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英文の売買契約書 作成・レビューの注意点とは?!
2026.03.02

売買契約書を英文で作成・レビューするポイント|サンプル条項付きで法律事務所が説明

売買契約書は、文字通り、ものやサービスを売ったり買ったりする場合に、売り手と買い手との間で交わされる契約書です。あらゆる売買において締結される、ビジネスにおいては非常に基本的で重要な契約書であり、定めておくべき条項が数多くあります。さらに国境をまたぐ売買の場合は、多くの場合、英文で売買契約書が作成され、規定の内容においても、国際条約や貿易条件など前提となる定めを明確にし、英文契約書特有の表現や用語も正確に理解する必要があり、作成やレビューの難易度は上がります。

この記事では、グローバルビジネスでの売買契約において、売買契約書を戦略的に締結するために、売買契約書を英文で作成・レビューするポイントについて、サンプル条項を挙げながら、弁護士がわかりやすく解説します。

売買契約書の基礎知識

売買契約書とは

売買契約書とは、前述のとおり、売主が買主に対して、製品やサービスを提供し、買主が売主に対して、その製品やサービスへの対価を支払う場合に交わされる契約書です。

作成・レビューの際に持つべき重要な視点

売買契約書を作成したり、先方が作成した売買契約書をレビューしたりする際に持つべき視点は多くありますが、中でも重要な視点は、売主側の場合は、自らが提供した製品やサービスに対して、対価が適切に得られる契約になっているか、ということであり、買主側の場合は、支払う対価に見合った、自社の求めるものやサービスが適切に提供される契約になっているか、という視点です。

この視点に基づき、ビジネス上、妥当な取引であるかという検討に加えて、法的な観点からも契約の有効性を慎重に検討する必要があります。特に、売買の目的物が適切に特定されているかに注意しましょう。売買の目的物の特定が不十分である場合、契約の有効性への疑義が生じるおそれがあります。目的物が動産であるのか、不動産であるのか、代金の額の特定はされているのかなどについて十分に確認し、契約書に明記します。また、特定した目的物の輸出入について、日本の法令や海外の適用法令、販売先の現地規制に違反していないかについても事前に確認するようにしましょう。

売買契約書は対価がある取引の基本形

売買契約書は、ビジネスにおいて最もよく締結される契約の一つであると考えられますが、売買契約書特有の重要性としては、対価の支払いが発生する、あらゆる種類の取引の基本形であることが挙げられます。例えば、株式譲渡契約、製造物供給契約、建設請負契約などにおいても、何かを提供することと引き換えに対価の支払いが発生するという構図は、売買契約書と共通しており、それに加えて各契約類型に特有の条項が定められています。売買契約書を深く理解することで、その応用型の複雑な契約書に対する解像度も上げることができるといえるでしょう。

英文売買契約書(Sales and Purchase Agreement)の特徴

基本構成

売買契約書は、英語では “Sales and Purchase Agreement (SPA)” といわれることが多いです。英文売買契約書の基本構成は、以下のとおりです。

  • 頭書き(Preamble)
  • 定義(Definitions)
  • 売買の合意(Sale and Purchase of the Product)
  • 契約金額(Purchase Price)
  • 支払条件(Payment Conditions)
  • 出荷(Shipment)
  • 検査(Inspection)
  • 所有権及びリスクの移転(Title and Risk Transfer)
  • 保証責任(Warranty (Defect Liability))
  • 第三者の生命・身体・財産の侵害(Indemnity)
  • 第三者の知的財産権の侵害(Intellectual Property Right)
  • 責任制限(Limitation of Liability)
  • 一般条項(秘密保持義務・不可抗力・契約期間・契約解除・準拠法・裁判管轄など)

和文契約書との違いと特有の表現

英文売買契約書は、和文の売買契約書と比較した場合、以下のような特徴があり、和文の契約書において、しばしば見られるような、当事者間の信頼関係を前提とした曖昧な表現や円満な解決を重視する表現は避けられることが一般的です。

