では、提供されるサービスの内容だけでなく提供条件も重要な要素となります。
たとえば納期や受託者が守るべき仕様や最低限の品質など、個々の取引に応じて条件を設定しましょう。
すべての条件を契約書に盛り込むのが難しい場合には、別紙にまとめて契約書に添付しましょう。別紙を利用すると、契約条項自体は比較的簡単に記述できるので契約書を読みやすくなるメリットもあります。
委託料の支払いについて
業務委託契約では、委託者が受託者へ対価(委託料)を払わねばなりません。
委託料の金額、算定方法や発生条件を明確に定めましょう。
一般的には以下のような2種類の規定方式があります。
成果の発生に関係なく、サービスを実施すると対価が発生する
成果には無関係に「サービスの提供」そのものに対して報酬が発生するパターンです。コンサルティング契約などの場合にはこちらの形態をとるケースが多数です。
サービス提供により成果が発生した場合にそれに応じて対価が発生する
もう1つは、サービスの提供によって一定の結果が生じた場合にその成果に応じて報酬が発生するパターンです。たとえばウェブサイトの製作やシステム開発など成果物がある場合には、こちらが採用されるケースが多いでしょう。
対価の金額の計算については以下の2種類があります。
定額制
成果や業務内容にかかわらず一定の報酬が発生するパターンです。
たとえば月額固定料金とする場合や成果物に対して固定の報酬が払われるパターンなどが該当します。
変動制
事情に応じて料金が変動するパターンです。たとえば時間制(タイムチャージ)とする場合、売上額に応じて変動する場合などがあります。
【委託料の支払時期】
委託料の支払時期についても明確に定めましょう。
以下のようなパターンがあります。
先払い
サービス提供の開始時などに先払いするパターンです。委託者の負うリスクが大きくなります。
後払い
サービス提供が完了したときにまとめて委託料が払われるパターンです。受託者の負うリスクが大きくなります。
分割払い
委託者と受託者がそれぞれリスクを分担するため、分割払いとするケースもよくあります。
たとえばサービスの提供開始時に一定額を払い、完了したときに残金を支払う、などです。
定期払い
毎月、毎四半期ごとなどのように定期払いとする方式もあります。
条項例
以下で条項例を示します。
【毎月定額を月末までに支払う方式】
Article ◯(Service Fee)
In consideration of the services rendered,【User】shall pay ○○JPY to 【Service Provider】as monthly service fees by the end of each month.
第◯条(委託料)
本契約によって提供されるサービス対価として、【委託者】は【受託者】に対し月額○○日本円を毎月末までに支払わなければならない。
【分割払いで計算方式が複雑な場合】
次の条項例は当初契約時とサービス提供が進行した時点で固定報酬を支払い、サービスが完了した時点で成果報酬を支払う複雑な方式です。
Article ◯(Service Fee)
In consideration of the promises made herein and the services rendered,【User】shall pay service fees to 【Service Provider】 in the following schedule:
(i)○○JPY upon execution of this Agreement.
(ii)○○ JPY upon confirmation by the 【User】of the completion of the first half of the services.
(iii)△△% of the value of ●● upon confirmation by the 【User】of the completion of the second half of the services.
第◯条(委託料)
本契約におけるサービス委託料として、【委託者】は【受託者】に対し、以下のスケジュールに従って料金を支払わねばならない。
(1)○○日本円:本契約の締結時
(2)○○日本円:本サービスの前半が完了したことを【委託者】が確認したとき
(3)●●の価値の△△%相当額:本サービスの後半が完了したことを【委託者】が確認したとき
損害賠償事項
業務委託契約では、一方当事者が相手方へ損害を与えてしまうリスクも考えておかねばなりません。たとえば受託者から提供された商品に欠陥があった場合や受託者による設計に誤りがあった場合、他者の知的財産権を侵害した場合などです。
こういった状況に備えて、損害賠償に関する条項を設けておく必要があります。
たとえば損害賠償が必要となる条件を定めておかないとどういった状況で損害賠償できるのか明らかになりません。また損害賠償の範囲を限定しておかないと無制限に賠償範囲が広がっていくリスクが発生します。損害賠償の上限を定めておくケースもよくあります。
たとえば以下のような規定例が考えられます(第1項で責任が発生する損害の範囲を記載し、第2項で損害賠償の範囲に含まれない上限額などを規定)。
Article ◯(Liability of 【Service Provider】)
1.【Service Provider】 shall indemnify and hold harmless 【User】from and against any liability, costs, damages, losses, claims of a third party, fines and penalties which arises out of any direct breach of this Agreement or negligence in rendering the services.
2. Notwithstanding the provision in the preceding paragraph, 【Service Provider】shall not be liable for any consequential or indirect damages incurred by 【User】. The total amount of the liability of 【Service Provider】shall not exceed○○ JPY.
