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2022.03.17
労働契約と業務委託契約の違いとは?契約書に記載すべき重要ポイントを解説

今回は労働契約と業務委託契約の違いに着目し、特に業務委託契約書に記載すべき重要ポイントを意識しながら、作成時に気を付けておくべき事を解説します。

労働者とは

労働者とは、労働基準法で、「事業又は事業所に使用される者」で、「賃金を支払われる者」(同法9条)と定義されています。これは職業の種類を問いません。労働基準法は、労働条件の最低基準を定めることを目的とし、労働条件による保護を受ける対象を「労働者」という形で定義しています。
このような保護を受けるべき者、すなわち「労働者」に当たるか否かは、次に挙げるような基準を前提に、個別に判断されています。

<基準>
(1)指揮監督下の労働であること
(2)報酬の労務対価性

雇用契約か業務委託契約か、その判断基準は?

雇用契約における「労働者」であるか、業務委託契約における独立した個人事業主であるかは、契約書の表題に依らず、契約の相手方との間に「使用従属性」があるかどうかで定まります。この「使用従属性」が認められれば、「労働者」として労働法上の保護を受けることになります。

裁判例からみる業務委託契約のポイント

一つ裁判例の中から、その判断に至ったポイントとともにご紹介します。
カイロプラクティック店経営における、事業主と療法士との関係で労働契約か業務委託契約かが争われた事例では、以下の理由により、当該契約は業務委託契約であると判断されました。

契約書

療法士は、手技療法業務を行った場合にのみ、療法士及び被告間で合意した単価に基づき計算した金額を支払い、その余の補償等は一切行わないことが定められているほか、各々の施術内容については各療法士の裁量に委ねる旨の記載がある一方で、療法士が業務を行うに際して被告の指揮命令等に従う旨の記載がない。

指揮監督下の労務提供の有無について

<稼働日・稼働時間の拘束性の有無>
療法士の稼働日や稼働時間については、基本的に療法士自身がこれらを自由に決めることができたと認めるのが相当である。

<稼働場所の拘束性の有無について>
業務遂行場所は両者間の合意で定められるほか、他店のヘルプを要請されることがあったとしても、それに応じるかは療法士の任意である。稼働場所について拘束されていたと評価することは出来ない。

<施術の担当等に対する諾否の自由の有無について>
療法士は自らのシフトを自由に決め、確定した後も自らの都合により変更することが可能である。施術の担当につき諾否の自由があると評価するのが相当である。

<業務遂行上の被告による指揮監督の有無について>
個別の施術の実施についても各療法士が自らの判断で施術の順序や方法等を決定して行っていたと認められる。教本等が存するが、未経験者向けに基礎知識や基本的な手技について解説したものであるなど、注意喚起や基礎知識等の習得または確認等の趣旨で作成され、配布されたものであるから、業務遂行上の指示や命令があったと評価することは出来ない。

<代替性について>
契約上施術の途中で何らかの事情により施術の継続に支障が生じたとしても、別の療法士が代わりに施術を継続することは禁止されておらず、業務に代替性がある。

労務対償性の有無について

<労務対償性の有無について>
療法士が受け取る対価は、各療法士が実施したケア等の施術が完了したことに対して、個々の施術毎に発生する完全出来高性であり、施術を行っていない時間帯について対価が発生しない。よって、労務対償性があるとはいえない。

<事業者性の有無について>
各療法士において事業所得として確定申告していたこと、自由に兼業できたこと等から療法士に事業者性が認められる。

 以上のような判断基準により、雇用契約か業務委託契約かが判断されることになります。企業としては、どちらの契約を締結しようとしているか、その要件を満たすかについて、慎重に判断し、場合によっては弁護士等の専門家に契約書のレビューを依頼することも重要です。

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業務委託には「請負契約」と「委任契約」がある

厳密に言えば、「業務委託契約」はそれ自体に関する法律はありませんが、実務上は民法に定める「請負契約」と「委任契約」の2つが業務委託に当たります。
「完成」を目的とするものが請負、「遂行」を目的とするのが委任といえます。

<請負契約、成果物の完成を目的とする形式の契約>
請負契約は、「成果物の完成を目的とする」契約です(民法第632条)。例えば、イラストレーターなど、依頼に対して制作した物を納品するような働き方をする職業などが該当します。

「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」

請負契約は、成果物を契約内容に適合するよう完成、納品することで報酬が支払われるものです。完成までの過程は問われません。ただし、成果物に不備や欠陥などの契約不適合があった場合、報酬を減額される、または修正を求められた例があります。