  • 詳細かつ包括的で、あらゆるリスクを想定した条項が盛り込まれる。一般条項も広範に含まれる
  • 定義条項が設けられ、契約書内の用語の解釈が明確にされる
  • 保証や責任制限など責任に関する条項が詳細に記載され、売り手と買い手の責任分担が明確化される
  • 英米法(コモン・ロー)の原則に従い、紛争時の解決手段として裁判に重点が置かれるため、準拠法や裁判管轄など、紛争解決の条項が明確に定められる

 

また、英文売買契約書の作成やレビューにおいては、法律英語特有の表現や用語に留意する必要があります。例えば、前文において、契約の背景を説明する際に使用される ”Whereas” や約因を表す ”Consideration” 、契約書本文の条項においては、 ”Represent and Warrant” (表明及び保証)、 ”Indemnify and Hold Harmless” (補償及び免責)、 ”Force Majeure” (不可抗力)、 ”Entire Agreement” (完全合意)、 ”Severability” (分離可能性)などが挙げられます。これらは、英文契約書以外の英文や英会話では、目にすることがあまりない表現ですので、英語ができる方であっても最初は戸惑うかもしれません。

ウィーン売買条約について

前述の英文契約書の特徴や特有の表現に加えて、英文売買契約書の作成やレビューにおいては、ウィーン売買条約の適用について検討することが不可欠です。

ウィーン売買条約(国際物品売買契約に関する国際連合条約)(CISG: United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods)は、国際的な売買契約に関する統一的なルールを提供する国際条約です。1980年にウィーンで採択され、現在では、日本をはじめ、アメリカ、カナダ、シンガポール、オーストラリア、ドイツ、フランス、イタリアなど多くの国が加盟しています(イギリスは加盟していません)。

ウィーン売買条約を売買契約書に適用するメリットは、世界中で広く採用されている規定であり、異なる国の法律を調整する必要がなくなるため、契約締結がスムーズに進むことです。ウィーン売買条約の特定の条項のみを変更することも可能です。

一方、デメリットとしては、国内法に慣れている当事者の場合、ウィーン売買条約の規定が馴染まない場合があります。例えば、ウィーン売買条約では、重大な契約違反がない限り契約解除が認められませんが、日本の民法では、債務不履行があれば契約解除が可能な場合が多く、売主の場合は、契約関係が安定するため有利であると考えられますが、買主の場合は、契約解除に制限がかかるため、国内の取引の場合にはない制約を不都合であると感じる可能性が高いでしょう。また、加盟国間で条約の解釈が異なる場合があり、新たな紛争の原因となってしまう可能性があります。

上記の点を考慮し、ウィーン売買条約を適用するかどうかは、ウィーン売買条約の規定を理解した上で、取引の性質や自らの立場などに応じて判断することになりますが、適用しない場合は、適用を排除する旨の規定を契約書内に明記することが必要ですので、ご注意ください。

▶参考情報:英文契約書の基礎知識については下記の記事でも解説していますので、ご参照ください。
英文契約書の基礎知識と注意点を解説・サンプル例文付き編

▶参考情報:英文の秘密保持契約書(NDA)の作成・レビューについては下記の記事でも解説していますので、ご参照ください。
英文の秘密保持契約書(NDA)を作成・レビューするポイント|サンプル条項付きで法律事務所が説明

英文売買契約書の主要条項と作成・レビューのポイント

頭書き(Preamble)・定義(Definitions)・売買の合意(Sale and Purchase of the Product)

契約の冒頭、頭書きの部分では、契約の背景や目的を簡潔に述べます。英文売買契約書においては、当事者間の合意の前提を明確にすることが重要です。一般的には、Whereas条項を用いて、契約の締結理由を述べる形を取ります。また、契約の約因(consideration)を記載することで、契約の有効性を保証します。

次に、定義の条項では、契約書内で使用する重要な用語の意味を明確に定義し、曖昧さを排除します。定義条項は、契約書の中で用語の意味合いの一貫性を保ち、解釈の違いによる紛争を防ぐために重要です。

定義に続いては、売買の合意条項が記載されることが一般的です。売買の合意条項とは、簡単にいうと、「売主は商品を販売し、買主はそれを購入することに合意する」ということを明文化したものです。契約書のタイトルを見れば分かるような当たり前なことを書いているようですが、英文契約においては、タイトルには法的な意味はなく、契約書の中身に何が書いてあるかが重要であるため、本条は省いてはならない重要な規定であるといえます。

