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2023.01.30
消費者契約法で無効にならないキャンセルポリシーの作成方法

キャンセルポリシーとは、サービスを提供する事業者側が定めた、予約をキャンセルする場合の注意事項やルールのことであり、事業者側と消費者側、双方でキャンセルに対する共通認識を持つために作成します。予約時に消費者に提示し、同意してもらうことで、キャンセルに関するトラブルが発生した時、キャンセル料金請求の根拠や証拠として有効となります。しかし、こういったキャンセルポリシーが消費者契約法によって無効となってしまうケースもあることをご存じでしょうか。
今回は、無効にさせないキャンセルポリシーの作成方法と注意点について解説します。

キャンセルポリシーに関する消費者契約法の基本ルール

まず、「キャンセルポリシーに関する消費者契約法の基本ルール」について解説します。
消費者契約法9条1号では「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超える金額を徴収する内容のキャンセルポリシーは、その超える部分について無効である。」と定められており、消費者保護の観点から、消費者に一方的に不利な契約条項については無効とされています。キャンセルポリシーでは、主に「キャンセル料」や「違約金」などの名目で、あらかじめ事業者側で、損害賠償金の額を定めておくことがあります。

消費者契約法に基づいて無効になる契約条項とは

損害の額を超える高額なキャンセル料を定めるキャンセルポリシー以外にも、消費者の利益を不当に害する次のような契約条項は無効となりますので、注意する必要があります。

事業者は責任を負わないとする条項

事業者に責任がある場合でも、事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項や、事業者の故意または重過失による場合でも損害賠償責任の一部を免除する条項等です。
例えば「当社は、会員の施設利用に際し生じた傷害、盗難等の人的・物的ないかなる事故についても一切責任を負いません。」といった、たとえ事業者に責任がある場合でも、「損害賠償責任はない」とする条項は無効となります。
さらに、2018年の消費者契約法改正により、事業者が責任の有無や限度を自ら決定する条項も無効となりました。例えば、「当社が過失があると認めた場合に限り、当社は損害賠償責任を負うものとします。」といった条項です。

「法令に反しない限り」等、免責の範囲が不明確な条項(2023年6月施行)

賠償請求を困難にする不明確な一部免責条項(軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないもの)についても無効となります。
(無効となる例) 法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します。
(有効となる例) 軽過失の場合は1万円を上限として賠償します。

消費者はどんな理由でもキャンセルできないとする条項

「販売した商品については、いかなる理由があっても、ご契約後のキャンセル・返品、返金、交換は一切できません。」といった消費者の解除権を放棄させる条項も無効です。
なお、2018年改正で、「当社に過失があると当社が認める場合を除き、注文のキャンセルはできません。」というような、事業者が、消費者の解除権の有無を自ら決定する条項も無効となりました。

成年後見制度を利用すると契約が解除されてしまう条項

消費者が成年後見の後見開始等の審判を受けたことのみをもって、事業者に解除権を付与する条項も2018年改正で無効となりました。例えば、アパートの賃貸借契約において、 「賃借人(消費者)が後見開始の審判を受けたときは、賃貸人(事業者)は直ちに本契約を解除できる。」といった条項です。

遅延損害金の上限額を超えて定める条項

消費者の金銭債務の履行が遅れた場合の遅延損害金を定める場合、年利14.6%を超える遅延損害金を定める条項は無効となります。

消費者の利益を一方的に害する条項

任意規定の適用による場合に比べ、消費者の権利を制限しまたは義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効となります。例えば、「消費者から事業者に『健康食品は不要である』と電話をしない限り、健康食品の継続購入に同意されたものとして扱います。」といった条項です。つまり、消費者の不作為を新たな契約の申込みまたは承諾とみなすような条項は、無効となります。

消費者契約法で無効にならないキャンセルポリシーの作り方のポイント

では、「キャンセルポリシーに関する消費者契約法の基本ルール」を踏まえたうえで、キャンセルポリシーの作り方のポイントを見ていきます。

業種別にキャンセル料金を定める

消費者都合によりキャンセルした際のキャンセル料金や違約金については、取り扱うサービスの内容によって異なるため、業種ごとに考慮する必要があります。

飲食店・宿泊施設などの予約キャンセルの場合

飲食店や宿泊施設などの予約については、利用日までに日にちの余裕がある場合のキャンセルであれば、新たに別のお客様による予約を受け付けることが可能ですが、直前になると新規予約の受付は難しく、用意した食材や人員が無駄になる可能性が生じます。埋め合わせできない損益を考慮し、キャンセルの時期に応じたキャンセル料を設定するなどの対策が必要になります。

