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2023.08.01
スクールビジネス等の継続的なサービス提供における法的注意点と契約書のポイント

特定継続的役務提供においては、契約書は双方の権利や義務を明確にするために必要不可欠です。契約書を明確に作成し、注意点や必要事項を盛り込むことで、トラブルの予防にもつながります。今回は特定継続的役務提供の概要と契約書作成時に注意すべき点を解説します。

特定継続的役務提供とは?長期継続的役務との違い

長期継続的役務とは、定期的なメンテナンスや監視業務のような継続的なサービスのことですが、特定継続的役務提供とは、サービスの提供受領者の身体の美化、知識・技能の向上などの目的を実現させることをもって行われるサービスではあるものの、その目的の達成が確実でないという特徴を持つ有償のサービスのことをいい、特定商取引法施行令で7種類が指定されています。特定継続的役務提供に当たる取引では、長期間にわたってサービスの提供が行われ、また事前にサービスの性質を判断することが難しいため、サービスの内容や提供条件を消費者に確認してもらうために、契約書を作成することが必要です。契約書には、双方の権利義務や料金・報酬などの取り決めが明確に記載されるため、双方の信頼関係を築き、円滑なビジネスの進行を図る役割もあります。

特定継続的役務提供にあたる7種類の取引

特定商取引法施行令で指定されているものは下記の7種類で、いずれも関連商品等を含め総額が5万円を超える金額のサービスが該当します。

家庭教師、語学教室、学習塾、パソコン教室、エステ、美容医療、結婚相手紹介サービス

  • 家庭教師は、学校の入学試験に備える為の補修として学習塾以外で提供されるもので、2か月を超える契約期間があるものが対象となります。
  • 語学教室は、入学試験に備えるものや大学以外の学校における教育の補習以外のもので、2か月を超える契約期間があるものが対象となります。
  • 学習塾は、学校の入学試験に備えるものや大学以外の学校に在籍する児童、生徒の学力の補習を対象として事業所などで提供されるもので、2か月を超える契約期間があるものが対象となります。
  • パソコン教室は、パソコン操作の技術習得の為の講習で、2か月を超える契約期間があるものが対象です。
  • エステは、美容医療以外の身体の美化を目的とした施術で、契約期間が1ヶ月を超えるものが対象となります。
  • 美容医療は、身体の美化を目的とした医学的処置、手術及び治療のうち省令で定める一定の方法によるもので、契約期間が1ヶ月を超えるものが対象となります。
  • 結婚相手紹介サービスは、希望者に結婚相手の候補を紹介するもので、契約期間が2か月を超えるものが対象となります。

プログラミングスクールは「特定継続的役務」に該当するのか?

近年ではパソコン教室に加え、プログラミング教室も多くみられるようになってきました。
インターネットを通じたプログラミングの教育について「特定継続的役務」に該当するかどうか、曖昧な点がありましたが、経済産業省にて検討され、下記の通り回答が公表されました。それによると、パソコン操作に関する知識や技術の教授とプログラミングに関する教育が一体不可分とならない限り、「特定継続的役務」に該当しないとされています。

参照:インターネットを通じたプログラミング教育の提供について
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/141225_press.pdf

特定継続的役務提供事業者が守らなければならない重要なルール

特定商取引法では、消費者を保護するためのルールがいくつか定められていますが、ここでは、次の4つについて理解しておきましょう。

クーリング・オフ

特定継続的役務提供にあたる場合、法定記載事項を満たした契約書面を交付した日から8日間は、消費者から申し出があれば、クーリング・オフとして契約の取り消しに応じる必要があります。事業者が、事実と異なることを告げたことで、消費者が誤認してクーリング・オフをしなかった場合には、上記期間を経過していても、消費者はクーリング・オフすることができます。

中途解約

8日のクーリング・オフ期間が過ぎた後でも、サービス提供期間内であれば中途解約に応じる義務があります。
ただし、この中途解約はクーリング・オフではないため、既にサービスを提供した分の対価は請求することができます。また、キャンセル料(中途解約の場合の違約金)を請求することも可能ですが、中途解約の時期に応じて請求できる上限額が法律で定められています。

契約書面の作成・交付

特定継続的役務提供のサービスを提供するためには、契約の締結前に「概要書面」を消費者に交付し、契約の締結後に「契約書面」を消費者に交付することが事業者に義務付けられています。書面については法律で記載事項が詳細に定められており、法定記載事項を洩れなく記載した書面を渡すことが必要です。そのほか消費者に対する注意事項として、書面をよく読むべきことやクーリング・オフに関する事項について、赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。さらに、「書面の字及び数字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であること」とされていますので、こちらにも注意して作成しましょう。

決算書の閲覧に応じる

サービスを提供する前に5万円を超える金額を前払いさせる「前払い方式」の場合は、消費者から事業者の財務内容などについて書類を閲覧したいという要望があれば、事業者は応じなければなりません。求めに応じることができるように業務および財産の状況を記載した書類、決算書などを用意しておくことが義務付けられています。

違反するとどうなる?ルールを守らない場合の罰則・制裁

概要書面、契約書面を渡さなかった場合や法定記載事項を満たしていないこれらの書面若しくは虚偽の記載のある書面を交付した場合、6カ月以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。
また、概要書面、契約書面を交付していない、あるいは交付していても不備がある場合、正しい書面を改めて渡す必要があり、同書面を渡してから8日経過するまではいつでもクーリング・オフができることになります。
さらには管轄庁から是正指導や最大2年もの業務停止処分を受ける可能性があります。
たとえ短期間の停止であったとしても処分を受けたことで自社の信頼を落とすことに繋がるため、違反とならないように十分注意しましょう。

まとめ 

特定継続的役務の提供については実物の取引でないことから消費者トラブルが発生しやすい取引形態でもあるため、特定商取引法では契約に関して詳細に規定が定められています。特定商取引法や消費者契約法を意識せずに契約書を作成した場合、これらの法律に違反し、予期せぬかたちで返金請求を受けるということになりかねません。特定商取引法以外にも違反する表示がないか、総合的にチェックを行うことが大切です。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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