なお、契約書のタイトル “Sales and Purchase Agreement” では、 ”Sales” ですが、売買の合意条項の見出し “Sale and Purchase of the Product” では、 ”Sale” ですので、ご注意ください。その理由は、契約書のタイトルは、売買という継続的な行為全体を包括的に示したものであり、合意条項の見出しは、物品の売買という特定の行為について規定しているからであると考えられます。

契約金額(Purchase Price)・支払条件(Payment Conditions)

契約金額条項は、商品の価格を明確に規定する重要な規定です。本条項においては、単に金額を示すだけではなく、価格の決定方法、通貨の種類、保険料や税金、輸送費などの価格の構成要素、価格調整の条件に加え、貿易条件(インコタームズ: Incoterms)の適用を明記することで、買主と売主の責任範囲を明確にする必要があります。

インコタームズとは、国際商業会議所(ICC: International Chamber of Commerce)が貿易用語を国際的に統一するために制定した国際取引条件International Commerce Terms)の略称であり、2020年度版が最新となっています。インコタームズでは、運送費の負担、輸送中の保険料の負担、リスクの移転時期などについて定められており、契約書でインコタームズに従うことを明記した場合のみ、その取引にインコタームズが適用されます。

インコタームズには、様々な貿易条件のパターンがありますが、日本企業が海上輸送を利用し輸出入を行う際によく利用される条件としては、CIF (Cost, Insurance and Freight) 「本船甲板渡し条件」とFOB(Free on Board) 「運賃・保険料込み条件」があります。

CIFとFOBの主な違い

項目 CIF FOB
運賃負担 売主 買主
保険負担 売主 買主(保険加入は任意)
リスク移転 本船積み込み時 本船積み込み時
輸入港での費用負担 買主 買主

【サンプル条項】(インコタームズと契約金額の定め方)

The Purchaser agrees to purchase the Product from the Seller at the total purchase price of 1 million in USD on a CIF San Francisco Port basis as defined by INCOTERMS 2020.
買主は、売主から製品をインコタームズ2020に基づくCIFサンフランシスコ港の条件で、100万米ドルの購入価格で購入することに合意する。

契約金額を明記したら次は、支払条件について記載します。支払条件条項では、支払方法(電信送金(TT: Telegraphic Transfer)、信用状(L/C: Letter of Credit)、小切手など)、支払期限、遅延時の対策(延滞利息、契約解除条件など)を明確に規定します。さらに国際取引においては、通貨変動や送金手数料の負担についても考慮する必要があります。

L/Cは、国際貿易における決済手段の一つであり、輸出者と輸入者の間で安全な取引を保証するために銀行が仲介する仕組みです。信頼関係がある取引では、通常の電子送金であるTTがより一般的に用いられますが、高額な取引やリスク管理が必要な場合は、L/Cを選択すると良いでしょう。

【サンプル条項】(支払期限とTTの定め方)

The Purchaser shall make payment to the Seller by TT in USD to the Seller’s designated bank account within thirty (30) days from the invoice date.
買主は、請求書発行日から30日以内に、米ドル建てで売主指定の銀行口座へ電信送金により支払いを行うものとする。

出荷(Shipment)

出荷(船積み)条項では、出荷期日(船積日)、出荷方法、出荷場所、輸送手段などを明記します。再度、準拠するインコタームズについても明示しておきましょう。また、物流トラブルに関する紛争予防の観点から、納期遅延の場合の損害賠償契約解除条件についても、できる限り詳細に規定します。

納期遅延となった場合の実際の損害額の算定や証明は難しく、時間や労力を要することが多いため、損害賠償額については予め定めておくことをお勧めします。契約で予め定めておくことにより違反の場合に自動的に金額が確定する損害賠償額のことをLD(Liquidated Damages)といい、日本語では、略して「リキダメ」と呼ばれることもあります。LDは、納期遅延の場合に限らず、検査不合格や、契約解除、知的財産権侵害など、損害賠償について契約上規定する多くの場面で用いられます。

