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2023.03.02
契約不適合責任とは?売買契約書で注意すべきポイントについて

契約書の作成は、民法や商法との深い関係があり、内容を理解しておくことが、適切な契約書の作成につながります。売買契約は、1回のみの取引なのか、継続的な取引なのかによって、交わす契約書に違いがあります。1回限りの契約の場合は、売買契約書に必須事項の内容を記載しますが、継続的な取引の場合には、納期など契約毎に変更になるものに関して、その都度、明記した個別契約書を作成し、他に共通する項目を「売買基本契約書」に記載し、二つに分けて作成するのが一般的です。本稿では、売買契約書の概要と商法第526条に係る注意点を解説します。

売買契約書の基本的な記載事項

売買契約書は、売主と買主との間で、商品やサービスの売買に関する合意を得る契約書です。1回限りの契約の場合には、商品の種類、数量、価格、納期、支払い条件、返品・交換条件など、重要な取引条件を明記します。以下では、基本的な記載事項を簡単に説明します。

基本合意

売買契約であることや当事者のうちどちらが売主となり、どちらが買主になるのかを明確に記載します。

目的物

売買の対象となる目的物の商品名や数量を記載します。
売主は、後から照会が必要になる場合も想定して、型番や製造番号など個々の商品を特定することができる記載をしておくとよいでしょう。

引渡し

商品を買主に引き渡す期日、引き渡す場所について記載します。
また、引渡し日までの保管費用や引渡し場所までの運送費もこちらに記載します。これらの費用について、買主、売主のどちらが負担するのかも記載しておきましょう。

代金の支払

代金の額、支払期日、支払方法(銀行振り込みかなど)、支払手数料の負担者などについて記載します。

所有権移転時期

所有権移転時期については、当事者間で合理的と思われる所有権移転時期を規定しておきます。一般的には、買主が受領すべき目的物が定まる時点(検査合格時)を移転時期とすることが多いでしょう。

危険負担

自然災害など、いずれの当事者にも責任なく、目的物が滅失・毀損したときに、買主が代金を支払う必要があるのかをめぐってトラブルになるおそれがあります。これを防ぐために、契約で、危険負担を定めることが通常です。納品時や検査合格時等、いつの時点で危険が移転するかについて定めます。

検査

買主は、商品の納品を受けた後、商品に契約内容との不適合がないかどうかを検査するため、商品の検査方法や検査期間などを定めます。そして、この検査に関連する規定が商法526条に定められています。

遅延損害金

代金が期限までに支払われなかったときに、売主が買主に請求できる遅延損害金の利率について定めます。青天井は認められませんので、法律で定められている上限に従って設定します。

契約不適合責任

納品された商品に契約内容とは異なる点や欠陥、不具合、数量不足などがあった場合の対応について定めます。契約不適合責任は、2020年3月までは「瑕疵担保責任」と呼ばれていましたが、2020年4月の民法改正で、契約不適合責任と呼ばれるようになりました。

保証

契約不適合責任とは別に、売主が商品の品質等について保証する場合は、その内容を定めます。
商品が万が一、第三者の知的財産権を侵害していた場合の対応についてもこの中で定めます。

製造物責任

製造物責任(PL)法では、消費者は、製造物の欠陥で被害を受けた場合、メーカーなどの製造側に損害賠償を請求できます。消費者から損害賠償を請求された場合の、売主が負う責任の範囲について定めます。

解除

債務不履行を原因とする解除と、一般的な解除事由に基づく約定解除により、契約を解除できることを定めます。

協議事項

契約書に定めのないことについては、双方の協議により解決することを記載します。

合意管轄

売買についてトラブルが発生した場合に、どこの裁判所で審理するかに関する規定です。

商法第526条とは?

