- 2022.07.01
英文の契約書には「一般条項」が頻出します。一般条項とは、多種類の契約書に共通して適用される条項です。
一般条項を理解しておくと英文契約書の内容を正しく把握しやすくなり、契約締結の際の役に立ちます。
この記事では英文契約書によく出てくる「一般条項」とは何か、どういった条項例があるのか、英文契約に専門的に取り組んでいる弁護士が解説します。
目次
- 1 英文契約書の一般条項とは
- 2 各条項に関する解説
- 2.1 契約期間(Term)
- 2.2 契約解除(Termination)
- 2.3 契約終了の効果(Effect after Termination)
- 2.4 不可抗力(Force Majeure)
- 2.5 秘密保持(Confidentiality)
- 2.6 通知(Notice)
- 2.7 時間厳守(Time of the Essence)
- 2.8 期限の利益喪失(Acceleration)
- 2.9 契約譲渡(Assignability)
- 2.10 権利放棄(Waiver)
- 2.11 損害賠償の予定額(Liquidated Damages)
- 2.12 表明保証(Representation and Warranties)
- 2.13 見出しの効力(Headings)
- 2.14 ハードシップ(Hardship)
- 2.15 責任否定(Disclaimer)
- 2.16 信義誠実の協議(Good Faith Negotiation)
- 2.17 裁判管轄(Jurisdiction)
- 3 英文契約特有の条項の例
- 4 英文契約を締結するうえで注意すべきポイント
英文契約書の一般条項とは
英文契約書によく出てくる「一般条項」とは、契約の種類にかかわらず共通して規定される一般的な内容の条項の総称です。
英米は契約社会です。日本より契約書をきちんと作成する文化が根づいており、契約書についても日本より細かい規定が置かれることが多数です。
契約書一般に通用する「一般条項」についても日本の契約書よりも細かく規定内容が多くなっています。ただ内容的にはほとんど共通なので、一度理解しておけばどのような種類の契約書であっても概要を把握できるようになります。
日頃から英文契約書に触れる機会のある方は、ぜひ一般条項について理解を深めておくようおすすめします。
一般条項と実質条項の違い
一般条項は、契約の解釈や適用方法、紛争解決方法などの事項について定型的に定めるものです。これに対し、契約書の本文で内容を定める条項を「実質条項」といいます。
契約書を作成する際には、まずは実質条項を記載し、その後に一般条項を記載するケースが多数です。
一般条項と実質条項を区別できるようになると、どの部分が契約固有の問題なのかがわかるので、より焦点をしぼった契約交渉ができるようにもなります。
各条項に関する解説
一般条項には一定のパターンがあります。以下では英文契約書で具体的にどういった条項があるのか、例を挙げて解説します。
契約期間(Term)
契約期間(Term)は、当該契約の存続期間を定める条項です。通常は契約が発効する日にちと契約の期間が終了する日にちを規定します。どのような契約でも契約期間を定めるのが一般的なので、契約期間に関する事項は一般条項に含まれます。
契約解除(Termination)
契約解除(Termination)は約定によって契約解除を定める規定です。
たとえば以下のような場合に解除が認められるケースが多数です。
- 相手方が債務不履行を起こした
- 相手方が財政的に破綻した
契約終了の効果(Effect after Termination)
契約終了の効果(Effect after Termination)とは契約が終了した後に当事者が負う義務を定める条項です。
契約が終了したからといって、すぐに効果がなくなるとは限りません。
たとえば秘密保持義務や競業避止義務については契約が終了した後もしばらく継続させる必要性が高いといえます。
この場合、一般条項としての契約終了の効果の項目にて明記しておく必要があります。
不可抗力(Force Majeure)
不可抗力(Force Majeure)とは契約期間中に災害など当事者に責任のない事情によって契約上の義務を果たせなくなったときの責任について規定するものです。
不可抗力の場合にまで義務を課すと酷になるので、一般的には責任を免除する内容とします。
秘密保持(Confidentiality)
秘密保持(Confidentiality)は日本の契約書にもよく盛り込まれる条項です。
契約当事者が指定された相手方の秘密情報を第三者に漏らしたり契約で定めた目的以外に利用したりしないことを約束します。