LDの具体的な金額については、納期遅延の場合は、1日遅れ当たりいくらと定めることが多いですが、自社が売主側である場合は、納期遅延が発生した場合に、商品納入まで延々と損害賠償をしなければならないという事態を防ぐため、LDに上限を付けることをお勧めします。また、自社が買主側である場合は、あまりに高額過ぎる金額は裁判で無効とされる可能性もあるため、目的物の価格に照らして合理的な金額を設定するようにしましょう。

【サンプル条項】(LDとその上限の定め方)

If the Seller fails to deliver the Product by the agreed shipment date, the Seller shall be liable to pay liquidated damages to the Purchaser in the amount of USD 1,500 per day of delay, up to a maximum of USD 30,000.
売主が合意された出荷期日までに製品を納品できなかった場合、売主は、買主に対して、一日当たり1,500米ドルの違約金を支払うものとし、違約金の上限額は、30,000米ドルとする。

検査(Inspection)

検査条項では、買い手による商品の検査方法、検査期限、結果の通知、検査結果に基づく対応(修理・交換・契約解除・損害賠償等)などを規定します。検査の基準や手順については、仕様書に詳細に規定しておき、売買契約書において、仕様書に言及する形とすると良いでしょう。また、自社が売主側である場合は、定められた期間内に検査結果の通知がない場合は、検査合格とみなす旨の規定を定めておくと有利でしょう。

【サンプル条項】(検査期間と通知期間の定め方)

The Purchaser shall inspect the Product within seven (7) days of receipt in accordance with the standards and procedures specified in the product specifications. If the Purchaser identifies any defects or non-conformities, the Purchaser must notify the Seller in writing within seven (7) days after the inspection. If the Purchaser fails to notify the Seller within the specified period, the Product shall be deemed accepted.
買主は、製品を受領後7日以内に、仕様書に定められた基準及び手続きに従い検査を行うものとする。買主が欠陥又は不適合を確認した場合、検査後7日以内に書面にて売主に通知しなければならない。 買主が指定された期間内に売主に通知しない場合、製品は承認されたものとみなされる。

所有権及びリスクの移転(Title and Risk Transfer)

本条項では、所有権とリスクの移転時期を明記することで、責任の所在を明確にします。所有権の移転時期については、インコタームズに定められる事項ではないため、売買契約書にインコタームズを用いている場合でも、別途、契約書に明記しておく必要があります。自社が売主側の場合は、所有権の移転時期は、可能な限り遅い時期に定めておく方が有利となります。

リスクの移転時期については、インコタームズに規定があるため、合意されたインコタームズに従う旨を明記して、CIFやFOBで定めている「本船積み込み時」とすることもできますが、インコタームズとは異なる時期を定めることも可能です。例えば、下記のサンプル条項では、検査に合格した時点をリスクの移転時期としています。

【サンプル条項】(リスクの移転時期をインコタームズとは異なる時期に定める場合)

Title to the Product shall transfer from the Seller to the Purchaser upon full payment of the Purchase Price. Risk of loss or damage to the Product shall transfer from the Seller to the Purchaser upon successful completion of the inspection as stipulated in Article ● (Inspection) of this Agreement.
製品の所有権は、購入価格の全額支払い時に、売主から買主へ移転するものとする。製品の損失及び破損のリスクは、製品が本契約の第●条(検査)に定める検査に合格した時点で、売主から買主へ移転するものとする。

保証責任(Warranty (Defect Liability))

保証責任条項においては、製品が仕様書に合致しており、不適合がないことの売主による保証や、保証期間、不適合が発見された場合の対応方法(修理・交換・返金・契約解除等)などを明確に規定します。後の紛争を防ぐために重要な点は、できる限り詳細かつ具体的に規定すること、そして、自社が売主側である場合は、契約書上の保証以外の「黙示の保証(implied warranty)」を排除することです。

黙示の保証を排除する規定は、重要な規定であるため、全て大文字で記載されることが多いです。このように重要な条項を全て大文字で記載することは、英米法では一般的ですが、それ以外の国の法律を準拠法とする場合でも、実務上用いられることがあります。

【サンプル条項】(黙示の保証を排除する規定)

