
- 2025.12.19
販売代理店契約における代理権の定め方の注意点とは?弁護士が解説|サプライヤー側の契約審査(契約書レビュー)Q&A
この記事では、エージェント方式の販売代理店契約において、「販売代理権を他人に与える場合に、代理権の内容について注意しなければならないこと」について、サプライヤー(メーカー)側からのご相談にお答えします。
目次
相談事例
~A社(販売代理店契約 サプライヤー)より~
製造業である当社(A社)は、当社の商品Xについて、販売ノウハウを持つ小売業者であるB社にも販売してもらいたい(販売する代理権を与えたい)と考えています。そこで、当社(A社)は、B社と販売代理店契約を結ぶことになりました。
当社(A社)の手元にある販売代理店契約書の雛形には、「B 社に販売の代理権を付与する」旨の記載がありますが、これで事足りているでしょうか。契約書で代理権の付与を定めるにあたり、どのような点に気を付けたらよいでしょうか。
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答
「B 社に販売の代理権を付与する」だけでは、契約書に定める方がよい内容に不足しています。
後のトラブルを避けるためには、 ①その代理権が独占であるかの別 ②代理権の範囲 ③地域・顧客等の範囲の限定 ④代理権の再付与の可否 等を明確に定めておくことをお勧めします。
以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、「販売代理権契約」の概要・基礎知識について、説明します。
販売代理権契約とは
販売代理店契約は、サプライヤー(メーカー)が自社の商品・サービスを広く販売するため、代理店に販売を委託、許諾する契約です。「代理店」については、「販売代理店」と呼ぶこともあります。販売代理店契約は、その方式により以下の2種類に分けられます。
■エージェント方式/代理店型
代理店がサプライヤーの代理人の立場で取引に関わり、販売手数料を受け取る形態。「代理店契約」と呼ばれることもあります。顧客とサプライヤーは、商品・サービスに関し直接契約を結び、代理店は当該契約の当事者とはなりません。
■ディストリビューター方式/販売店型
商品を代理店が買い取り、自社の在庫とした上で直接に顧客に販売する形態。「販売店契約」と呼ばれることもあります。
前者のエージェント方式での代理店の行為は、法的な「代理」という意味(民法第99条第1項)からしても、サプライヤーの「代理」ということができ、契約関係としては、サプライヤーが代理店に対し、顧客への営業活動や契約申込みの取次などの業務を委託する形となります。
一方後者のディストリビューター方式は、法的な意味からすると、代理店の行為は「代理」とはいえず、代理店とサプライヤーとの契約関係は、基本的には売買契約となります。そのため、ディストリビューター方式における代理店は、「代理店」ではなく「販売店」と呼び分けられることもあります。
しかし、この法的な意味とは別に、ビジネス上はどちらの方式においても、「販売代理店
契約」「代理店」などの用語が使用されています。
本記事では前者のエージェント方式(代理店型)を想定し説明します。
本事例における契約関係 ~販売代理店契約(エージェント方式)の一例~

▶参考情報:販売代理店契約においてのQ&Aについては下記の記事でも解説していますので、ご参照ください。
・販売代理店契約における販売手数料/支払い方法の定め方の注意点とは?|サプライヤー 側の契約審査(契約書レビュー)Q&A
・販売代理店契約において競合品の取扱いが禁止された場合|代理店側の契約審査(契約書レビュー)Q&A
・販売代理店契約において販売手数料を確実に受領するためのポイント|代理店側の契約審査(契約書レビュー)Q&A
本事例の解説
代理権の独占・非独占の別を定める
まず、販売代理権が独占なのかそうでないのかを確認する必要があります。
代理権の内容をめぐってトラブルにならないように、契約当事者たる代理店のみが本商品を販売する代理店となる(独占的代理権を付与する)のか、第三者も本商品を販売する代理店となり得る(非独占的代理権を付与する)のか、明確に定めるようにしましょう。
契約書において、たとえば、次のように記載することがあります。
~記載例~