契約する際には相手に情報を提供しなければならないケースが多々ありますが、情報を漏洩されたり不当に利用されたりすると不利益を受けてしまいます。このことからすると秘密保持条項は多くの契約において必須といえるでしょう。別途「秘密保持契約書」を作成するケースも多々あります。
通知(Notice)
通知(Notice)とは契約当事者が相手方へ通知や連絡をする方法を規定する条項です。
たとえば書面なのかメールなのか口頭なのかなどの「方法」、どの住所の誰に通知すればよいのかなど「宛先」、通知はいつ法的に有効となるのかなどを定めます。
時間厳守(Time of the Essence)
時間厳守(Time of the Essence)とは、時間や期限が重要であることを確認するための条項です。時間厳守条項を入れると、期限までに契約上の義務を履行するよう強く求める根拠となります。
期限の利益喪失(Acceleration)
期限の利益喪失(Acceleration)は日本の契約書にもよくみられる規定です。
期限の利益とは、分割払いできる利益です。
ただし一定期間や一定額分割払いを怠ると、分割払いができなくなってそのときの残債を一括払いしなければなりません。それが期限の利益喪失です。
たとえば金銭消費貸借契約や割賦販売などにおいて期限の利益喪失条項を定めるケースがよくあります。
契約譲渡(Assignability)
契約譲渡(Assignability)とは契約上の権利義務を第三者に譲り渡すことを意味します。
契約上の地位を勝手に移転されると相手方当事者にとって不利益となるので、通常は無断譲渡が禁止されます。
権利放棄(Waiver)
権利放棄(Waiver)とは、相手方の責任を追求する権利を放棄することです。
一般条項で定める場合、相手方が契約違反行為をしたときにすぐに抗議せず違反行為が認められてしまっても、権利を放棄する意味ではないという内容を定めます。
すなわち後日にまた同じような問題が発生すれば、相手方を免責させないという確認です。
損害賠償の予定額(Liquidated Damages)
損害賠償の予定額(Liquidated Damages)は日本の契約書でもよくみられる条項です。
当事者が債務不履行や契約違反行為をした場合などのける損害賠償金額を取り決めておくための規定です。
損害賠償の予定額を定めておくと、被害者が損害額を立証しなくて良いのでスムーズに賠償請求を進めやすくなります。
表明保証(Representation and Warranties)
表明保証(Representation and Warranties)も日本の契約書でもよく定められる規定です。
当事者がある事実を正しいと明確に表したり、ある権利が実際に存在することを保証したりします。たとえば「契約当時に開示した資料が真正であること」「契約当時において破綻の可能性がないこと」などを表明保証するケースがよくあります。
表明保証違反によって損害が発生した場合、通常は相手方に対して損害賠償請求が可能となります。
見出しの効力(Headings)
見出しの効力(Headings)は契約条項につけられる「見出し」は便宜上のものであり、実質的な拘束力を持つものではないことを明らかにするための規定です。
ハードシップ(Hardship)
ハードシップ(Hardship)とは経済状況の悪化などにより契約当時と状況が変わり、債務の履行が困難となった場合や履行させることが不公平になった場合などに契約条件を見直したり変更したりするための条項です。
ハードシップが適用される場合、当事者が協議して今後の対応を定めるのが一般的です。
日本法では「事情変更の原則」とよばれます。
責任否定(Disclaimer)
責任否定(Disclaimer)とは契約書で定める以上の責任が発生しないことを確認するための規定です。
信義誠実の協議(Good Faith Negotiation)
信義誠実の協議(Good Faith Negotiation)とは、契約に関して問題や認識の齟齬が発生した場合などに当事者が誠実に協議して解決すると定める条項です。
日本の契約書でも似た条項がもうけられるケースがあります。
裁判管轄(Jurisdiction)
裁判管轄とは紛争が発生した際にどこの国のどの裁判所で解決するかを定める規定です。
あらかじめ当事者の納得する裁判管轄を指定しておけば、いざ紛争が起こったときにその裁判所で紛争を解決できるので便利です。もしも裁判管轄を定めておかなければ法律によって管轄が決まるので、当事者にとって不便な管轄となってしまう可能性もあります。事前に合意できるなら、両当事者にとって便宜で公平な場所を指定しておくのが得策です。