EXCEPT FOR THE EXPRESS WARRANTIES SET FORTH IN THIS AGREEMENT, THE SELLER DISCLAIMS ALL OTHER WARRANTIES, WHETHER EXPRESS, IMPLIED, STATUTORY, OR OTHERWISE, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO ANY IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE, OR NON-INFRINGEMENT. NO REPRESENTATION OR WARRANTY NOT EXPRESSLY SET FORTH HEREIN SHALL BE DEEMED TO HAVE BEEN MADE OR RELIED UPON BY THE PURCHASER.
本契約に明示的に記載された保証を除き、売主は、明示的、黙示的、法定の別を問わず、全ての保証を否認し、商品性、特定目的への適合性、及び権利非侵害に関する黙示の保証を含むがこれらに限定されない保証を排除する。本契約に明示的に記載されていない表明及び保証は、一切行われたものとはみなされず、買主がこれに依拠したものとはみなされない。

第三者の生命・身体・財産の侵害(Indemnity)

本条項では、売買の対象となった製品やサービスによって、第三者に損害を与えた場合の責任範囲について規定します。買主による指示や修理の結果など買主の責に帰する場合を除いて、原則として売主が全ての責任を負い、買主に対して補償や弁護、免責をするなどと定めることが一般的です。

その場合でも、特に自社が売主側の場合、買主の協力義務について規定することを忘れないようにしましょう。具体的には、第三者からの請求や訴えがあった場合の売主への通知義務、売主の合意なく売主に不利になる自白や和解等をすることの禁止、法的措置に対して売主の弁護を支援するための資料等の提供などの合理的な支援義務、の三点について明記しておくと良いでしょう。詳細は下記のサンプル条項を参照してください。

【サンプル条項】(買主の協力義務の定め方)

The Purchaser shall promptly notify the Seller in writing upon becoming aware of any third-party claim, demand, or legal action that may trigger the Seller’s indemnification obligations under this Agreement. The Purchaser shall not make any admission, settlement, or agreement that may prejudice the rights or interests of the Seller without the Seller’s prior written consent. Furthermore, the Purchaser shall provide reasonable assistance and cooperation, including furnishing relevant documents and information, to support the Seller’s defense against any claims or legal actions arising under this indemnification clause.
買主は、売主の補償義務を引き起こす可能性のある第三者の請求、要求、または法的措置を認識した場合、速やかに書面にて売主に通知しなければならない。また、売主の事前の書面による同意なしに、売主の権利又は利益を害する自白、和解、又は合意を行ってはならない。さらに、買主は、本補償条項に基づく請求や法的措置に対して、売主の弁護を支援するため、関連する文書及び情報の提供を含む合理的な支援と協力を行う義務を負うものとする。

第三者の知的財産権の侵害(Intellectual Property Right)

本条項では、第三者の知的財産に関する権利侵害が発生した場合の責任分担を定めます。前条の第三者の生命・身体・財産の侵害条項と類似した構成となり、販売された製品について、第三者から特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などの知的財産権を侵害しているとの申し立てや法的措置を取られた場合、原則として、売主が全ての責任を負い、買主を防御し、補償及び免責を行うと定めることが一般的です。

ただし、自社が売主側の場合、非侵害を表明保証する範囲については、売主の「知り得る限り」とすることや、買主の責に帰する事由がある場合には、売主は上記の責任を負わないこと、また、売主に過失がある場合に限って売主は買主を防御、補償及び免責を行うことを明記することが重要です。さらに、前条と同様に、訴えを提起された場合の通知義務などの買主の協力義務についても忘れずに規定するようにしましょう。

【サンプル条項】(買主の責に帰する事由の定め方)

However, the Seller shall have no obligation to indemnify, defend, or hold harmless the Purchaser if the alleged infringement arises from:
(a) The Seller’s compliance with instructions, designs, or specifications provided by the Purchaser;
(b) The Purchaser’s use of the Product for purposes other than those specified in the product specifications;
(c) The Purchaser’s use of the Product in combination with any other products, systems, or components not supplied or approved by the Seller;
(d) Any modification or alteration of the Product by the Purchaser without the Seller’s prior written consent;
(e) Any failure by the Purchaser to obtain necessary approvals, licenses, or rights for the use of the Product in a specific jurisdiction.
ただし、次のいずれかに該当する場合、売主は買主に対して補償、弁護、免責の義務を負わないものとする。
(a) 買主が提供した指示、設計、仕様に売主が従ったことにより発生した侵害;
(b) 買主が製品を仕様書に定める製品の使用目的以外に使用したことにより発生した侵害;
(c) 買主が製品を、売主が提供又は承認していない他の製品、システム、又は部品と組み合わせて使用したことにより発生した侵害;
(d) 買主が売主の事前の書面による同意なく製品を改変又は変更したことにより発生した侵害;
(e) 買主が特定の管轄区域で製品の使用に必要な許可、ライセンス、又は権利を取得しなかったことにより発生した侵害。

