
- 2026.03.02
販売代理店契約を締結する販売店に対し、再販売価格を指定できる?弁護士が解説|サプライヤー側の契約審査Q&A
この記事では、「販売代理店契約(ディストリビューター方式)において、販売店に対し再販売価格を指定することは可能か」について、サプライヤー側からのご相談にお答えします。
目次
相談事例
~A社(販売代理店契約 サプライヤー)より~
伝統的工芸品を製作するA社(当社)は、商品Xの販路拡大を目的として卸売業者B社との販売代理店契約を検討しています。A社(当社)には現状以上に在庫を保有する設備がなく、営業・販売にかける人手やノウハウも不足しているため、卸売業者B社との提携は非常に魅力的です。
一方で当社は、過去に卸売業者C社と販売代理店契約を結んだ経験から、以下の点を懸念しています。
当時C社は、年に数回、大幅な値下げを行って在庫整理をしていました。そのため通常価格時には商品の買い控えが起こり、最終的には値崩れが起きてしまいました。また、こうした販売店の販売方法や値崩れなどにより、商品Xや当社のブランドイメージが損なわれるリスクが増えることも懸念しています。
当社としては、こうした過去の取引経験から、商品の価格は一定に保つことを重視したいと考えています。
しかし、今回B社から提示された販売代理店契約書のひな形には、商品の販売価格に関して「本商品の販売価格は、B社の裁量によって決定できるものとする」と記載されています。つまり、B社の販売価格や販売方法によっては、C社の時と同じように、商品の値崩れ等が生じる可能性があると思われます。
看板商品である商品Xをむやみに安売りされないように、当社の裁量で販売価格を指定できるよう交渉してもよいのでしょうか。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答
今回の事例において、「商品供給元であるサプライヤーが、販売店に対し商品の再販売価格を拘束する行為」は、独占禁止法に抵触する可能性があるため、貴社の目的を実現する方法については、専門の弁護士への相談が推奨されます。
以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、「販売代理店契約」について説明します。
販売代理店契約とは
販売代理店契約は、サプライヤー(メーカー)が自社の商品・サービスを広く販売するため、代理店に販売を委託、許諾する契約です。「代理店」については、「販売代理店」と呼ぶこともあります。販売代理店契約は、その方式により以下の2種類に分けられます。
本記事では、後者のディストリビューター方式を想定し説明していきます。
■エージェント方式/代理店型
代理店がサプライヤーの代理人の立場で取引に関わり、販売手数料を受け取る形態。「代理店契約」と呼ばれることもあります。顧客とサプライヤーは、商品・サービスに関し直接契約を結び、代理店は当該契約の当事者とはなりません。
■ディストリビューター方式/販売店型
商品を代理店が買い取り、自社の在庫とした上で直接に顧客に販売する形態。「販売店契約」と呼ばれることもあります。
前者のエージェント方式での代理店の行為は、法的な「代理」という意味(民法第 99 条第1 項)からしても、サプライヤーの「代理」ということができ、契約関係としては、サプライヤーが代理店に対し、顧客への営業活動や契約申込みの取次などの業務を委託する形となります。
一方後者のディストリビューター方式は、法的な意味からすると、代理店の行為は「代理」とはいえず、代理店とサプライヤーとの契約関係は、基本的には売買契約となります。そのため、ディストリビューター方式における代理店は、「代理店」ではなく「販売店」と呼び分けられることもあります。(本記事でも「販売店」と呼んで説明していきます。)
しかし、この法的な意味とは別に、ビジネス上はどちらの方式においても、「販売代理店
契約」「代理店」などの用語が使用されています。
本事例における契約関係 ~販売代理店契約(ディストリビューター方式)の一例~

販売代理店契約における再販売価格の要請とは
再販売価格の要請について:独占禁止法の問題
販売代理店契約において、ディストリビューター方式を用いた場合、サプライヤーにとっての課題のひとつは、販売店が消費者に商品を販売(転売)する際の「販売価格」です。この価格を、「再販売価格」といいます。
サプライヤーにとって、自社商品の価格を自社の裁量で設定したいと考えるのは自然なことですが、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下「独占禁止法ガイドライン」)の記載では、販売店に再販売価格を要請することは原則「不公正な取引方法」に該当するとして、禁止されています(独占禁止法2条9項4号)。
※独占禁止法は、正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と呼ばれています。この法律は、自由な経済活動を前提とする社会において、企業が遵守すべき基本的なルールを定め、不公正な取引や競争を阻害する行為を防ぐことを目的としています。
この行為は、たとえ契約書上で再販売価格を販売店に対し要請していなくても、例えば、以下のようなやりとりがあれば「再販売価格拘束」と捉えられるリスクがあり、言動には細心の注意を払う必要があります。