ただし当事者の指定した管轄は必ずしも有効になりません。裁判地の法律により、国際的管轄の合意が有効にならないケースがあるためです。不利益を避けるには、事前に指定しようとする裁判所の所在する国でどういった法律の規定が置かれているか調べておく必要があります。
なお裁判管轄の合意には、専属的(exclusive)裁判管轄と非専属的(non-exclusive)裁判管轄があります。専属的な場合、指定した裁判所だけに管轄が認められます。
一方非専属的な裁判管轄の場合、合意した裁判所以外にも法定管轄も認めます。
日本の企業が裁判管轄を定める場合には日本の裁判所を指定しておくと、利益にかなうケースが多数です。どうしても相手国の裁判所を管轄としなければならない事情があっても、非専属的合意管轄としておいて日本の裁判所にも管轄が認められる可能性を残しておくべきと考えます。
英文の契約書を作成する際には、日本企業同士の契約書のケース以上に専門的な知識が必要です。一般条項だけではなく実質条項についての交渉や規定にも対応しなければなりません。自社のみで対応するのは極めて困難となる企業も多いでしょう。自己判断すると契約締結後に大きな不利益を受ける可能性もあります。
英文契約書を作成する際には弁護士などの専門家から契約書のレビューを受けるのが得策です。転ばぬ先の杖として専門家の知識や経験を利用しましょう。
英文契約特有の条項の例
以下では英文契約書特有の条項や特に注意したい条項をご紹介します。
完全合意(Entire Agreement)
完全合意(Entire Agreement)とは契約書に定める内容が「合意したすべて」であることを確認するものです。たとえば契約当事者が契約書作成以前に口頭や書面で何らかの合意をしていても、本契約に反する内容はすべて無効になります。
英米法の「口頭証拠排除法則(Parol Evidence Rule)」という原則にもとづくものであり、英米法特有の条項といえるでしょう。
口頭証拠廃除法則とは、契約内容の書面化に重きを置く原則で、口頭の証拠によって修正や変更、否認ができないとするものです。
支配言語(Controlling Language)
支配言語(Controlling Language)とは契約書が複数の言語で作成されたとき、どの言語の契約書が優先するかを定める条項です。原本(original)を定めるものともいえます。
異なる言語で契約書が作成されるとニュアンスや契約内容そのものに違いが生じるケースが少なくありません。オリジナルを指定しておく必要があり、支配言語の規定が置かれます。
分割可能性(Severability)
分割可能性(Severability)とは、契約書の内容が一方の国の法律に反して無効となっても他の契約条項には影響が及ばない、と定めるものです。
一部が無効となっても契約全体は無効とならないことを確認します。
訴訟費用(Litigation Cost)
訴訟費用(Litigation Cost)とは裁判所に支払う印紙代や裁判にかかった弁護士費用に関する条項で、訴訟費用をどちらの当事者がどのように負担するかについて定めます。
日本では敗訴者負担制度がとられていないので、日本企業同士であれば相手方の弁護士費用を払う必要はありません。しかし諸外国では敗訴者負担制度がとられており、敗訴した側が勝訴した側の弁護士費用を払わねばならないエリアもあります。
訴訟費用は日本の契約書以上に一般条項で明確に定めておく必要のある事項です。
仲裁(Arbitration)
仲裁(Arbitration)とは、契約について紛争が発生したときに「仲裁人」が間に入って解決することです。仲裁人はトラブルに介入し、内容に応じて一定の判断を下します。当事者双方が事前に仲裁に合意していれば仲裁人の判断が有効となって問題を解決できる仕組みです。仲裁人は民間機関ですが、解決方法としては裁判に近いものといえます。
日本の契約書でも仲裁機関を定めることはよくありますが、渉外契約の場合、仲裁はより大きな意味合いを持ちます。仲裁を利用すると、当事者双方が納得した機関を選べて希望する地域や国の機関を選定できるためです。裁判のように管轄や準拠法などの問題が生じにくいのはメリットといえます。
また相手方の国において判決が承認されるか、執行判決を取得できるかなどの問題も考える必要がありません。相手方の国が「外国仲裁判断の承認及び執行に関する国連条約」(ニューヨーク条約)に加盟していると、仲裁判断の執行は基本的に保証されるためです。
仲裁条項として取り決めるべき内容
- 仲裁機関
- 仲裁規則
- 仲裁地
主な国際的仲裁機関
- 国際商業会議所(International Chamber of Commerce: I.C.C.)
