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2022.09.30
雇用契約書の記載事項を知りたい方必見!必須事項や注意点を解説

雇用契約書とは、民法第623条に基づいて雇用主と労働者の間で交わす、労働における決めごとを記した書類です。雇用される者と企業との間に誤解が生じないように記載内容と合意した契約条件に相違がないことを確認し、双方が署名・捺印をします。そのため雇用主と労働者の間でどのような雇用関係が結ばれているのかを雇用契約書によって確認することができます。労働条件に関する問題が発生する前にこうした書面を作成しておけばトラブルを未然に防ぐことができます。
今回は、雇用契約書の必須記載事項について基本的な内容と法に基づいて注意が必要な点を解説します。

雇用契約書の記載事項の必須項目一覧

雇用契約書を作成する際は、労働基準法第15条で定められている「労働条件の明示」を遵守する必要があります。雇用契約書を作成する場合は、下記の14項目すべてを網羅したうえで、雇用契約書に記載する必要があります。

労働契約の期間

雇用契約の期間に関する記載は、契約は有期なのか無期なのか、有期であればどのように契約が更新されるのかを明示しなければなりません。雇用契約の期間に関する記載は、正社員、無期パート社員の雇用、契約社員、有期パート社員の雇用かによって異なります。

正社員:期間を定めずに原則として定年まで雇用される従業員のうちフルタイムで就業する従業員
無期パート社員:期間を定めずに原則として定年まで雇用される従業員のうち、正社員と比較して週の所定労働時間が少ない従業員
契約社員:1年契約など、期間を定めて雇用される従業員
有期パート社員:1年契約など、期間を定めて雇用される従業員のうち、正社員と比較して週の所定労働時間が少ない従業員

 有期の雇用契約で契約を更新する場合があるときはその基準

正社員雇用と同様の記載に加えて、契約社員、有期パート社員など、契約期間を決めて雇用する従業員については、契約の期間と、契約更新する場合があるときはその基準を記載することが必要です。特に、契約更新の基準は、会社から契約社員との契約を更新せずに終了させる「雇止め」の場面で、雇止めが認められるかどうかにかかわる重要な部分となります。契約の更新がない場合は、契約更新がないことを明記しておきましょう。

就業の場所

就業場所については、入社直後に配属が予定されている就業の場所、会社の住所を記載することで問題ありません。ただし、転勤がありうる場合は、必ず、雇用契約書に明記しておきましょう。また、就業規則にて転勤に応じる必要があることが定められていても、雇用契約書に転勤について記載がない場合は、転勤命令が認められない場合がありますので、将来的に異動の可能性がある場合は、明記しておくことによってトラブルを防ぐことになります。

従事する業務の内容

業務内容についても雇用契約書に記載しておく必要があります。業務が複数ある場合は、複数記載しても問題ありません。業務内容についても、入社直後に配属が予定されている業務の内容を記載することで問題ありません。ただし、業務内容の変更(配置転換)がありうる場合は、必ず、雇用契約書に明記しておきましょう。

始業時刻・終業時刻

労働者の始業・終業時間が決まっている場合には、その時間を記載します。変形労働時間制、フレックスタイム制などの場合にも、どのような勤務パターンとなるのかを記載しなければなりません。交替制勤務を採用しているのであれば交替順序なども明記します。

所定労働時間を超える労働の有無

所定労働時間を超える労働の有無や所定労働時間を超える労働がある場合の割増賃金率などについても明記します。なお、従業員に残業を命じるためには、会社は従業員代表との間で、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要ですので注意してください。

休憩時間

休憩時間は所定労働時間に応じて、明記します。労働基準法第34条で、休憩時間は1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を勤務の途中で与えなければなりません。また、交替制なのか一斉休憩なのか、労働基準法に則った範囲であることを記載します。

休日

休日は毎週の休日や祝日の扱いなどについて明示します。毎週決まった曜日である必要はなく、シフト制の休日でも可能です。

休暇

休暇は、年次有給休暇、育児・介護休暇、その他会社で定める休暇などを記載します。

交替制勤務をさせる場合は交替期日あるいは交替順序等に関する事項

交替制勤務を採用しているのであれば、交替期日や交替順序なども明記します。24時間稼動している工場などは、2~3交替制度を採用しているところが多いでしょう。その場合、交替はどのように行うのか、日勤・夜勤、時間などを明確に記載します。

賃金の決定・計算方法

重要な別のポイントが賃金です。時間給・出来高払・請負制・日当制・歩合制など、賃金についてどのように計算するのかを明示します。さらに、基本給や職務手当等はどのようになるのかも明示します。ここで言う賃金とは、退職手当や臨時に支払われる賃金は除きます。また、雇用契約書では、。社会保険料や税金などの詳細についても記載しておくことで、トラブルを防止できるでしょう。

賃金の支払方法

賃金の支払い方法についても雇用契約書に明示します。労働基準法第24条に、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないとされています。

