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2024.11.20
売買基本契約書の必要性とリーガルチェックのポイントをわかりやすく解説!

売買基本契約書は、「基本契約書」の名のとおり、売買取引に係る基本的事項を売主と買主の間で取り決めるための契約書であり、その後の個別の売買取引に共通して適用されるべき項目を明記します。売買基本契約書を締結することで、その後の取引における契約の手間を大幅に省くことができ、また、商品やサービスを売り買いする上での両社の基本的な約束事を予め書面で明確にすることでトラブルを未然に防ぐことができます。

この記事では、売買基本契約書の必要性及び記載事項とリーガルチェックのポイントについて解説します

売買基本契約書とは?

売買基本契約書の必要性

売買基本契約書は、単発ではなく、継続した複数回の売買取引を想定し、その後の個別の取引に共通すると考えられる基本的事項(支払方法や納入・検査方法、契約不適合責任、解除、損害賠償など)を定めた契約書です。
売買基本契約書がなければ、取引の都度、個別契約書において上記の基本的事項についても全て盛り込み、内容を確認しなくてはならず、手間や時間が余計にかかることとなります。
売買基本契約書が必要な理由はこれだけではありません。基本的な取引条件をあらかじめ明確にしておくことで、当事者間のトラブルを未然に防ぐことができます。例えば、売主側の立場では、「大口の発注の場合は〇ヶ月前に通知する」などとしておくことで、取引の予測を立てられることになるでしょう。さらに、トラブル発生時の対応方法を定めておけば、万一トラブルとなった場合に迅速な解決へとつなげることが可能となります。例えば、買主側の立場では、「契約不適合責任」(後述します)について明記しておくことで、商品やサービスが契約の内容と異なっていた場合に、大きなトラブルへと発展することなく、契約に基づき売主に対応を求めることができるでしょう。
以上の理由から、売買基本契約書は多くの売買契約において作成されています。

売買契約書作成における一般的な方式

継続的な売買取引において、売買基本契約書を作成する場合、以下の2通りの方式で契約書を作成することが考えられます。

①売買基本契約書と個別契約書を作成する方式:
・売買基本契約書: 前述のとおり、売買取引全般に適用される基本条件をまとめた契約書です。
・個別契約書: 個別の売買取引ごとに異なる条件(発注数や金額、納入日など)や特定の取引に関連する詳細な事項を定めた契約書です。基本契約書の規定を一部変更する場合に締結することもあり、そのような事態に備えて、売買基本契約書においては、基本契約と個別契約の規定が矛盾抵触する場合は、個別契約の規定が優先する旨を予め定めておくと良いでしょう。

②売買基本契約書と発注書、発注請書(注文請書)を作成する方式:
・売買基本契約書: ①と同様です。
・発注書: 買い手側が具体的な商品やサービスの注文に関する条件を明示する書面です。
・発注請書(注文請書): 売り手側が発注書を受け、注文を受けることを承諾したことを買い手側に伝えるための書面です。

上記いずれの方式で売買契約を締結するにしても、個別の取引の度に変更する必要がない項目は、基本事項として売買基本契約書に盛り込むことで、その後の手続きを煩雑にせず、都度、スムーズに個別契約を締結したり、発注書・発注請書を発行したりすることができます。

売買基本契約書の基本的な記載事項

売買基本契約書を構成する主な記載事項は、一般的には次のとおりです。

①契約の当事者および目的
②取引の対象となる商品やサービス
③契約の適用範囲および優先関係
④代金および支払方法
⑤納入方法
⑥検査
⑦危険負担
⑧所有権移転時期
⑨保証事項
⑩契約不適合責任
⑪製造物責任
⑫貸与品の取扱い
⑬秘密情報の取扱い
⑭損害賠償
⑮契約期間
⑯契約の解除
⑰反社条項
⑱協議事項
⑲準拠法および合意管轄

売買基本契約書のリーガルチェックのポイント

契約書のリーガルチェックとは、法的な観点から契約書を検証することです。その検証に基づき、自社のリスクを最小限に抑えるため、また自社にとって有利にビジネスを進めるため、契約書案に変更を加え、相手方と交渉を試みます。
売買基本契約書を含め、契約書は契約当事者のどちらが案を作成することも法律上は可能です。ただし、商慣習や業界の慣例などがあり、売買基本契約書の場合は、売り手側が契約書案を作成し、案を受け取った買い手側がその契約書のリーガルチェックを行うというパターンが多いです。以下、リーガルチェックの際のポイントを確認しますが、自社で契約書案を作成する際にも同様の視点を持ってチェックすると良いでしょう。