商法526条1項では、次のように記されています。

内容:商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない
商法526条は、法律で一定の規定はあるものの、それと異なる合意や定めをした場合には、当事者が自由に内容を変更できる「任意規定」にあたります。そのため、両当事者の合意に基づく限り、契約書の内容を自由に変更することが可能です。また、商法526条における「検査義務」は、相手が個人の場合の取引には適用されません。つまり、ビジネス(事業者)間の取引においてのみ適用される規定となります。

売買における検査義務とは?

買主は、商品やサービスなどの目的物が売主によって納品された後、遅滞なく目的物に欠陥や不備がないかを確認する必要があります。
続く商法526条2項には、次のような記載があります。
「買主は、前項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」
すなわち、検査の結果、万が一不備が見つかった場合、買主は売主に直ちに通知しなければなりません。これを、「売買における検査義務」と言います。

契約不適合責任で買主が請求できる権利

契約不適合責任の内容は大きく分けて、① 修補、代替品の引渡し又は不足分の引渡しの責任、② 買主側に損害が発生した場合の損害賠償責任、③ 売主側が修補等に応じない場合に、買主側から代金減額を求められれば応じる責任、④ 売主側が修補等に応じない場合は、契約解除の対象となるという4つがあります。つまり、買主は、これら4つに対して請求できる権利を持っているといえます。

目的物が契約不適合である場合の権利行使の期間制限

買主は、改正民法第566条にあるとおり、「不具合を知ったときから1年以内」に不具合の内容を売主に通知することが必要です。ただし、事業者間の売買では、商法第526条2項が適用され、売主は買主に対し、商品引渡し後6か月以内に不具合の内容を通知することが必要です。
買主としては、売買契約において、自社の利益を保護する観点から、たとえば、納品の際の検査(売主への通知期限)に必要な期間に余裕を持たせることや、契約不適合責任を請求できる期間を法律の定めよりも延長すること等が考えられます。

商法526条を踏まえて売買契約書に記載する必須事項

複数回に及ぶ継続的な取引の場合には、売買契約書の基本的な事項を記載した「売買取引基本契約書」に加えて、目的物・代金・納期など契約毎に変更になる点を、個別契約書にて具体的に記載しておく必要があります。そして、契約書の内容に関しては、あくまで売主と買主の双方の合意があった上で変更できるということを前提として覚えておくとよいでしょう。

それぞれの立場から見たポイント

買主が検査・契約不適合責任条項を修正する際のポイント

買主は、商法526条のままだと一定の期間が経過すると、売主に対して権利行使ができなくなってしまうため、契約書に特約条項を盛り込むなどの対応を検討しましょう。
例えば、検査ですぐに発見できない不具合があった場合に、6か月経過後でも、目的物の修補や代替物の引渡しが請求できるなどの特約条項が記載されていれば安心です。

売主が検査・契約不適合責任条項を修正する際のポイント


商法526条は、売主にとって有利な規定ではありますが、検査期間の延長などが盛り込まれている可能性がありますので、買主が契約書を作成する際は、しっかり内容に目を通す必要があります。また、売主は買主に不相当な負担を課さない限り、買主が請求した方法とは異なる方法で履行の追完をすることができますので(民法562条1項)、売主が指定した方法で履行の追完ができるように定めておくと有利です。
加えて注意しておきたいのは、商法526条の第3項に「売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。」と記載されているとおり、売主が商品に欠陥があると知っていた場合、商法526条2項は適用されないことです。

以上から、商法526条が適用されないケースについて改めてまとめると、「会社と個人の売買契約」、「個人と個人の売買契約」、「売主が欠陥や不備を知っていて、買主へ目的物を引き渡した場合」については対象外ということになります。

まとめ

商法が定める検査義務は「任意規定」にあたり、変更や修正が可能であることから、当事者間のトラブルの原因にもなりやすい項目でもあります。売買契約を締結するときには、検査義務について契約書にどのように規定されているか十分に注意する必要があります。契約書の確認は、自分で作成した場合はもちろん、相手から差し出された場合にも、契約締結前に十分に行うことが重要です。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。 慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。 2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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