(1) 販売店に対し口頭で販売価格を示すこと
(2) 示した販売価格で取引することの同意書を販売店側から提出させること
(3) 示した販売価格で取引しない場合に不利益を課すこと、またはそれを示唆すること
(4) 示した販売価格で取引する場合に経済上の利益(リベート等)を与えること、またはそれを示唆すること
また、上記のようにサプライヤ-側で具体的な販売金額を指定した場合に限らず、指定した下限以上の価格で販売することを要請する行為も同様に違法とされる可能性があります。
したがって、独占禁止法ガイドラインを厳格に解釈した場合には、サプライヤー側に推奨される行為は、あくまでも販売価格の決定権は販売店に委ねる姿勢を保ちつつ「(サプライヤー)希望小売価格」を提示することになります。
▶参考情報:流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針 | 公正取引委員会
独占禁止法に違反せず、希望する再販売価格を実現するには
前述のとおり、独占禁止法上の問題から、サプライヤーは販売店が商品を再販売する際の価格を原則として拘束できません。
一方、エージェント方式の場合は、サプライヤーと消費者が直接売買契約を結ぶ方式ですので、サプライヤーは販売価格等を統制しやすいといえ、この点を重視する場合にはエージェント方式を採用することが考えられます。
しかし、今回の相談事例のように、在庫を保管するスペースがない等の理由で、サプライヤー側がディストリビューター方式での取引を希望されることもあります。
以下は、サプライヤー側が、ディストリビューター方式で尚且つ適法に、希望する再販売価格を実現したい場合に、検討の際に有効な視点を2つ紹介します。
販売店が在庫リスクを抱えずに済む方法を合意しておく
これは、サプライヤーが「再販価格を要請する」のではなく、「販売店が安売りをする必要をなくす」=「再販価格を要請する必要をなくす」という考え方です。
一般的に販売店が値下げを行うのは、在庫整理や販売代理店契約終了を見据えた在庫処分であることが多いと思います。そこで、そうした販売店の余った在庫商品を、例えばサプライヤーが買い取ることで、販売店は負担なく在庫を整理することができ、値下げして販売する必要がなくなるといえます。
販売店の在庫リスクを軽減するための、余った在庫の買取などの方法を、前もって契約にてまたは別途合意しておくことは、サプライヤーにとっては商品の値崩れを防ぎ、ひいてはブランドイメージの保護にもつながる有効な視点といえるでしょう。
「実質的にサプライヤーが販売している」と認められる状況にする
次に、公正取引委員会に寄せられた相談事例(以下「公取委相談事例」)で、メーカーによる小売業者への販売価格の指示が独占禁止法に違反しないと解釈された事例がありますので、ご紹介します。(事例の詳細については、本項末尾のリンクからご参照ください。)
小売業者への販売価格の指示が独占禁止法に違反するのか?というメーカーからの相談に対し、公正取引委員会は、独占禁止法の考え方として下記のガイドラインを示しています。
独占禁止法ガイドライン(第2部第1-2 ⑺)
| 販売店が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみてサプライヤーが販売していると認められる状況であれば、サプライヤーが販売価格を要請したとしても、独占禁止法上問題にならない |
前項で触れた、販売店の在庫リスクをサプライヤーが負担する、という視点とも関連する考え方といえます。
次項で、本記事の相談事例にあてはめながら、詳しく解説していきます。
▶参考情報:独占禁止法に関する相談事例集 | 公正取引委員会
・1 メーカーによる小売業者への販売価格の指示
・5 家電メーカーによる小売業者への販売価格の指示
本事例の解説
では、本事例において、A社(サプライヤー)は、独占禁止法に違反することなく再販売価格を要請するために、どのように“実質的にみてサプライヤーが販売していると認められる状況”を再現すればよいのでしょうか。
以下、サプライヤーが販売価格を要請したとしても独占禁止法上問題にならないとされた公取委相談事例に照らして、本事例について説明します。
まず、「取引形態」についてみてみましょう。
公取委相談事例の取引形態
<本事例>では、A社(サプライヤー)とB社(販売店)とが、「販売代理店契約(ディストリビューター方式)」を結ぶ想定ですが、公取委相談事例では、下記のような取引形態が想定されています。
<公取委相談事例>の取引形態
契約の名称は別として、取引の実質的内容として「委託販売契約」と「個別の売買契約」の2種類の契約を取り交わす形態が想定されています。
商品の販売活動は販売店に委託形式としつつも、都度の商品の納入・補充時には売買形式として商品の所有権を販売店側に移すという取引関係(スキーム)が想定されています。
※一般的な委託販売契約では、販売店の収益は商品の売上高ではなく、手数料を計上することになるが、上記スキームでは、販売店は商品の売上高を計上できるため、収益を確保しやすい。
確かに、このスキームでは、本事例の取引形態同様に、商品XをB社店頭に配置して一般消費者に商品を手に取ってもらうという販売活動が可能ですし、B社(販売店)側の利幅も確保できますので、サプライヤー・販売店の双方に販売代理店契約と同様のメリットはあります。