自社のリスクとなり得る規定をチェックする

売買基本契約書の案に含まれる契約条件や諸規定が、自社にとって不利でないか、不当な取り決めとなっていないかを確認することが重要です。違法な契約内容を修正することはもちろんですが、法的には問題は無いが、ビジネス上、相手方にかなり有利な取り決めになっており、自社にとって不利、不当な規定があることは、契約締結後のビジネスにおいて、自社のリスクとなります。契約書本文を自社有利に押し戻す変更を行うとともに、変更の目的を相手方へ説明するコメントを付与します。

契約書の規定が自社の目的に沿うものであるかチェックする

売買基本契約書の案が、自社のビジョンや今回の契約の目的と整合しているかを確認します。相手方との中長期的で実りあるビジネス上の関係を築くためには、売買基本契約の内容が、目先の取引だけでなく中長期的な取引までを視野に入れた包括的で網羅的なものであることが望ましいでしょう。そのために契約条件の調整や規定の追記等が必要な場合は、相手方と十分に交渉しましょう。

過去の契約、関連する契約との矛盾をチェックする

締結予定の売買基本契約書と関連する契約書や過去に締結した契約書が存在する場合、それらとの整合性を確保することで、契約書間の規定の矛盾や、将来的なトラブルを避けることができます。整合性を取ることが難しい場合や、過去の契約書の規定を全て確認できない場合などは、今回締結予定の売買基本契約書において、本契約の規定が従前の契約に優先する旨を定めておくと良いでしょう。

追加すべき契約条項をチェックする

売買基本契約書の原案の規定をチェックするだけでなく、契約書の内容が、自社の目的やニーズに合致するように、必要な条件や条項を契約書に追記します。また、法令上、定めておくべき条項や、契約の性質上、必要な条項が抜けている場合も、条項の追記を忘れないように注意しましょう。

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売買基本契約書でポイントとなる「契約不適合責任」

「契約不適合責任」とは、取引された商品やサービスが契約書の条件に適合しない場合に発生する売主の責任です。契約不適合責任は民法や商法に定めがあるため、売買契約書において規定がない場合は民法や商法の規定が適用されます。しかし、契約不適合責任は、売買契約書のポイントとなる重要な規定であるため、契約書において詳細な規定がおかれることが一般的であり、契約締結前に条件の交渉が行われることも多いです。
具体的には、売主が契約不適合責任を負う期間や契約不適合に対処する方法、契約不適合による契約解除や損害賠償、免責条項などについて規定します。リーガルチェックでは、この契約不適合責任に関する規定が適切に設定されているか、自社の立場から検討して大きく不利になるものではないかなどを慎重に確認しましょう。また、自社が買主である場合は、商法の規定は民法の規定よりも買主に厳しい条件の規定であるため、商法の規定を適用しない旨も明示しておくと良いでしょう。

売買基本契約書を締結する際の心構え

売買基本契約書を締結するにあたり、本契約書は、今後の円滑な取引のためのものであり、また自社のリスクを適切にカバーするためのものであるという意識をもつことが大切です。契約締結の際の具体的な心構えについて、以下で見ていきましょう。

契約の目的、自社の優先順位を明確にしておく

今回の売買基本契約における自社の目的、優先順位を契約締結に向けた交渉をする前に明確にしておきましょう。契約は相手があることですので、自社の希望や有利な条件が全てそのまま通るとは限りません。目的と優先順位がはっきりしていれば、交渉段階において、相手方に譲歩できる契約条件はどれか、反対に、自社が譲れない条件はどれか、ということが迷うことなく判断できます。

契約に関する予備知識を持つ

取引に関わる法令、業法や最近の判例についてのリサーチを行い、契約書に反映させるべき法的事項を予め把握しておきましょう。今回の取引に類似した売買契約に関して、実際にあった過去のトラブルと裁判所の判断を前もって理解しておくことで、契約締結段階において、先々の危険を回避する対策を講じることができます。

契約を締結する前に十分に確認、交渉する

契約の締結(記名押印や電子サイン)をする前に、今回の契約の内容・条件について、当事者間での認識の齟齬を無くし、十分な合意が成立するまで、丁寧に徹底的なコミュニケーションを行います。当事者同士だけではなく、必要に応じて専門家の法的アドバイスを取り入れ、両社にとって納得のいく契約条件の確立を目指しましょう。

まとめ 

自社の利益を守りながら相手方との円滑な売買取引を進めるためには、売買基本契約書において、適切な項目を漏れなく設定し、契約締結までに、相手方と十分に認識をすり合わせることが大切です。
また、契約書のリーガルチェックは、契約後のトラブルや自社のリスクを予め回避したり、コントロールしたりするために非常に重要な過程となります。リーガルチェックにおいては、方針や選択を一つでも間違えてしまうことで、時として大きな損害に繋がる可能性もあります。自社のリスクを減らし、法的に適切な契約を結ぶためには、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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