- 2023.11.27
「ライセンス契約」とは、使用許諾契約ともいい、知的財産権で保護されている特許・意匠・著作物・商標等の実施や使用を、相手方に許諾する契約です。許諾する側を「ライセンサー」、許諾される側を「ライセンシー」といいます。ライセンス契約の内容に不備があると、ライセンサー側としては、正当なライセンス料を受け取ることができない、または知的財産を悪用される可能性もあり、一方、ライセンシー側としては、ライセンスが不要となった後もライセンス料を支払い続けなければならなかったり、契約終了と同時に在庫を販売することができなくなったりと、両社にとって思わぬトラブルに発展することも少なくありません。今回はライセンス契約において、特に注意しておきたいチェックポイントについて詳説します。
ライセンス契約の種類について
ライセンス契約には、特許ライセンス契約、意匠ライセンス契約、著作権ライセンス契約、商標ライセンス契約、ソフトウェアライセンス契約、キャラクターライセンス契約など様々な種類があります。
「特許ライセンス契約」とは、特許権によって保護される技術の実施を許諾する契約です。
「意匠ライセンス契約」とは、意匠権によって保護されるデザインの実施を許諾する契約です。建築物の形や模様、表示画像等がライセンスの対象となります。
「著作権ライセンス契約」とは、著作権によって保護される創作物の利用を許諾する契約です。創作物である文芸・学術・美術・音楽に関する物がライセンスの対象です。
「商標ライセンス契約」とは、商標権により保護されている登録商標(商品名やロゴなど)の使用を許諾する場合に締結する契約です。
「ソフトウェアライセンス契約」とは、コンピュータで動作するソフトウェアの使用を許諾する契約類型です。ソフトウェアのプログラムが著作物に該当するため、著作権ライセンス契約の一類型となります。
「キャラクターライセンス契約」とは、アニメや漫画等に登場するキャラクターのコンテンツの利用を許諾する契約です。商品パッケージにキャラクターをプリントして販売したり、キャラクターを利用した二次創作を行ったりする場合に、このキャラクターライセンス契約を締結する必要があります。
特許権と実施権について
「特許権」とは自身が保有する特許発明の実施を独占できる権利のことをいい、原則として特許権者しか、その技術を使用できません。特許権を利用して発明した製品の製造や販売は、特許権者が独占して行うのが原則ですが、第三者に実施の権利を与えることも可能で、「実施権」はライセンシーが特許発明による製品の生産や使用、譲渡などの利用行為を行う権利のことをいいます。
通常実施権設定契約
通常実施権設定契約とは、ライセンス契約に規定された範囲内で知的財産を使用することができる契約です。権利者(ライセンサー)は、複数の使用者(ライセンシー)とライセンス契約を結ぶことができます。
専用実施権設定契約
専用実施権とは、知的財産を使用者(ライセンシー)のみが使える権利のことです。通常実施権と異なり、複数の使用者と契約を締結することはできません。
専用実施権の場合は、当事者間のライセンス契約の締結に加えて、特許庁で手続き(専用実施権設定登録申請)を行う必要があります。
クロスライセンス契約
クロスライセンス契約とは、特許権の権利者複数が互いの特許を使用することができるようにする契約類型です。通常のライセンス契約では、権利者は自分の知的財産を使用させる対価としてライセンス料を受領しますが、クロスライセンス契約では、相手方の知的財産が対価となります。
サブライセンス契約
サブライセンス契約とは、知財の権利者から実施許諾や使用許諾を受けた使用者が、さらに子会社等の第三者に使用等を許諾する契約類型です。
ソフトウェアライセンス契約
ソフトウェアライセンス契約とは、著作権ライセンス契約に該当し、ソフトウェアの著作権者がソフトウェアの使用者に対して、使用許諾をする場合に締結される契約類型です。特に、ソフトウェアを不特定多数のユーザーに販売したり配布したりするケースでは、この契約が締結されます。
フランチャイズ契約
フランチャイズ契約とは、利用者がブランドネーム(商標)や経営ノウハウを使用させてもらう対価として、権利者がロイヤリティ(ライセンス料)を受け取るという契約です。コンビニや居酒屋、ラーメン店など、さまざまな業種で利用されている契約類型です。
ライセンス契約書の一般的な記載事項
第1条(定義)
契約書内で用いられる用語についての定義や、どの範囲の製品についてライセンスが受けられるのかという範囲を決め記載します。
第2条(実施許諾、使用許諾)
ライセンサーがライセンシーに、ライセンサーの保有する権利の実施・使用を許諾することについて記載します。
第3条(ライセンス料及び支払方法)
ライセンス料とその支払方法について規定します。
一時金の有無、ライセンス料の計算方法などもこの項目に記載されます。
第4条(権利維持)
契約期間において、ライセンサーはライセンスの対象となる権利の維持に努め、ライセンシーはライセンサーに協力することを記載します。
第5条(報告義務)
ライセンス料の算定のために必要となる、売上、利益、製造個数、販売個数など、ライセンシーがライセンサーに定期的に報告する事項について記載します。
第6条(帳簿の保管と検査)
