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2022.09.30
株式譲渡契約書とは?記載事項や作成時の注意点について解説!

株式譲渡をする際には、株式譲渡契約書(SPA : Stock Purchase Agreement)の作成が必要です。株式譲渡は会社の経営権が移転する場合や譲渡代金が高額に及ぶ場合があるなど極めて重要な取引であるため、契約書は不備のないよう慎重に作成しなければいけません。また株式にはさまざまな種類があり、二当事者間の合意に加えて当該株式会社の承認が無ければ譲渡できない場合もあります。株式譲渡契約書の基本的な内容と、法に基づいて注意が必要な点を解説します。

株式譲渡契約書とは?株式譲渡契約の目的は?

会社法第127条にあるとおり、原則として株式は、自由に譲渡できます。株式譲渡契約書とは、株式の譲渡人(売主)と譲受人(買主)との間で締結する契約内容を定めた合意書面です。株式を譲渡するという契約自体は、譲渡する側と譲受ける側に意思表示の合致があれば成立する「諾成契約」ですが、株券発行会社の場合は株券の交付がなければ譲渡の効力は生じず、また、全てのケースで株主名簿に譲受人の氏名又は名称及び住所が記録されなければ、当該株式会社や第三者に株式の譲渡を対抗(主張)することができないものとされています。

株式譲渡契約は、比較的簡易な手続きにより実行できるため、M&A取引の際によく活用されます。また、中小企業ですべての発行株式を社長が保有している場合などは、その株式を譲り受けた者が、事実上、新たな経営者になります。このように事業承継の方法として個人間で株式譲渡契約が交わされることもあります。どのような契約であっても契約書は重要ですが、内容が会社経営にも多大な影響を及ぼす可能性がある株式譲渡契約書は、特に注意して作成することが求められます。

株式譲渡契約書を作成する前に検討するべき注意点

作成前に検討するべき注意点として以下の3つを確認し、株式譲渡契約書を正しく作成しましょう。

注意点1:株券発行会社かどうか
会社法上、会社は「株券発行会社」と「株券不発行会社」にわかれます。
「株券発行会社」というのは会社の定款で株券を発行することを定めている会社であり、
「株券不発行会社」は株券発行会社以外の会社です。
会社法第128条第1項に定められているように、株券発行会社については、株式の譲渡の時に必ず株券を売主から買主に交付しなければならず、交付しない場合は、株式の譲渡が無効になります。従って、まずは譲渡の対象となる株式を発行した会社が、どちらの会社かを確認することが重要です。
株券発行会社かどうかは、定款で確認することが原則ですが、会社の登記事項証明書でも確認することが可能です。会社法施行前に設立された会社かどうかによって、法律上の扱いが異なるため設立日に注意して確認しましょう。

参考までに、以下が登記事項証明書による確認方法です。

1,会社法が施行された2006年5月1日より前に設立された会社
登記事項証明書に株券発行について何も記載がなければ、株券発行会社。
登記事項証明書に株券不発行会社であると記載されている場合は、株券不発行会社。
2,会社法が施行された2006年5月1日より後に設立された会社
登記事項証明書に株券発行について何も記載がなければ、株券不発行会社。
登記事項証明書に株券発行会社であることが記載されている場合は、株券発行会社。

注意点2:譲渡制限の有無
注意ポイントの2つ目は、株式譲渡について制限がある会社かどうかを確認することです。
日本の多くの中小企業では、会社の定款で、株式の譲渡については株主総会あるいは取締役会の承認を必要とするルールを定めています。このように譲渡に会社の承認が必要な株式を「譲渡制限株式」といいます。
譲渡制限株式を譲渡する場合は、譲渡される株式を発行した会社の株主総会、取締役会又は定款で定められた機関での承認手続きが必要になります。
承認手続きをしない、もしくは不備がある場合には、株式譲渡契約が無効になります。
譲渡制限株式かどうかについても、定款や登記事項証明書で確認することが可能です。

譲渡制限株式である場合は、定款で株式譲渡について会社の承認が必要であることが記載されています。また、会社の登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」の欄にも株式譲渡について会社の承認が必要である旨が記載されていますので確認するようにしましょう。