賃金の締切り・支払の時期

給与は、その支払い方法だけでなく時期まで記載することが必要です。賃金の支払い方法で述べたように、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。一定期日とは、「毎月25日」のように、周期的に到来する期日を定めることとされており、賞与等を除きます。

退職に関する事項

労働基準法施行規則5条1項4号により、退職に関する事項について明示します。定年退職の年齢、雇用継続制度の有無、自己都合退職の場合に何日前の通告が必要となるか、解雇になる事由を記載します。特に有期雇用の社員と結ぶ場合には、解雇や雇い止めのルールを明確しておいた方がよいでしょう。労働契約法の改正により、以前と比べて、解雇や雇い止めに関して厳しい制限が設けられたためです。
さらに、有期雇用と無期雇用の間に不合理な労働条件の相違があることは禁止されているため、雇用契約書を作成するときには、法的に問題がないか十分に注意する必要があります。

パート社員または契約社員の場合の追加4項目の内容

雇用する労働者がパートタイマーまたは契約社員である場合は、パートタイム有期雇用労働法6条1項およびパートタイム有期雇用労働法施行規則2条1項に基づきの、下記4項目も書面で明示することが必要です。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

書面での記載は必須でないが明示が必要な項目内容

労働基準法第15条に定められている通り、書面での明示が必須ではないものの、雇い入れ時に明示することが義務付けられている項目として以下のものがあります。これらの項目については、就業規則や賃金規程に基づき、入社時に説明することで明示する、または書面に記載しておくことが適切です。

  • 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与、各種手当および最低賃金額に関する事項
  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払方法、支払時期に関する事項
  • 労働者の費用負担に関する事項(食費、作業用品など)
  • 安全衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

雇用契約書作成時、特に注意しておきたいポイント6点

ポイント1:試用期間の有無について
正社員を採用する際に優秀な人材かどうかを見極めたいという企業は多くあります。必要な経験や能力を確かめる時には、一定期間を「試用期間」とすることができます。
この期間は賃金を通常時より低めに設定することや、正社員としての労働条件と異なったものにするなどの条件付きの場合があります。また、企業や使用者によって「研修期間」「見習い期間」「仮採用期間」などと呼称も様々です。
この試用期間がある場合、求人や募集要項において採用する側はきちんと明示しておかなければなりません。また、雇用契約を結ぶ際にも、試用期間を設ける場合の賃金やその場合の労働条件が異なる場合には、雇用契約書にその旨を記載しておきます。

ポイント2:2通作る
雇用契約書において、会社側と労働者側の2通作成するようにします。これは、雇用後のトラブルを避ける為に有効な手段のひとつとなります。雇用の際の確認も含め、それぞれの分の雇用契約書を作成し、トラブル時に備えましょう。

ポイント3:雇用形態によって契約書を分ける
雇用形態別に雇用契約書を作成しておきます。正社員、派遣労働者・契約社員、パートタイム労働者、短時間正社員、業務委託契約者、など、多様な働き方があります。
雇用形態により、雇用契約書の作成内容も変わってきますので、雇用形態別に作成しておくのも良いでしょう。

ポイント4:転勤の有無について
就業場所や業務内容については絶対的明示事項となりますが、転勤の有無については特に決まりはありません。転勤を伴うことがある場合、雇用契約書に転勤の有無について記載を設けるようにしましょう。それにより、雇用後のトラブルを避けられるようになるでしょう。

ポイント5:人事異動について
人事異動についても、雇用契約においての絶対的明示事項には含まれていません。しかし人事異動について、一定の評価に基づく基準や規則を設ける場合には、雇用契約書および就業規則に記載することが望ましいでしょう。
人事異動を命ずる際に、記載がない場合、トラブルを招き易くなります。「入社時に人事異動について何も聞いていない」となってしまわないよう、予め記載をしておくことで、企業においてのリスク軽減になります。

ポイント6:どの労働時間制を採用するか決める
フレックスタイム制など柔軟な就業時間を取り入れている企業も多く見られますが、労働基準法第32条・第40条により、労働時間は定められています。多様な働き方が求められている昨今の労働事情も鑑みて、どの労働時間制を採用するかを決めておきましょう。

補足として、厚生労働省のホームページには労働契約の詳しい内容のほか、労働契約に関する法令・ルールについての説明が公開されているので参考にされてください。

厚生労働省:労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index.html

厚生労働省:現行の労働時間制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000361724.pdf

まとめ

本稿では、雇用契約書の記載事項についての解説をしました。注意が必要な点としては雇用形態に応じて、明示事項が異なること、入社後の労働トラブルリスクを軽減するためにも双方の合意の上での雇用が成り立つように業務内容も合わせて十分な配慮が必要なことがあげられます。記載漏れがないよう確認をして、それぞれの雇用形態に見合った事項を記載しましょう。「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたら、ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。 慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。 2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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