| サプライヤー側は、 代理店側に対し、本契約の有効期間中、別紙で定める商品(以下「本商品」という。)を 、[非独占的/独占的] に販売する代理権を付与する。 |
後述(4-3.地域・顧客等の範囲の限定)にも関連しますが、特に、代理店に独占的代理権を授与する場合、代理店が独占的に販売できる地域を限定するのが一般的です。サプライヤーとしては、本商品の代理店が同一地域で競争することで、値崩れが起こるなどといった事態を防ぐことができます。
ただし、独占的代理店(総代理店)に対しこのような販売地域の制限を行う場合には、独占禁止法2条9項の「不公正な取引方法」に該当する可能性があるため、注意が必要です。どのような場合に、「不公正な取引方法」に該当するのかについては、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(公正取引委員会)を参照してください。
代理権の範囲の明確化
次に、販売代理権の範囲を確定する必要があります。
なぜなら、代理店側が顧客との間で、サプライヤー側の予定しない値引き、条件変更、表明・保証等の合意を勝手に行わないようにするためです。
その点を踏まえて次のように記載することが考えられます。
~記載例~
| 1.サプライヤー側が代理店側に付与する代理権の範囲は、本商品の売買契約の締結およびその代金の受領とする。 2.代理店は、原則として、本契約で定める販売条件の下、顧客への販売を行うものとする。また、代理店は、本契約に明確に定める場合を除き、顧客に対しサプライヤーの利益を不当に害しうる表明・保証を行わないものとする。 3.前項に定める販売条件の変更を行う場合、サプライヤーおよび代理店の書面による合意を要するものとする。 |
なお、代金の受領は、契約などの法律行為ではありませんが、法律行為以外の事実行為も契約に含めることも可能ですので、現実の取引内容に合わせて、その点の記載も忘れないようにしましょう。
例えば、販売先(顧客)から本商品の販売代金を受領するのが、サプライヤー側か代理店側のどちらなのかを明確にしないでいると、代金受領業務をめぐり双方の現場が混乱するおそれがあります。
代理店契約の場合、代理店がサプライヤーに代わって販売代金を受領することも多く、この場合には、代理店が代金を受領した後、販売店側へ代理店の手数料を受領した代金から差し引いて、残りの商品の代金を販売店に引き渡す流れとなります。
また、販売の代理権が付与された目的物の範囲を明確にしないと、サプライヤーの想定しない商品の販売が行われ、クレームの増加やブランド毀損に繋がるおそれがあります。
そのため、販売代理の目的物の範囲をめぐってトラブルにならないように、例えば、機械の部品などの場合には、品番や型番まであらかじめ特定しておくことが肝要で、後日の権利紛争の防止に役立ちます。
地域・顧客等の範囲の限定
代理店が本商品を販売できるテリトリー(国・地域・顧客等)を明確にすることも重要です。
例えば、複数の代理店間が特定地域の顧客を取り合い値崩れやブランド価値の低下を招いたり、サプライヤー側で販売を予定する地域で売上が落ちる等のリスクに晒されます。
また、越境販売を想定する場合には、現地国の法令遵守を徹底させないと間接的にサプライヤー側に損害が及ぶ可能性もあるため、現地国を適切に限定した上で、関連法令遵守条項を契約書に記載する等の措置を講じておく必要があります。
代理権の再付与の可否
代理店が、サプライヤー側に無断で第三者に販売代理権を再付与すると、サプライヤーの管理が届かない所で本商品が販売されることになるため、再付与先の販売態様次第で法令違反を招いたり、クレーム件数が増加する等のリスクがあります。
実務上は、再委託(再付与)を原則禁止とした上で、サプライヤーの事前承諾がある場合に限り個別的に許可する方法を採ることが多いです。
- 販売代理店契約と景品表示法上の注意点
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代理店側が不当表示を用い販売すると、サプライヤー側も景品表示法による措置命令・課徴金命令等を受ける場合もあります。同法の規制対象となる事業者は、不当表示等につき「その内容の決定に関与した事業者」であり、代理店に商品のラベルや広告等の表示を任せたサプライヤーも含まれます。