なお、改正民法では委任契約にも成果物の引渡しを目的とする類型(成果物報酬型)が追加されたため、締結しようとする契約が請負か委任かの判断は慎重に行う必要があります。

<委任契約、業務に報酬が支払われる形式の契約>
履行割合型の委任契約は、成果物の納品ではなく「業務を行ったという事実」に対して報酬が支払われる業務委託のことをいいます。例えば、「弁護士に仕事を依頼する」というような、業務を委託する際に結ばれるもので、民法第643条に規定があります。

「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」

請負契約とは違い、「業務の遂行」を目的とするものなので、業務の質や達成率に関わらず、報酬が支払われます。また、法律上「いつでも無条件で」契約の解除ができるため、業務の途中で突然契約を打ち切られる可能性もあります。ただし、受託者にとって不利な時期に解除したときなどは、依頼者は損害賠償義務を負います(民法651条)。さらに、改正民法下では成果報酬型の委任契約が認められているため、場合によっては、解除したときまでの業務内容に応じて報酬を請求できる可能性があります(民法648条の2、634条)
このように条件によっては他の関連法の下、適用される条項が変わってきますので、実際の詳細な内容を精査することで結果に違いが出ることに注意が必要です。

業務委託で多い業種・職種

「請負契約」

サービス業、娯楽業、情報通信業などに導入されることが多く、具体例として以下のような職種が挙げられます。

  • Webデザイナー、プログラマー
  • DTPオペレーター
  • 配送ドライバー
  • 美容師、ネイリスト

「委任契約」

法律に関する業務を受ける際に結ばれる契約として、以下の職種が該当します。

  • 弁護士
  • 会計士
  • 税理士
  • 司法書士

 

なお、上記の職種を含め、事実行為(事務処理)に関する業務を受ける際に締結される契約は「準委任契約」にあたり、委任に関する規定が準用されます(民法656条)。実務上は、この類型が多いと考えられます。

業務委託契約書の記載事項と作成時の注意点

業務委託契約書の主な記載事項は下記になります。

    • 委託業務の内容
      委託する業務の内容を詳細に記載します。

 

    • 委託料(報酬)
      業務を委託する際の報酬金額を記載します(成功報酬型で定める場合は、算定方式も明記しておくことが重要です)。

 

    • 支払条件、支払時期
      支払条件(検収後、着手時、毎月、請求方法など)と、支払時期(翌月末日など)を定めます。

 

    • 成果物の権利
      委託された業務の過程で発生した、あるいは成果物そのものの著作権やその他の知的財産権が、委託者または受託者のどちらに帰属するかを定めます。

 

    • 再委託
      受託者が委託された業務の全部、または一部を第三者に再委託することを認めるか否か、また、認める場合にはその条件を記載します。

 

    • 秘密保持
      業務委託の過程で開示された情報の秘密保持について記載します。

 

    • 反社会的勢力の排除
      当事者(委託者、受託者)が反社会的勢力に属している場合や反社会的勢力であることを偽った場合に相手方は契約を解除・解約できる旨を記載します。

 

    • 禁止事項
      業務を行うにあたり、受託者に禁止すべき内容があれば記載します。

 

    • 契約解除
      当事者(委託者、受託者)に契約違反や、契約を履行できないといった問題が発生した場合の、契約解除について定めます。

 

    • 損害賠償
      当事者(委託者、受託者)に契約違反があった場合の損害賠償について定めます。

 

  • 契約期間
    主に委任契約/準委任契約の場合、業務委託の契約期間を記載します。自動更新の有無についても明記します。

 

注意するべき点としては、委託内容と委託料、支払い条件はできる限り明確にしておく必要があるということが挙げられます。また、委託者側、受託者側のどちらかが著しく有利になるような契約内容は避けることをお勧めいたします。

業務委託契約書がない場合、契約内容について相手との食い違いが発生すると、トラブルに発展することが考えられます。そのため、高額な取引や業務上の重要度が高い取引の場合には、単発の取引または継続的な取引など、契約予定期間に関わらず、原則的に業務委託契約を締結し、書面に残すことが大切です。

まとめ

本記事では、労働契約と業務委託契約の違いについて解説しました。上述したように曖昧な書き方は避け、実務の実態に合わせて契約書内容は具体的に記載することが重要です。特に企業が業務委託契約書を作成して、個人に業務を委託する場合には、前述との雇用契約との区別に留意し、慎重に作成する必要があります。何が足りないか、判断に迷う場合には、弁護士等の専門家に契約書のレビューを依頼することをお勧めいたします。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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