第◯条(【受託者】の責任)
1.【受託者】は、本契約に対する直接の違反や本サービス提供上の過失から生じるあらゆる責任、費用、損害、損失、第三者からのクレーム、科料及び罰金について、【ユーザー】に補償を行う。
2. 前項の規定にかかわらず、【受託者】は、【ユーザー】に生じた派生的あるいは間接損害について、責任を負わない。また【受託者】の責任限度は○○日本円を超えないものとする。
英文で業務委託契約書を作成する際には、サービス内容や成果物の有無、性質などに鑑みて適切な内容に仕上げなければなりません。相手方との交渉も必要となり、自社のみでは対応が難しい場合もよくあります。契約書を作成する際には、専門家によるレビューを受けておくと安全性が高まります。自社のみでの対応に不安があるなら契約書の審査を利用するのがよいでしょう。
知的財産権の帰属
業務委託契約の中でも特に「成果物の納品」を予定する場合「知的財産権」への配慮を欠くことができません。
受託者に知的財産権が発生する場合には委託者へ譲渡するのかしないのか、譲渡するならその時期などを定める必要があります。
最終的に知的財産権が委託者と受託者のいずれに帰属するかについては、委託内容や制作物の性質、契約後の成果物の利用方法や委託料金などに応じて、両者で話し合って決定すると良いでしょう。
知的財産権の帰属方法としては、以下のような規定例が考えられます。
- 一方当事者に帰属
- 両当事者が共有
契約当初に決めにくい場合には、サービス提供が一定程度進んだ段階で「追って協議して決定する」と定めることも可能です。
また、知的財産権の発生に登録が必要な場合にはその登録手続の進め方を定める場合、知的財産権の帰属を一方当事者としつつも他方当事者へ使用を許諾するときの条件などを規定するケースもあります。
【受託者に知的財産権が帰属するタイプの条項例】
Article ◯(Intellectual Property)
Any patents, industrial designs, trademarks, copyrights, designs, or any other intellectual property developed through the rendering of the services by 【Service Provider】shall belong to 【Service Provider】.
第◯条(知的財産)
【受託者】による本サービスの提供において特許や実用新案、商標、著作物、意匠、その他知的財産が生じた場合、それらの権利はすべて【受託者】に帰属する。
契約期間
業務委託契約では、契約期間について定めるべきケースも多々あります。
たとえばコンサルティングなどの継続的なサービス提供の場合、いつまで継続するかを当初の段階で明らかにする必要があります。
自動更新条項
契約期間については、自動更新条項をもうけるケースがよくあります。
たとえば当初は半年間としながらも、機関満了前30日以内にどちらの当事者からの「更新しない」との通知が行われなければさらに半年間同一条件で継続される、などです。
契約終了時の対応
契約終了時に両当事者がどういった対応をしなければならないのか定めましょう。
たとえば「受託者が委託者から機密情報を受け取った場合、返却や破棄を行う」などとします。
準拠法や国際裁判管轄
国際取引では「準拠法」や「裁判管轄」についての規定も重要です。
準拠法とは「どこの国の法律に従って紛争を解決するか」を意味します。
裁判管轄は「どこの裁判所で紛争を解決するか」をいいます。
当事者が合意によって準拠法や裁判管轄を定めておかないと、各地の法律によって決まってしまいます。
いざというときにどこの法律が適用されるのか、どこの裁判所が管轄になるのかわからないと不利益を受けるおそれもあるので、事前に当事者にとって都合の良い方法を定めておきましょう。
なお契約の準拠法を定めても、現地法が強制適用されるケースもあります。たとえば日本で建築を行うなら建築基準法に従わねばなりませんし、「実質的に雇用関係がある」とみなされれば労働者保護のための労働関係法令が適用されます。
国際取引で英文契約書を作成する際には、適用される法律を特に強く意識する必要があります。
その他注意すべき条項
以下のような条項も業務委託契約において重要です。
秘密保持条項
サービスの提供を委託する際には、委託者が受託者へ機密情報を提供しなければならないケースが多々あります。
情報漏洩による不利益を防止するため、秘密保持条項を設けましょう。
秘密情報の範囲を明確にし、除外規定も定める必要があります。
契約が終了したときの破棄の規定や契約終了後の秘密保持義務の継続などについても定めておくべきです。
再委託の可否
業務委託契約では、受託者が再委託を行うケースもあります。
そもそも再委託を認めるのかどうかを明確にし、トラブルを防止するために再委託を認める場合には事前に委託者の書面による承諾を要する、などと定めておきましょう。
検収
成果物の納品が予定される場合、納品後の検収にかかる期間についても明らかにしておくべきです。検収期間が明らかにならないと、いつまでも検収が終わらず報酬が払われないといった事態になりかねません。
ただあまりに検収期間が短いと委託者に不利益が及ぶ可能性もあるので、サービス内容や成果物の性質、検収に必要な検査項目などをもとにして、両者で話し合って決定しましょう。
業務委託契約を英文契約書で締結する場合に弁護士のチェックが必要な理由
業務委託契約を英文で締結する場合、弁護士によるチェックを受けておくべきです。以下でその理由をお伝えします。
取引実態に即した契約書を作成できる
業務委託契約では、取引実態に即した実践的な契約書を作成する必要性が特に高いといえます。
成果物の納品を予定しているのか、報酬についてどのような定め方にするのが適切か、損害賠償の制限など、個別に検討すべき事項がたくさんあります。
専門家の意見を聞いておけば現地法に違反することもなく、事情に即した契約内容に仕上げられるメリットがあります。
紛争発生時のリスク把握
業務委託契約を締結しても、トラブルが発生するリスクはあります。
事前に専門家のレビューを受けておけば効果的にトラブルを予防できますし、万一発生したとしても最小限に抑えやすくなるものです。
紛争発生時のリスクを把握して防げる点も、専門家に相談する大きなメリットの1つです。
準拠法を把握したうえでのチェック
海外取引では「準拠法」が非常に重要です。自社のみで準拠法を調べて相手方と交渉するのは大変ですが、専門家から聞いて正確な知識を持っておけば対応をとりやすくなるでしょう。
企業の利益を意識した観点でのアドバイス
弁護士は依頼企業の利益を意識して契約締結に関するアドバイスをしてくれます。
忠告に従えば自社の利益が確保され不利益を防止しやすくなるメリットがあります。
英文の業務委託契約書では個別的な検討が必要となる上、準拠法など日本企業同士の取引とは異なる視点も持たねばなりません。自社のみでは適切な対応が難しくなりがちですので、専門家によるレビューを受けましょう。企業法務に長けた弁護士などの専門家の契約審査を利用することで、安心して取引を行うことが可能になります。
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慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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