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2023.08.01
ベンチャー企業の資金調達には注意が必要!投資契約書について弁護士が解説

投資家から株式発行によって出資してもらう際の契約書を投資契約書(出資契約書)といいます。投資契約書では、投資に関する基本的な条件、株式に関する事項、会社の運営内容、投資の前提条件、または投資からの撤退条件など、様々な危険性を含む状況を想定して記載事項を十分に精査し、内容について双方の理解を得ることが大切です。今回は投資契約書の基本的な事項と投資契約書を作成する際の注意点を解説していきます。

投資契約書とは何か。投資契約書が必要な理由とは

投資契約とは、創業して間もないベンチャー・スタートアップ企業が資金調達をするために、投資家に出資してもらう際に締結する契約のことをいいます。
投資家が株式会社に対して出資を行う際には、投資契約書の作成は義務ではありませんが、実際上、投資契約書は必要といえます。なぜならば、投資家側の立場では企業価値評価や株式相場などをよく理解せずに投資してしまう危険性があるからです。トラブルによって損失を受けないためには、投資契約書に投資の前提条件や株式に関する条項などを盛り込んでおき、万が一問題が生じた場合には契約を解除することや損害賠償の請求をすることができるよう、定めておくことが重要といえます。

創業者、発行会社の立場からみた投資契約書のチェックポイント

資金調達の必要性を優先するあまり、契約書の内容を十分理解しないままに、投資家側の意向に偏った内容の投資契約書を受け入れてしまうケースがあります。創業者、発行会社の立場からは、経営の自由度の確保、自社の責任の範囲の限定等の観点からリーガルチェックを行うことがポイントとなります。また、弁護士は、これまで多くの企業が取り組み、トラブルになった事例などを熟知していますので、相談のうえ、契約条項については十分に確認して投資家との間で条件についての交渉を行うことが必要になってきます。

投資契約書の一般的な記載事項

投資契約に定めるべき基本的な内容として、払込期日や実際に出資する額の合計以外にも、次のような項目があります。

・株式の種類(普通株式・優先株式など)
種類株式とは、権利の内容が異なる株式をいいます。どのような権利が付与されるかは、定款の定めを前提に投資契約書ごとに個別に規定され、普通株式と区別するために、優先株式、劣後株式等と呼ばれます。

・表明保証
会社や創業株主が、投資家に対して、発行会社の事業内容や財務状況の内容が正しいことを証明し、反社会的勢力との関与がないことや、事業に関して法令違反がないことなどを、保証する条項です。

・投資実行の前提条件
投資の実行日までに、表明保証した内容に虚偽が発覚した場合や、投資契約書への違反が発覚した場合には所定の条件を達成しない限り、投資を実行しないことがここに規定されます。

・契約違反があった場合の取扱い
投資家は出資資金の引き揚げのために株式の買い取りを請求することができる内容や契約違反によって受けた損害を賠償請求することができるとする内容を記載します。

・契約の終了
契約を終了する要件が規定されます。具体的には、発行会社が上場申請をした場合や、投資家が株式を譲渡すること等により、発行会社の株主ではなくなった場合の定めを記載します。

・その他の条項
以上の条項のほかに、投資家が自己の株式を譲渡することについて発行会社と経営株主の同意を要件とする条項、補償に関する条項、株式発行後の義務として投資家に対し財務状況を開示する条項などもあります。また、一般条項として、秘密保持に関する条項、契約上の地位または権利義務の譲渡を禁止する条項、有効期間に関する条項なども記載事項とする場合が多いです。

投資契約書の印紙税について

投資資金の金額が大きい場合、印紙税も心配になるところですが、印紙税は法律で定められる特定の契約書にのみ適用される税金で、投資契約書は印紙税法上印紙税の課税文書として定められていないため、非課税となります。

投資契約書を作成する際の注意点

投資契約書を作成する際の注意点を見ていきましょう。

投資資金の使途が具体的に示されているか

投資家は、事業計画書を元に、発行会社の経営目標を達成するのに必要な資金を投資します。
しかし、経営者によっては投資資金を事業の拡大ではなく、意図的に別の目的で使用するリスクもあります。そこで、投資資金の使い道を具体的に定めるとともに、投資家の意図から外れないようにするため、実際に投資資金を使用する際には投資家への通知を必要とする旨を定めておくことも考えられます。

契約内容が法令に抵触していないか

民法の「契約自由の原則」によって、投資契約の内容は当事者の意思で自由に決めることができます。しかし、契約内容が保護を必要とする団体や消費者保護のための特別法で定められた規定に違反する場合、もしくは公序良俗に反するような場合には、契約の全部または一部が無効とされることもあります。投資する事業に関連する特別法があるかどうか、また、これがある場合には、契約内容と照らし合わせて問題がないかを事前に確認することが重要です。

トラブルになった際のリスクを考慮しているか

当初想定していなかった出来事により投資契約に関してトラブルになり、訴訟に発展することもあります。このような場合、合意管轄条項を設けていなかった場合、期日のたびに自社に不利な条件下で裁判所に行く可能性があります。このような移動時間や交通費の負担があることから、第一審の訴訟を審理する裁判所を合意して決めておくことも大切です。本店所在地を管轄する裁判所や東京や大阪等の大都市の裁判所にするなど、合意管轄条項も注意しておきましょう。

参考サイト、中小企業庁の雛形紹介

初めて投資契約書を作成する場合に参考になるのが中小企業庁による投資契約書の雛形です。
これは中小企業向けの投資契約書参考資料として解説も記載されていますので、事前に目を通しておく資料としておすすめします。
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/equityfinance/index.html
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/equityfinance/download/004.pdf

まとめ 

出資に際し、投資契約書を作成することは義務ではないですが、実際上、投資契約書の作成は必須といえます。とはいえ、契約書に記載された条項の意味を理解せずに、投資家にとって有利な内容の投資契約書を受け入れてしまう等、よくあるトラブルを防ぐための規定を記載せずに締結してしまうケースも散見されます。契約書の確認は、必ず契約締結前に弁護士に相談し、契約内容のリスクを十分把握することと、場合によっては契約交渉により内容を修正してもらうことが重要です。契約書に記載された規定ひとつで多額のお金が動く可能性があるため、慎重に進めることが肝心です。投資契約書については専門家の契約書レビューが必須と考えてよいでしょう。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。 慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。 2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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