注意点3:株式譲渡の目的
株式譲渡の目的は多様であり、前述のM&Aや事業承継のケース以外にも、従業員持株制度や、退職する社員から株式を買い取るケース、共同で事業を営む外部の協力者に出資してもらい株主となることで事業上の責任を負ってもらうケースなどが挙げられます。契約書の条項をどこまで詳細に規定する必要があるかは、どのような目的で株式を譲渡するのかによって異なり、それに伴って契約書作成の際の注意点も変わってきますので、目的についてもあらかじめ確認しておきましょう。

株式譲渡契約書の記載事項

次に株式譲渡契約書の記載事項を解説します。

基本合意|対象株式の銘柄・種類・数

株式譲渡契約書の最も基本的かつ根幹的な内容として、譲渡の対象とする株式の銘柄・種類・数を記載します。譲渡する株式の数量の記載については、具体的な株式数を記載する方法と譲渡する株式数の割合を記載する方法の2つがあります。

①具体的な株式数を記載する方法の例:
「売主は買主に対して、A株式会社の普通株式100株を譲渡する。」
「売主は買主に対して、B株式会社のX種類株式500株を譲渡する。」

②譲渡する株式数の割合を記載する方法の例:
「売主は買主に対して、譲渡実行日時点における発行済株式数の40%に相当するC株式会社の普通株式を譲渡する。」

株式譲渡の対価

株式譲渡の対価は、売主(譲渡人)・買主(譲受人)間の交渉によって合意し、その金額を株式譲渡契約書に記載します。
例えば買収監査(デューデリジェンス)の結果、対象会社に関して何らかのリスクが判明した場合、譲渡対価の再調整が行われる場合もあります。譲渡対価は交渉事項なので、売主・買主双方の交渉術によって左右されます。

譲渡実行日、クロージングの手続

事業承継等の手続きを円滑に完了させるための最後の準備を整える期間を確保するため、株式譲渡契約書では、契約締結日と譲渡実行日を分けるのが一般的です。契約締結日から「数週間~1か月後」を目安として、譲渡実行日を株式譲渡契約書に明記しておきましょう。

また、株式譲渡を実行することを「クロージング」と呼びます。クロージングの手続の内容についても、株式譲渡契約書に規定しておくと、譲渡実行日までスムーズに手続きを進めることができます。事業承継等の手続きを円滑に完了させるための最後の準備を整える期間を確保するため、株式譲渡契約書では、契約締結日と譲渡実行日を分けるのが一般的です。契約締結日から「数週間~1か月後」を目安として、譲渡実行日を株式譲渡契約書に明記しておきましょう。
クロージングの手続に関しては、以下の事項などを定めておくとよいでしょう。

  • 譲渡対価の支払方法(振込先・書類の受渡等との同時履行など)
  • 株式の移転に関する手続(譲渡承認手続きの方法・株券の交付・株主名義書換など)
  • 会社法上の手続への協力義務

株式譲渡の実行前提条件

「実行前提条件」とは、譲渡実行日において当事者が満たすべき条件を意味します。当事者の一方が実行前提条件を一つでも満たしていない場合、相手方は株式譲渡を履行する義務を負いません。
一般的には、相手方の表明保証(3-5 表明保証を参照)の真実性及び正確性が確保されていること、クロージング前に履行すべき相手方の義務が履行されていること等が売主及び買主に共通する前提条件として挙げられます。

表明保証

「表明保証」とは、売主・買主自身や対象会社について、一定時点における一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証することを意味します。株式譲渡契約書では、買収監査で判明したリスクが表面化した際に、売主側に責任を負わせる目的で表明保証規定が設けられることが多いです。表明保証規定においては、売却する株式に関する事項(真実の所有者であること・株式に担保権等が付されていないこと等)や、対象会社の財務状態、対象会社の保有する不動産や知的財産権に関する事項、対象会社の従業員や労務問題に関する事項などを記載し、これらの記載事項が真実かつ正確であることを担保することが一般的です。具体的にどの事項を記載するかは、買収監査の結果を踏まえた売主・買主間の契約交渉によって決定されます。

