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2024.01.04
定期建物賃貸借契約で契約終了の通知を忘れてしまったら?|賃貸人側の契約審査(契約書レビュー)Q&A 

この記事では、定期建物賃貸借契約において、「契約を終了させる(契約終了を主張する)ときは、いつまでに通知をすればよいか?」、また「通知を失念した場合はどうなるのか?」について、賃貸人側からのご相談にお答えします。

相談事例

~A社(定期建物賃貸借契約 賃貸人側)より~

当社(A社)は所有する甲ビルの3階部分を、B社の事業所として貸し出すことにしました。もっとも、当社は、3年半後くらいに『甲ビル3階を自社営業所として利用する』予定でいましたので、更新なく終了する定期建物賃貸借契約(賃貸借期間3年)を選択して、B社との間で、有効に契約締結しました。

この締結から2年を経過した頃に、当社代表取締役から担当部署に向けて、B社に対し「満期をもって更新なく建物賃貸借契約が終了する旨」を通知するよう指示がありましたが、担当部署内の連絡の行き違いにより、B社に対し通知が何ら行われないまま、満期の3ヵ月前にそのことが発覚しました。

これを受けて、A社が緊急に社内会議を開いた所、①『取り急ぎ通知書を作成し、すぐに通知を行っておくのがよい』という意見と、②『甲ビル3階を自社営業所として利用するのは満期から半年後くらいになるため、ひとまず通知をせずに、満期時におけるB社の出方を待ってから対応しても間に合うのではないか』という意見に分かれました。

A社としては、B社とのこれまでの取引関係も考慮した上で、②の意見に立って行動することを予定しています。この場合、A社にはどのような法的リスクがあるでしょうか。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答

②の意見に立って行動すると、ケースによっては、明渡しを受ける時期が満期後6ヵ月を過ぎてしまうおそれがあります。相談事例の場合、A社としては、甲ビル3階を自社営業所として利用する予定を遅らせなければならない可能性があり、その結果として、予想外の損失を被ってしまうリスクがあります。

以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、定期建物賃貸借契約の概要について、説明します。

定期建物賃貸借(借家)契約とは

定期建物賃貸借契約を説明する前に、まず、建物賃貸借契約の基本的な事項について見てみましょう。

「建物賃貸借契約」とは、「借家契約」ともいい、賃貸人が、建物を賃借人に使用収益させ、これに対して賃借人が使用収益の対価(賃料)を支払うことを約束する契約です(民法601条、借地借家法26条以下など)。(以下、読みやすいように「借家契約」の方を使用して記述していきます。)
なお、ここでの「建物」に該当するか否かについては、構造上の独立性と、使用上の独立性によって判断されますが、いわゆる事業で使用するオフィスビルや、居住するためのマンションは、基本的にこの「建物」に該当するケースが多いです。

また、借家契約には、大きく分けて「普通借家契約」「定期借家契約」があります。

普通借家契約では、借家期間1年以上に設定すると、原則として更新規定(借地借家法26条1項)の適用があり、また、賃貸人から不更新通知や解約申入れをするに際し「正当な事由」が必要になります(借地借家法28条)。
つまり、不更新通知を怠ると、原則として、従前と同一の条件で借家契約が更新されてしまうことになります。さらに、賃貸人側から不更新通知や解約申入れを適切にしたとしても、必ずしも満期に建物の明渡しを受けることができるとは限らず、場合によっては、明渡しと引換えに立退料の支払などの負担を求められてしまうリスクがあるということです。

他方、定期借家契約は、満期をもって借家関係が更新なく終了する点に特徴があります。普通借家と違い、更新規定(借地借家法26条1項)の適用がなく、また、不更新通知や解約申入れに際し「正当な事由」が不要となります(借地借家法28条)。
さらに、定期借家の場合、賃料増減額請求(借地借家法32条1項)を排除する旨の特約を定めることができますので、賃料増減をめぐるトラブルを、あらかじめ防止しておきたいときにも、役に立ちます(借地借家法38条9項)。

したがいまして、定期借家契約は、賃貸人において将来(●●年後など)借家物件を他のことに運用する予定をしていたり、また賃借人の資力に不安がある等、借家関係を一定期間としたい場合に、賃貸人側にとって有効な手段の1つとなります。

なお、定期借家契約は、借家期間が1年未満(借地借家法38条1項)でも有効に成立しますが、「定期」という文言からも分かるように、満期をはっきりと定める必要があり、条件付きの終期(たとえば、「借家期間は、●●が成就するまでとする」など)を定めた場合、定期借家と認められないおそれがあるため、注意が必要です。