販売代理店契約を締結する際には、サプライヤーと代理店とで、どちらが景品表示法遵守のチェックを行うのかを明確にしておくことも重要です。
その他の販売代理店契約でよくあるトラブル
上記に解説した注意点の他に、販売代理店契約でよくあるトラブルについて、ご紹介します。トラブルを避け、円滑にビジネスを進められるよう、契約書の内容は慎重に検討しましょう。
再販価格の指示
商品をいくらで販売するかは事業主が市況に応じ決定するのが基本です。そのため、サプライヤーが販売代理店側に再販価格拘束を強いると、恣意的に公正な価格競争を歪め得るため、独占禁止法違反の当否をめぐりトラブル化する可能性もあります(流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針「(第1部)第1.再販売価格維持行為」参照)。
本事例のようにエージェント方式での販売代理店契約の場合には、原則的にはサプライヤーが在庫負担します。そのため、価格決定の主導権はサプライヤー側にあるといえ、販売代理店に再販価格を指示しても、通常は違法となりません。
他方、ディストリビューター方式の場合には、在庫負担は販売代理店が行うため、価格決定の主導権は販売代理店側にあり、再販価格の指示は、公正競争の観点から正当な理由がない限り、原則違法となります。ディストリビューター方式での契約を行う場合には慎重に進めることが推奨されます。
クレーム対応・責任の所在
顧客からのクレームをサプライヤーか代理店のどちらが対応するのかを決めておくことも大切です。
顧客側からすると、商品に不備があれば第一に直接購入した代理店に問い合わせることが多いでしょう。しかし、代理店が必ずしも当該商品の詳細を把握しているとは限らず、代理店側で不適切な説明・対応がされると、クレームが深刻化したり悪評が広まる等のリスクが生じます。
予想されるクレームやトラブルの中身に応じ、「誰がどのように対応するのか」を、事前に当事者間で取り決めておくようにしましょう。
販売目標数不達成時の対応
トラブルの中には、代理店の売上が販売目標数に到達しない状況が続くというものもあります。
販売代理店契約では、サプライヤーは売上の一部を代理店に委ねるため、自社の利益率を下げないように目標数を設定することが多く、仮に代理店が目標数を下回る状況が続くようならば契約関係の解消を検討する必要もあります。
もちろん合意解除や催告解除(民法第541条)の余地もありますが、協議の不調や催告期間の長短で、解除の時期が遅くなることも想定されますので、「代理店の目標未達成が何ヶ月に継続した場合に解除事由とするか」を契約書に明記しておくことは、経営上も有効です。
- 営業秘密・顧客情報の取扱い
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販売代理店契約では、代理店にサプライヤーの営業秘密や顧客情報を開示することもあります。代理店の下で情報漏洩が起きると、サプライヤーは競合優位性や顧客の信用を失ったり、個人情報保護法違反を問われることもあります。
代理店に営業秘密等を開示する場合には、代理店側で使用できる目的・範囲、社内を含め開示できる範囲、インシデント時の対応フロー等を明確化しておくことが大切です。
なお、漏洩等に対しては不正競争防止法で保護されるものもありますが、開示情報の性質・管理状況等によって不保護となる場合もあるので、契約書と同法のダブルでリスク対応していくことが推奨されます。
おわりに
以上のように、販売代理店契約の締結では、採用する販売方式(エージェント方式/ディストリビューター方式)に合わせ、代理権の範囲や販売条件を明確にすることに加え、代金の授受や管理方法など実際の事務オペレーションを踏まえた契約内容とすることで想定されるトラブルを回避することが可能です。ただし、独占的代理店に対し販売地域の制限を行う場合には、独占禁止法の「不公正な取引方法」に該当する可能性もありますので、その点の検討も必要となります。必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします。
※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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