- 2024.12.23
様々なビジネスモデルの中でも、近年特に注目されているのは、「レベニューシェア」という契約形態です。「レベニュー(revenue)」とは、英語で売上や収入、収益という意味であり、「レベニューシェア」とは、事業による収益を、発注側と受注側で予め定められた割合で分配する「成果報酬型」の契約のことです。レベニューシェア型の契約は、これまでIT業界で多く見られていましたが、最近ではIT業界以外の業界においても活用される機会が増えてきています。レベニューシェア契約は、発注者側としても、受注者側としても、それぞれ良い点、注意が必要な点があるため、契約を結ぶ前にどんな契約形態なのか確認しておきましょう。
この記事では、レベニューシェア契約の概要やレベニューシェア契約を採用することのメリット・デメリット、レベニューシェア契約書の作成時に注意すべきポイントなどについて、成功例や失敗例にも言及しながら解説します。
目次
レベニューシェア契約とは
レベニューシェア契約の定義と特徴
レベニューシェア契約とは、言い換えれば、「成果報酬型」の契約のことであり、事業によって生じた収益を、発注側と受注側で分配する契約です。受注側が受け取る報酬は予め固定されておらず、売上の配分率を契約で定めておき、それに従って報酬が決定される契約形態となります。レベニューシェア型を用いる契約は、請負や準委任などの契約類型が多く、受注側が発注側から業務委託された作業を遂行したり、成果物を作成したりなどした結果、その作業や成果物によって、ビジネスにおいて顧客からの収益が見込めるケースで結ばれることが特徴です。
レベニューシェア契約のメリットとデメリット
レベニューシェア型の契約形態のメリットとしては、従来の発注・受注・報酬などの形式にとらわれず、柔軟なビジネスモデルを構築しやすいという点が挙げられます。これは発注側、受注側どちらにとってもメリットとなるでしょう。また、発注側のメリットとしては、レベニューシェア契約では、原則として受注側が初期費用を負担するため、依頼をする発注側は、初期投資を抑えることができます。受注側のメリットとしては、従来の固定報酬型よりも、成功すれば継続的に報酬を得ることができるという点で、長期的に安定した利益を見込めます。さらに、成果次第では大きな報酬が得られるためモチベーションが高まるというメリットもあります。
レベニューシェア契約のデメリットとしては、ビジネスモデルに対する発注側と受注側の双方の合意が必要であるため、合意形成や意思決定に時間を要する場合も考えられるという点があります。また、発注側のデメリットとしては、固定報酬ではないため、ビジネスの成功に伴い、長期的に高額な報酬を支払う必要があります。受注側のデメリットとしては、ビジネスが成功するまでは収益を得られないことや、ビジネスが失敗に終わってしまった場合に、初期投資の負担が全てそのまま損失となるためリスクが大きいことなどが挙げられます。
レベニューシェア契約が活用されるビジネス形態
レベニューシェア契約には、前述のようなメリットとデメリットがあり、発注側としては、初期費用を抑えられて、収益が無ければコストがおさえられることや、受注側としては、長期的に収入が得られ、収益が増えれば報酬が増えることなどから、発展型のシステム開発に多く用いられています。それ以外で、レベニューシェア契約が活用されるビジネス形態の例としては、ECサイト、アプリ開発、予約システム構築などが挙げられます。また、IT業界以外にも、リースやレンタル業界、飲食店業界、不動産業界などでもレベニューシェア契約の活用が広がりを見せています。
レベニューシェア契約書の作成時に注意すべきポイント
報酬の算定方法
報酬の算定方法や分配について、契約書にどう定めるかが、レベニューシェア型の契約の最重要事項であるといえます。受注者の受け取る報酬が、ビジネスの収益によって左右される流動的な契約であるため、特に、報酬計算の元となる収益の取り扱いについては、細かくかつ明確に規定する必要があります。例として、報酬割合を乗じる対象は売上か利益か、収益の計上のタイミングは注文が確定した時点か実際に収益が得られた時点か、報酬の対象には消費税を含むのかどうかなどは、事前に取り決めをした上で契約書に明記しておくことが大切です。
契約期間
レベニューシェア契約においては、契約期間についての規定を明確に定めておくことが必要です。レベニューシェア契約は、成果報酬型の契約であるため、契約の期間が短期であるか長期であるかによって、受注側が受け取る報酬が大きく変わってくるからです。また、契約期間はビジネスが成功するか失敗するかによっても変わってくることが考えられるため、当初は比較的短期間に設定し、両者の合意によって更新を可能とし、更新期間についても柔軟に設定できるように規定しておくことも考えられます。
著作権の取り扱い
レベニューシェア契約が、ECサイトやアプリなどの開発を目的とした契約である場合、契約期間中に新たに発生した創作物の著作権の取り扱いについては、慎重に検討が必要です。著作権を受注側である制作会社が持つのか、発注側である依頼者に譲渡するのか、また、譲渡する場合は有償とするのか無償とするのかについても、両社で確認の上、契約書に明記しておきましょう。特に、自社が受注側である制作会社の場合は、契約更新により長期的な報酬を得るためにも、自社に著作権を残しておきたいところです。