借家契約を結ぶ上で関連する法律としては、
民法、借地借家法、消費者契約法(賃借人が個人の場合)が考えられます。

本事例における契約関係

本事例においては、賃貸人であるA社からの相談になりますので、賃貸人側の目線において、通知義務のルールについて見ていきます。

通知義務とは

通知期間

定期借家契約において1年以上の借家期間を設定する場合には、賃貸人は賃借人に対し、満期1年前~6ヵ月前までの間(以下、「通知期間」とします。)に、『満期が到来したときは借家関係が終了する』旨を通知する必要があります(借地借家法38条6項)。
なお、一般的には、通知の方法は、書面に限定されず、口頭でもよいとされています。

ただし、もし、定期借家契約において転貸合意をしている場合(=賃借人が賃貸人の承諾を得て第三者(転借人)に又貸ししている場合)には、賃借人への通知と併せて、転借人に対しても満期をもって借家契約が終了する旨を通知しておかないと、その終了を転借人に対し主張できないので、建物の明渡しを受けるのが想定よりも遅くなってしまうリスクがあります(借地借家法34条)。

賃借人側で転貸が予定されている場合には、転借人に対してもきちんと通知をしておきましょう。

通知を失念した場合のリスクと対応方法

もし、この通知をしないと、満期になっても『借家契約が終了した』旨を賃借人側に主張できません。つまり、賃借人側から借家契約の終了を主張されない限り、満期になっても建物の明渡しを求めることができないため、注意が必要です。

通知を忘れてしまったら、この定期借家契約は、どうなってしまうのでしょうか?定期借家であることが認められず、普通借家契約とされてしまう(=建物を明け渡してもらうには、「正当な事由」が求められ、立退料などが必要となる)のではないか?と心配される方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、通知期間において、賃借人への通知を忘れてしまっても、下図に従って対応することで、建物の明渡しを求めることができます

 

  通知期間に通知を失念した場合
①建物の明渡しを求める方法 賃借人に対し追って、満期到来により借家関係が終了する旨の通知をする(借地借家法38条6項ただし書き)
※以下、この通知を「追通知」とします。
②建物の明渡しを求めることができる時期 ①の追通知から6ヵ月を経過後(借地借家法38条6項)。

※東京地判H21.3.19参照

万一、通知期間に通知を失念してしまった場合にも、できるだけ早い時点で建物の明渡しを受けられるよう、あせらずに対応することを心がけましょう。

本事例の解説

相談事例では、A社は、B社に対して、通知期間(満期1年前~6ヵ月前まで)に通知を失念しています。また、A社は、社内の②の意見に沿い、追通知をすることなく、話し合いをもって、B社から任意に甲ビル3階を返還してもらおうと考えています。

確かに、A社の期待するように、B社から任意に明け渡してくれる場合には、追通知をせずとも、満期後速やかに甲ビル3階の返還を受けることが期待できます。
しかしながら、もしB社が明渡しに協力してくれない場合には、A社は、結局の所、あらたに追通知をした後に6ヵ月を過ぎてから、甲ビル3階の明渡しを求めなければなりません。

特に、相談事例ですと、A社は、満期から半年後くらいに甲ビル3階を自社営業所として利用する計画でいますので、②の意見に沿って、満期後に対応しようとすると、その計画自体を遅らせなければならず、営業上の機会損失を被ってしまう可能性があります。

A社は、社内会議で出た①『取り急ぎ通知書を作成し、すぐに通知を行っておくのがよい』という意見のように、できるだけ早く「追通知」を行うのがよいでしょう。

おわりに

以上のように、定期借家契約には、更新がなく、賃借人に不利な内容となりうることから、建物の明渡要件が厳格に定められています。せっかく定期借家契約を有効に締結しても、必要な時期に通知を欠いてしまうと、建物の明渡しに遅れが生じてしまうおそれがあります。このことは、更新がないことを前提としてビジネスを計画している事業者にとってみると、不測の事態を招くリスクがあります。
したがって、定期借家契約を結ぶ際には、満期をもって適切に明渡しを請求するには、どのような対応をしておく必要があるかについて、あらかじめ確認しておくことが大切になります。
もっとも、借家契約の場合には、確認すべき事項が複雑になってしまうことが多く、確認に抜け落ちが生じてしまうケースもあるでしょう。したがいまして、必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします

※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。 慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。 2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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