責任制限(Limitation of Liability)

責任制限条項とは、契約当事者の責任範囲を制限し、想定外のリスクによる損害を最小限に抑えるための取り決めであり、特定の損害賠償責任の免除や上限額の設定等について明記されることが一般的です。本条項は、 ”Limitation of Liability” の頭文字を取って、LOLと呼ばれることもあります。

責任の制限の範囲については、自社の立場や相手との力関係、契約の性質やリスク、業界の慣行など多くの要素によって決められることになりますが、相手方との交渉を行う際は、自社の優先事項や譲歩の許容範囲などについて、予め自社のコンセンサスを形成しておくと良いでしょう。

【サンプル条項】(特定の損害賠償責任の免除及び上限額の定め方)

Except as expressly provided in this Agreement, neither party shall be liable for any indirect, incidental, consequential, or punitive damages arising out of or in connection with this Agreement.
本契約に明示的に規定されている場合を除き、いずれの当事者も、本契約に関連して発生する間接的、付随的、結果的、または懲罰的損害について責任を負わないものとする。
The total liability of either party, whether in contract, tort, or otherwise, shall not exceed the total amount paid by the Purchaser to the Seller under this Agreement.
契約、不法行為、その他の理由によるいずれの当事者の責任も、買主が本契約に基づき売主に支払った総額を超えないものとする。

英文売買契約書の作成・レビューを弁護士に依頼するメリット

ここまで見てきたように、同じ売買契約書であっても、英文売買契約書には、和文の場合とは異なる条項や用語が頻出し、背景にある法律や契約についての考え方にも文化的な違いがあります。

そのため、自社でいつも使用している売買契約書をそのまま英語に翻訳して使えるわけではありません。また、自社で契約書を用意できないため、先方から提示された原案をレビューすることなく、そのままサインしてしまうことには、大きなリスクが伴います

英文売買契約書の作成を行う場合や、先方から提示された英文売買契約書の原案のレビューを行う場合は、ぜひ法律の専門家である弁護士に依頼されることをお勧めします。その際は、海外ビジネス事情にも詳しい弁護士であれば、法的な観点に加えて、実務に即したすぐに役立つアドバイスを迅速に提供することが可能です。

英文売買契約書の作成を弁護士に依頼することによって、英文契約書に必要な構成要素を的確に押さえた上で、売買契約書のポイントとなる重要な条項を適切に規定し、さらに、ウィーン売買条約の適用やインコタームズの条件の選択についてのアドバイスも受けることができます。

また、先方から提示された英文売買契約書のレビューを弁護士に依頼することによって、原案の規定に潜む自社のリスクを洗い出すことができ、自社に有利な契約条件で売買契約を締結することができるよう適切な変更案の提示も受けることができます

売買契約書を英文で作成・レビューするポイントのまとめ

売買契約書はビジネスの基本ともいえる契約類型であり、和文での契約締結には馴染みがあるというビジネスパーソンの方も少なくないと思います。しかし、同じ売買契約でも国際的な取引となり、英文で作成、レビューを行うとなると、形式面でも内容面でも、その相違に戸惑われるかもしれません。

特に、英文の売買契約書では、和文の売買契約書に比べ、一般的に分量が多く、規定の明確さを重視するため、網羅的かつ詳細に定められるという特徴があり、加えて、Whereas条項や約因、ウィーン売買条約、インコタームズ、TT、L/C、LD、LOLなどの見慣れない専門用語にも注意が必要です。

英文売買契約書の作成や締結を検討されている場合には、法律の専門家のアドバイスを受けながら、リスクをチェックし、対応策を盛り込みながら、自社のビジネスが有利に進むよう、準備を進めることをお勧めします。

WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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