遵守事項(実行前・実行後)

クロージングまでの間に、契約締結時における対象会社の状態を売主に勝手に変更されることを防ぐ目的で、株式譲渡実行前の遵守事項を株式譲渡契約書に規定しておきます。実行前の遵守事項の例としては、重要財産の処分禁止や役員の変更等重要な経営判断の禁止などが挙げられます。また、売主・買主間の契約交渉によって、株式譲渡実行後の遵守事項を規定する場合もあります。実行後の遵守事項の例としては、売主側の競業避止義務や適切に業務の引継ぎを行う義務、買主側の雇用維持義務などが挙げられます。

損害賠償

損害賠償に関する規定を記載しておくことで、表明保証や遵守事項への違反等、契約違反によって当事者に損害が発生した場合に備えましょう。損害賠償の範囲を民法のデフオルトルール通りとするか、それよりも範囲を広げるか、もしくは狭めるかについては、売主・買主間の契約交渉によって決定されます。

秘密保持

売主・買主間で営業秘密等のやり取りが多数行われるため、秘密保持に関する規定を株式譲渡契約書に記載しておく必要があります。秘密保持に関して規定すべき主な事項は、「秘密情報の定義」、「秘密情報の第三者への開示・漏洩等を原則禁止する旨」、「秘密情報の目的外利用の禁止」、「契約終了時の秘密情報の破棄・返還」、「秘密情報の漏洩等のインシデントが発生した際の対応」などが挙げられます。

契約の解除、反社会的勢力の排除

株式譲渡契約の締結後、譲渡実行日までの間に、重大な債務不履行(表明保証や遵守事項の重大な違反、実行前提条件の不充足)や対象会社に関する事情変更、天災地変等の不可抗力等が生じた場合に備えて、契約の解除に関して定めておきましょう。また、コンプライアンスの観点から、念のため、反社会的勢力の排除に関する条項(反社条項)を株式譲渡契約書に規定します。

合意管轄、準拠法

売主・買主間でトラブルが発生した場合に訴訟を提起する裁判所として当事者間で合意した管轄を合意管轄と呼び、自社の本店所在地を管轄する裁判所とするのが望ましいです。
自社が日本企業の場合、準拠法は日本法とすることが望ましいですが、相手方がグローバル企業の場合は、他の国や地域の法を準拠法とすることを提案される場合もあります。お互いに納得する形で、準拠法を定めておくことが大切です。

株式譲渡契約書に貼付すべき収入印紙の金額

株式譲渡契約書は、印紙税の課税文書ではないため、原則として収入印紙を貼付する必要がありません。ただし、株式譲渡代金が契約締結前に支払われており、株式譲渡契約書に譲渡代金受領の記載があり、「金銭の受取書や領収書」としての性質も有する場合には、収入印紙を貼付する必要があります。
貼付すべき収入印紙の金額は以下の通りです。

受取金額

印紙税額

5万円未満

非課税

5万円以上100万円以下

200円

100万円を超え200万円以下

400円

200万円を超え300万円以下

600円

300万円を超え500万円以下

1千円

500万円を超え1千万円以下

2千円

1千万円を超え2千万円以下

4千円

2千万円を超え3千万円以下

6千円

3千万円を超え5千万円以下

1万円

5千万円を超え1億円以下

2万円

1億円を超え2億円以下

4万円

2億円を超え3億円以下

6万円

3億円を超え5億円以下

10万円

5億円を超え10億円以下

15万円

10億円を超えるもの

20万円

受取金額の記載のないもの

200円

(出典:国税庁 –https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7141.htm

株式譲渡に必要な会社法上の手続

株式譲渡の取引を実行するに当たっては、株式譲渡契約書の締結に加えて、以下の会社法上の手続を実行する必要があります。

会社に対する株式譲渡承認請求

中小企業の株式の多くは、譲渡に会社の承認を要する譲渡制限株式に当たります。譲渡制限株式を第三者に譲渡する場合、会社法第138条第1項第1号に従い、売主は、譲渡を希望する譲渡制限株式の数(会社が種類株式を発行している場合は、株式の種類及び数)と譲受人の氏名又は名称を記載した「株式譲渡承認請求書」を会社に提出して、株式譲渡を承認するか否かの決定を請求する必要があります。