- 国際商事仲裁協会(The Japan Commercial Arbitration Association: JCAA)
仲裁地の選び方
中立的な第三国で、かつ国際的な仲裁を頻繁に行っている国を指定するのが基本的に良いと考えられます。
準拠法(Governing Law)
準拠法(Governing Law)とは、どの法律に従って契約を解釈したりトラブルを解決したりするかを定める条項です。
当事者が異なる国や地域の企業であれば、お互いの法律が異なります。トラブルが起こった際にどこの法律を適用するかを決めておかないと、法律(国際私法や抵触法)によって準拠法が決まってしまい、予想外の規定が適用されてしまうリスクが発生します。
そこであらかじめどの法律によって解釈やトラブル解決を行うのか定めておく必要があるのです。
なお準拠法を定めるものとして、日本には「法の適用に関する通則法」という法律があります。
日本企業の場合、日本法を準拠法と定めておくと利益に適いやすいといえます。
ただし契約書で準拠法を定めても法律によって準拠法が決まるケースもあるので、必ずしも準拠法の合意は100%ではありません。
英文契約を締結するうえで注意すべきポイント
最後に英文契約を締結するうえで注意したいポイントをご説明します。
ポイント① 一般条項でも個別の検討を要するケースがある
一般条項は、基本的にすべての契約に通用する内容を一般的に定めるものです。
ただし個別要素を考慮すべきケースもあるので注意が必要です。
たとえばすべての契約書において上記でご紹介したすべての一般条項が規定されるとはあ限りません。
また一般条項の中に、個別具体的な事情や事項が取り入れられる場合もあります。一般条項といいつつも契約の解釈に重大な影響を及ぼすケースも少なくありません。
契約書の見方に迷ったときには弁護士などの専門家へ相談してアドバイスを求めるべきです。
ポイント②実質条項と一般条項の違いを意識する
英文契約書は通常、実質条項と一般条項に区別されて規定されます。
実質条項は一般条項以上に契約の個別事情を反映した部分となります。
どちらが重要というものでもありませんが、実質条項と一般条項の違いを意識して契約書を読み解くとわかりやすくなります。
担当者の方は、実質条項と一般条項の違いや規定内容を意識して今後の契約書の作成や解釈に臨むようおすすめします。
ポイント③ 契約書の重要性を理解する
英米は契約社会なので、契約書の作成が日本以上に重視されます。一般条項で「完全合意」の条項が規定されるとそれまでの覚書などの内容が破棄されるケースも多いですし、口頭による合意は排除されるケースも多々あります。
日本と同じような感覚で契約書を作成すると思わぬ不利益を受ける可能性があるので、契約締結や署名は慎重に行いましょう。
英米契約書を作成するとき、自社のみの判断で進めると不足の損害が発生するリスクが高まります。いったん署名してしまったら、後にやり直すのは日本企業相手のケース以上に難しくなると考えてください。不利益を防ぐには専門家によるアドバイスを受けておく方法が有効です。法務部のない企業はもちろん、自社に法務部があっても弁護士などの本職の法律家とは異なるものです。万全を期するため、署名前には専門家による契約審査を利用してみてください。
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慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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