物販の予約キャンセルの場合

商品の購入予約に関するキャンセルは、オーダーメイドの商品や名入れを行ったものなど、キャンセルされた場合に他のお客様へ転売が困難な商品に対しては、キャンセルポリシーを入れることをお勧めします。その他、一般商品では、別の購入者に販売すれば損害が生じない場合が多いため、キャンセル料を定めても無効とされるケースがみられます。

特定継続的役務提供型サービスのキャンセルの場合

特定商取引法の対象となっている、パソコン教室、語学教室、学習塾、家庭教師、エステティック、美容医療、結婚相手紹介サービスの7つのサービスについては店舗、郵送、オンラインのいずれも、それぞれの業態別に、サービスの開始前の解約やサービス開始後の中途解約の際のキャンセル料の上限が決められています。該当する業種の場合は、特定商取引法の基準で設定しましょう。

無断キャンセルの場合のキャンセル料の算定方法

無断キャンセルの場合、転用できないで待ち続けている損失分が大きく、飲食店での席のみ予約の場合でも、長時間の機会損失が生じてしまいます。転用できる食材や人件費については損害賠償の対象からは除外とし、平均客単価の何割かを按分して損害賠償額とする考え方が一般的です。また、季節や繁忙期・閑散期でも算定方法は異なります。店舗の運営状況に応じた適切なキャンセル料の算定ができるようにしておきましょう。

キャンセルポリシーに盛り込むべき項目

キャンセルポリシーには、基本として下記5項目を記載するとよいでしょう。誤解を生むあいまいな表現は避け、具体的な連絡方法と連絡先、キャンセル方法について明確に記載しましょう。
①キャンセル可能な期間とキャンセル方法
②キャンセル料が発生する期間
③キャンセル料
④キャンセル料の請求・支払いについて
⑤キャンセル料の発生しない免責事項

キャンセルポリシーの必要性と重要性について

予約は法的な効力のない約束ではなく、破った場合に相応の賠償を行わなければならない「契約」です。
そのため、無断キャンセルや当日キャンセルが起こった場合、債務不履行として賠償を請求できる可能性があります。キャンセルポリシーがなくても、無断キャンセルや当日キャンセルに対してキャンセル料を請求できますが、請求金額について一々売上の平均などから計算しなければなりません。
事前にキャンセルポリシーを作成しておけば、いくら請求するか事前に同意が取れているため、スムーズな請求ができます。なお、キャンセルポリシーでは、無断キャンセルなどがあった後の店舗利用についても制限を設けることができます。例えば、「無断キャンセル後2〜4週間は予約できない」といった制限です。
このような制限を設けておくことで、一度無断キャンセルした予約者に制限を課すことができ、繰り返し無断キャンセルされる被害を減らすことができます。

キャンセルポリシーだけだと対策は不十分?より安心なキャンセル対策とは

キャンセルポリシーの作成は、消費者による無断キャンセルの減少に一定の効果があります。
ただし、実際に予約の無断キャンセルが発生してしまった場合には、法的に損害賠償請求権が認められるとしても、お店にとって損害を回収するのは至難の業で、泣き寝入りということもあります。そのため、キャンセル問題に対する自衛策として、以下のような仕組みづくりを行うことをお勧めします。
①前払い制やデポジット(預り金)制度導入する
②予約時に必ず相手の氏名、電話番号、メールアドレスを確認する
③予約時間の前日か数時間前にリマインドする
④無断キャンセルがあった場合に、代金を保証してくれるサービスに加入する

まとめ

自社のサービスの約款や利用規約でキャンセルポリシーを設ける際は、消費者契約法を意識して、取引の実情から見て妥当性のある範囲のキャンセル料が設けられているかという点が判断基準のポイントとなります。キャンセルポリシーは万能ではないため、対応できない部分については別途対策が必要になりますが、事前に定めておくことで不要なトラブルを避けることができます。まずは、キャンセルポリシーを確立し、周知することが大切です。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。 慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。 2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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