会社の株式譲渡承認決議

売主による株式譲渡承認請求を受けて、会社は承認に関する機関決定を行います。株式譲渡を承認する会社の機関は、以下の3種類です(会社法第139条第1項)。

  • 定款に定めがある場合は、定款に定められた機関(例:代表取締役)
  • 定款に定めがなく、かつ取締役会設置会社の場合は、取締役会(出席取締役の過半数による決議)
  • 定款に定めがなく、かつ取締役会設置会社でない場合は、株主総会(普通決議)

株券の交付

株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないと定められています(会社法第128条第1項)。株式譲渡対価の支払いの際に、売主から買主に株券を交付します。売主が株券の発行をうけていない場合でも、会社に対して株券の発行を請求し交付を受けた上で株式の譲渡を行い、株券を買主に交付する必要があります。株券発行会社の場合でも、次の5-4で解説する株主名義書換請求は行う必要がありますが、株券の交付を受けた場合には、株券を提示して譲受人(買主)の単独で名義書換の請求ができます。

株主名簿への記録

株主名簿は、会社が株主として取り扱うべき者を記載した名簿です。会社法第130条第1項に定められたとおり、株式譲渡の事実を会社や第三者に対抗するためには、株主名簿にその事実(株式を取得した者の氏名又は名称及び住所)を記録しなければなりません。会社側は株主名義書換請求を受けたら、書き換えの手続きを行い、譲受人(買主)に対して「株主名簿記載事項証明書」を交付します。

株主名義書換請求は、原則として売主・買主が共同で行う必要があります(会社法第133条第2項)。そのため、株式譲渡契約書において、株主名簿への記録の手続き及び記録に関する売主の協力義務を規定しておきましょう。

株主名簿への記録の完了によって、株式譲渡の一連の手続きが完結し、正式に株式譲渡の効力が発生します。

株式譲渡契約書におけるその他の注意点

契約書の記載項目以外に、株式譲渡契約において注意すべき点をいくつか紹介します。

株式譲渡契約書に保管期間はあるか?

株式譲渡契約書を作成した当事者が法人である場合は、契約書全般の保管期間が法人税法により基本的に「7年間」(契約書作成の日が所属する事業年度における、確定申告書の提出期限の翌日から7年間。欠損金の生じた事業年度は「10年間」)と定められています。個人間の契約では、法律上の定めは特にありませんが、確定申告に契約書を使用した場合であれば、所得税法により「5年間」の保管が義務付けられています。

個人間の取引であっても株式譲渡契約書は必要か?

個人間の株式譲渡であっても、金銭に関するトラブル防止のため、契約書は必ず作成しましょう。また、譲渡制限株式の譲渡を希望する際の発行会社による株式譲渡承認決議の必要性や、株主名簿への記録の重要性などは個人であれ、法人であれ変わるところはありません。契約書に法定の手続き及び手続きへの協力義務について記載しておくことで、取引を円滑に進めることができます。

有限会社が株式譲渡契約書を交わすことは可能か?

2006年5月1日の会社法の施行に伴い、かつて「有限会社」と呼ばれていた会社は「特例有限会社」(株式会社)として存続することになり、従来の「持分」が「株式」と呼ばれるようになりました。そのため、現在、特例有限会社として存在している会社が発行する株式を譲渡することは可能です。ただし、特例有限会社の株式には譲渡制限があるので、譲渡制限株式の譲渡契約と同様の注意が必要です。

まとめ

会社間はもちろん、個人間であっても株式を譲渡する際は、株式の種類に伴う必要な手続きや株主名簿への記録等、会社法に定められた手続きの規定を守り、必ず契約書を作成しましょう。特に、表明保証や遵守事項の内容については、損害賠償請求など不要なトラブルに発展することを防ぐためにも、慎重に検討・協議した上で作成してください。大口の株式譲渡や事業経営に関わる株式譲渡の場合は、専門家に助言を求めることをおすすめします。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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