しかし、現状のままでは(上記の取引形態としただけでは)“実質的にみてサプライヤーが販売していると認められる状況”とは言えず、仮にこの状況下でA社(サプライヤー)が再販売価格拘束を行えば、違法となる可能性が高いでしょう。
では、「取引形態」以外に、重要なポイントは何でしょうか?販売代理店契約(ディストリビューター方式)を用いつつ、再販売価格拘束を適法に行うことはできるのでしょうか?次項でご説明していきます。
本事例において再販売価格拘束を適法に行うための道筋
公取委相談事例では、再販売価格拘束を適法に行うためには、少なくとも以下3つのリスクをサプライヤー側の負担とする必要がある旨示されています。
(1) 商品売れ残りのリスク
(2) 在庫管理リスク
(3) 代金回収リスク
では、本事例においてこれらのリスクをどのように調整すれば(契約書に定めれば)よいのでしょうか。公取委相談事例に沿う形でひとつずつ整理していきます。
(1) 商品売れ残りのリスク
分担の例:
| 商品Xの納入代金の支払日以降、販売店(B社)はいつでも返品できることとする。サプライヤー(A社)は返品に応じ、納入代金に相当する金額を販売店(B社)に支払う。 |
→ これにより、実質サプライヤー(A社)がリスクを負っている状態といえます。
(2) 在庫管理リスク
分担の例:
| 商品の在庫管理においては、滅失・毀損等のリスクがある。しかし、この在庫管理上の責任について、販売店(B社)は一般的な程度の注意(用語としては、「善管注意義務」といいます)を払えば足りるものとする(ただし、販売店に原因がある場合を除く)。 |
→ これにより、原則サプライヤー(A社)がリスクを負っている状態といえます。
(3) 代金回収リスク
分担の例:
| 販売店(B社)は、商品販売時に代金を回収する必要があるものの、現代では消費者の多くが現金やクレジットカードによる決済手段を用いるため、実質的にリスクを負担している状態とまではいえない。 |
→ 販売店(B社)がリスクは負っているものの、実質、リスクはほとんどない状態といえます。
なお、ここまでの内容を図で示すと以下のようになります。
■ ① サプライヤー(A社)が販売主として商品Xを販売する場合

サプライヤー(A社)は商品Xを自ら顧客に販売するので、販売価格は当然に自社の裁量で決定できます。
■ ② 販売店(B社)と一般的な販売代理店契約(ディストリビューター方式)を締結する場合
続いて、従来想定していた取引形態です。

本記事でも何度か言及したように、独占禁止法上の問題から販売店(B社)の再販売価格をサプライヤー側から要請することはできません。あくまでも販売主は販売店(B社)であり、販売主としてのリスクも販売店(B社)が負っている状態です。
■ ③ 委託販売契約と個別の売買契約を組み合わせた場合
では最後に、公正取引委員会の相談事例によって示された、取引形態です。

商品の所有権は販売店(B社)にあり、販売店(B社)が販売活動を行う点は②と相違ないのですが、販売主としてのリスクをサプライヤー(A社)が負担することで、実質的に販売主と認められる状況を再現しています。これらの調整により、サプライヤー(A社)が販売店(B社)に対し、再販売価格を要請したとしても、独占禁止法上のリスクを大きく減らすことができます。
販売店への再販売価格の指定が適法なのか違法なのかという問題は、事案ごとにこれらの要素を個別具体的に評価し、独占禁止法上の観点からの非常に綿密且つ慎重な検討が必要となります。そのため、企業法務を専門とする弁護士に相談したり、必要に応じて公正取引委員会にスキームの適法性を問い合わせる等、リスクヘッジを厳格に行うことが強く推奨されます。
- 著作物と再販売価格維持
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著作物(新聞,書籍・雑誌,レコード盤,音楽用テープ,音楽用CD等)の場合、再販売価格維持行為をしても原則独占禁止法の適用はありません。これを「著作物の再販適用除外制度」(著作権再販制度)といいます。
同制度は、価格競争が激化し、売れ筋のよい著作物ばかりが店頭に並ぶことで、国民が多種多様な文化に触れる機会を失わないようにすることを主な目的とし、独占禁止法の射程を考える上でも重要な指針にもなります。
ただし、同制度については見直しを求める声も寄せられており、公正取引委員会では制度の維持・変更等についての検討が継続していますので、今後の動向に関心が集まります。
おわりに
以上のように、販売代理店契約を締結した販売店に対して再販売価格を提示したい場合は、法的な検討を十分に行い、慎重に契約条項を作成することがとても大切です。もっとも、独占禁止法に抵触するか否かの判断には専門的知見からの検討を要し、また、昨今では海外の販売店と販売代理店契約を締結する事例も増えており、代理店保護法等、現地の法律も入念に事前確認しておく必要があります。必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします。
※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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