制作物の仕様
レベニューシェア契約においては、各当事者の業務の範囲や役割分担を明確にするとともに、開発を予定している制作物の仕様についても明確にしておくことが必要です。レベニューシェア契約の成果報酬型の場合、一般的には、制作物の追加や修正をしても、追加作業費用等を発注者に負担してもらうような契約ではないため、際限なく追加作業を依頼されると受注者の負担が大きくなってしまいます。自社が受注側である場合は、予め定めておく制作物の仕様や追加作業等の規定についても慎重に検討しましょう。
コストやリスクの負担割合
発注側・受注側のどちらかに、コストやリスクなどの負担が過度に偏っている場合、たとえ事業で収益を上げていたとしてもレベニューシェアは失敗に終わるケースが多くあります。レベニューシェアは双方にとってメリットが多く、シナジー効果が期待できる相手と公平にリスクを負担し、公平に収益を配分することで成功につながるといえます。レベニューシェア契約を締結する際は、発注側または受注側のどちらかだけに、過度な負担が偏る規定とならないように気を付けましょう。
レベニューシェア契約の成功例と失敗例
成功例
- 電子書籍
電子書籍の販売は、レベニューシェア契約の典型的な成功例といえます。電子書籍の販売においては、作家と出版社の間、さらに、出版社と電子書籍プラットフォーム(Amazon Kindle、Apple Booksなど電子書籍を販売するオンラインストア)の間でもレベニューシェア契約が締結されることが一般的です。具体的には、電子書籍の売上収益から、プラットフォームが一定の割合の手数料を差し引き、残りの金額が出版社に支払われます。そして、出版社がその収益から一定の割合を作家に対して支払います。これがいわゆる「印税」となります。電子書籍が売れれば売れるほど、全員にとっての収益が上がり、モチベーションを保つことができる合理的な仕組みであるといえるでしょう。 - 不動産管理
不動産管理の分野においても、レベニューシェア契約は活用されています。例えば、ビルの入退場管理にレベニューシェア契約を導入することで、効率的な運営が実現されています。具体的には、ビルを所有する会社が、入退場管理のためのゲートや発券端末などの設備の設置について他の事業者と契約し、入場者数による収益に応じて、設備事業者へ報酬を支払います。このケースにおけるレベニューシェア契約は、入場者数という明確な数字に基づいて収益を配分できるため、公平で合理的な仕組みであり、設備事業者はサービス品質向上へのモチベーションを高めることができます。入退場管理におけるサービス品質が向上することで、ビルの利用者の満足度が向上し、ひいてはビルに対するテナントからの評価の向上にもつながることが期待できるでしょう。
失敗例
成功例が多いレベニューシェア契約ですが、失敗例もありますので、注意が必要です。レベニューシェア契約における分配の対象を「利益」としたために起こった飲食店経営の例を見てみましょう。ある飲食チェーン店がフランチャイズ店との契約で、「売上(収益)」ではなく「利益」を基準にして報酬を分配することにしました。初めのうちは順調に見えましたが、各フランチャイズ店が異なる方法で経費を計上し始めたため、利益の計算にばらつきが生じました。例えば、ある店は高価なインテリアを導入し、経費がかさみ利益が減少した一方で、別の店は経費を抑えて利益を増やしました。この差がトラブルの原因となり、公平な報酬分配が難しくなってしまい、結果として、契約の見直しや再交渉が必要となり、信頼関係にも影響が出てしまいました。この失敗例は、飲食店経営に限ったものではなく、レベニューシェア契約は本来、「収益」の分配が原則であり、もし「利益」を基準とするのであれば、その場合は経費の透明性と統一した基準が不可欠であり、当初の契約において、認識の齟齬がないよう、詳細な規定を定めておく必要があります。
レベニューシェア契約のまとめ
レベニューシェア契約は、発注側と受注側のどちらにとっても大きなビジネスチャンスとなりますが、一方でこの契約形態特有のリスクも伴います。特に、受注側が受け取る報酬が、ビジネスの収益に応じて増減するため、収益の定義や報酬の計算方法などを契約書の規定において明確にしておく必要があり、通常の請負契約や準委任契約などと比べて、契約内容の曖昧さを排除する必要性がより高い分、規定がより複雑になることが考えられます。レベニューシェア契約の締結を検討されている場合には、法律の専門家のアドバイスを受けながら、契約書の作成を行うことをお勧めします。
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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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