ライセンサーに売上や販売個数を報告する場合に必要となるため、ライセンシーに対して帳簿の保管と、帳簿を閲覧可能にしておくことや、ライセンサーによる立入検査の規定等について記載しておきます。
第7条(表示義務)
ライセンスによる商品や製品に、ライセンサーの特許権や著作権、商標権などの権利の表示を義務付ける場合は、その旨およびどのような表示とするかについて規定します。
第8条(契約有効期間)
ライセンス契約の契約期間、契約更新、更新拒絶期間等について記載します。
第9条(契約解除・解約)
相手方に契約違反があった場合等に契約を解除できることや、中途解約の場合の定めなどを記載します。
第10条(権利及び義務の譲渡禁止)
ライセンス契約に基づく権利や義務を他社(第三者)に譲渡することを禁ずる場合は、その旨を明記しておきます。
第11条(準拠法と合意管轄)
本ライセンス契約の準拠法と、訴訟等のトラブルの際に、どこのどの裁判所で第一審の審理を行うかについて規定します。
ライセンス契約書ひな形利用の危険性について
一般に公開されているひな形は、そのまま使用することはおすすめしません。その時に締結しようとするライセンスの個別の事情に適合した具体的な契約条項について追加・修正等し、さらに自社に不利な条項がないかを確認する必要もあります。
ライセンス契約の種類ごとのポイントやリスクを考慮する
ライセンス契約には様々な種類があり、それぞれ慎重に検討すべき点やリスクが異なります。
契約書のひな形は参考にはなるものの、一般的な内容にとどまる規定が多く、実際の契約に適合しないことが多いため、少なくない修正が必要になります。
自社の経営戦略との適合性を考慮する
ひな形には自社の将来を見据えて、経営戦略に沿った契約条項を入れることが重要です。契約書の中に、のちのち自社の経営戦略に合わなくなることが予想されるような内容が入っている場合は、修正する必要があります。
ライセンス契約書を作成する際のチェックポイント
ライセンス契約書作成時の基本的な注意点をライセンサーとライセンシーの両社の視点から見ていきます。
独占的なライセンスの場合は独占の範囲や解約条項等について明記する
独占的なライセンス契約の場合は、ライセンサー側としては、独占の範囲を定め、特定の利用目的での利用についてのみ独占を認めるなど独占の範囲を明確にし、限定するような工夫を検討しましょう。
また、ライセンス料や解約条項も工夫して記載しておくことが必要になります。
ライセンス料の最低額を設定すること、また一定期間ライセンス事業を行わない場合は契約を解除できる条項を設けておくなど、自社にとって不都合のない形で記載するようにしましょう。
契約期間が適切かどうか確認する
長期的な事業のために必要なライセンス契約の場合は、事業の途中で契約が終了してしまうと、ライセンシーにとっては、在庫の販売ができなくなるなど事業に重大なダメージが生じることになるため、契約期間の設定は十分検討する必要があります。
ライセンス料を適切に設定する
ライセンス料は契約期間中に継続的に発生することになるため、慎重に検討する必要がある項目です。ライセンサーとライセンシーの両社とも、ライセンス料や関連する規定が自社のビジネス上適切かを必ず確認しましょう。
例えば、ライセンスによる事業が失敗するなどした場合でも、ライセンス契約が解約できない内容の契約になっている場合、契約期間中はライセンス料を払い続けなければならないことになりますので、ライセンシー側は、特に注意が必要です。
また、ライセンサー側としては、ライセンシーにロイヤリティを実際よりも少なく申告されることが無いよう、証拠書類の提出や立入検査等の規定を定めておくと良いでしょう。
類似品禁止条項については慎重に検討する
ライセンス契約では、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス商品に類似する商品の製造、販売を禁止する契約条項を入れるように求めるケースがあります。
ライセンシー側としては、このような類似品禁止条項を契約書に入れると、自社の既存製品が類似品に該当し、販売ができなくなることもあるため慎重に検討しましょう。
契約終了後の在庫の販売を可能にする
ライセンス契約終了と同時にライセンス商品の販売ができなくなると、ライセンシーが在庫をかかえてしまい不都合が生じることがあるため、在庫についてはライセンス契約終了後も販売できるようにするなど柔軟な対応が必要です。
まとめ
デザインや技術、ノウハウなどの知的財産は、その権利がないがしろにされるケースも多くみられます。これは各種技術の発達により、他者の知的財産を簡単にコピーして利用できてしまうなど、ビジネスを取り巻く環境が大きく変わってきていることにも起因しています。しかし、特許技術等は知的財産であり、取り扱い方によって大きな利益を得られる可能性もあれば、損失を被るリスクもあります。ライセンス契約は、ライセンサーとライセンシーが、お互いの財産を守ることを意識し、慎重に契約を結ぶように注意しましょう。
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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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