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2024.10.02
専門家が教える!外注でのシステム開発とWebサイト制作において契約書に定めるべき著作権の取扱いとは?

システムの開発やWebサイトの制作は、金額的に大きな投資となることも多く、会社にとって慎重に進める必要があるプロジェクトです。さらに、契約内容をよく確認しないまま進めると、知らないうちに著作権侵害等、著作権に関連するトラブルに発展することがあります。

今回はシステム開発やWebサイト制作などを外注する場合の著作権に関する問題と、契約書において著作権に関連しどんな内容を定めておくべきかを解説します。

外注でのシステム開発とWebサイト制作における著作権の問題とは

システム開発やWebサイト制作の外注では、著作権の問題について理解しておく必要があります。
まずは概要を確認していきましょう。

著作権の基本的な概念

著作権とは、著作物を創作した著作者に対し、法律上認められる権利で、他人が「無断で○○すること」を止めることができる権利といわれます。著作者の権利は大きく分けると「著作者人格権」と「著作権(財産権)」の2つで構成されており(著作権法17条1項)、「著作者人格権」は著作者の精神的利益を守る権利であり、一身専属、つまり他人に譲渡できない権利です。一方「著作権(財産権)」は著作者の財産的利益を守る権利で、他人に譲渡することが可能です。また著作権は、申請や登録などの手続きは必要なく、創作した時点で自動的に発生します(著作権法17条2項)。

システム開発やWebサイト制作外注で問題となる著作権

なお、著作権法には「著作権」という名称の権利は規定されておらず、複製、上演、演奏、公衆送信、翻訳・翻案といったように利用形態ごとに権利が規定されています。この多数ある権利のうち、システム開発やWebサイト制作においては、例えば下記の①~④の権利などが問題となります。
①送信可能化権(著作権法2条1項9号の5):著作物を他人に無断でインターネット上にアップロードされない権利
②複製権(著作権法21条):著作物を他人に無断でコピーされない権利
③翻案権(著作権法27条):著作物を他人に無断で修正されない権利
④同一性保持権(著作権法20条):自分の著作物の内容や題号を、自分の意に反して無断で「改変(変更・切除等)」されない権利

なお、①~③は「著作権(財産権)」で他人に譲渡可能ですが、うち③27条翻案権(及び28条の権利)は著作権譲渡の契約において、”27条、28条の権利を譲渡する旨を特記“していない場合は元の著作者に留保されることとなっています。また④同一性保持権は著作者人格権であり、他人に譲渡することはできません。具体的な対応方法など詳しくは後述します。

委託料を払ったからといって、当然に著作権も譲渡されるわけではありません!

システム開発やWebサイト制作において、開発されたシステムのソフトウェアや、Webデザイン及び当該Webデザインを構成する画像、文章、音楽、動画といったコンテンツは、「著作物」に該当することが一般的です。そこで、外注によるシステム開発やWebサイト制作では、これら成果物の著作権の帰属が重大な問題となります。
委託料を支払って制作してもらい、納入された成果物であっても、著作権は当然に自社に譲渡されるわけではないことが重要なポイントです。原則として著作権は著作物を創作した人に帰属するため、外注で制作されたシステムのソフトウェアやWebサイトのコンテンツの著作権は依頼を受け制作した側(つまり外注先)に帰属します。この著作権について適切に処理しておかないと、発注した企業としては、自社のシステムやWebサイトであるにもかかわらず、自由に公開、コピー、修正などの利用をすることができない(著作権侵害する)こととなってしまいます。

システム開発の外注と著作権の扱い

まずは、システム開発の場合について解説します。

システム開発における成果物の著作権の帰属

システム開発においては、ソフトウェアの開発を行い、完成したソフトウェアを納入する場合が一般的です。ソフトウェアは、「プログラムの著作物」として著作権法で保護されます(著作権法第10条第1項9号)。さらに具体的にいうと、プログラミング言語で記述されたソースコードが著作物として保護されうる対象となります。
また、先述のとおり、著作物の著作権は著作物が創作された時点で自動的に著作者、つまり外注先のソフトウェア制作企業が有するものですので、著作権を譲渡してもらう、または必要なライセンスを付与してもらうなどの必要があるかの検討を行い、適切に対応することが重要です。

複製権・譲渡権・貸与権

システム開発の外注(委託)契約において、納入されたソフトウェア(プログラム)の著作権の帰属についてなんら手当を行わなかった場合、当該プログラム制作の委託者である企業が、自社に納入されたソフトウェア(プログラム)と同じ又は類似するソースコードを有するプログラムを複製したり、貸与、販売する行為は、著作権(複製権・譲渡権・貸与権等)の侵害行為となる可能性があります。特に、今後別のプロジェクトで同じソフトウェアを流用する可能性がある場合や、他社に同じソフトウェアを貸与したり販売したりする計画がある場合には、著作権を譲渡してもらう契約としておくことなどの対応が必要です。

同一性保持権・翻案権

また、ソフトウェア(プログラム)の使用にあたっては、バグの修正やバージョンアップなどの改変が必要となる場合が多いため、著作権法第20条第2項第3号において、通常の使用に必要な改変については「同一性保持権の侵害」にはあたらない旨定められていますが、著作者が「翻案権侵害」を主張する余地は残されていますので、後のトラブルを避けるためには契約において適切な対応が必要です。

Webサイト制作の外注と著作権の扱い

次にWebサイト制作の場合を解説していきます。

Webサイト制作における著作権の基本

Webサイト制作においては、画像文章、音楽、動画などのコンテンツ及び、これらコンテンツで構成されたWebデザインそのものが著作権の対象となります。したがって、例えば発注元である企業が、制作会社が制作した画像などのデザイン素材を、著作者=制作会社に無断で使用し、自社のパンフレットを制作する場合、著作権侵害となる可能性があります。
自社の広告などにおいて、画像などのコンテンツを自由に利用するためには、契約において、著作権を譲渡してもらう、もしくは利用を許諾してもらうなどの取り決めをしておきましょう。

なおWebデザインのうち、レイアウトや色(配色)については、「思想や感情を創作的に表現したもの」ではなく、「その創作物を表現するための手法」にすぎないとして、著作権は認められないと考えられています。つまりレイアウトや配色を真似ても、著作権侵害にならないということです。ただしこの場合でも、すべてそっくりそのまま真似すれば、盗用と判断される可能性はありますし、どこからが「創造性」や「独自性」なのかは判断が難しいため、自社が広告などにおいてWebサイトのデザインについて自由に使用したいなどの意図がある場合には、トラブルを避けるため、契約において著作権を譲渡してもらうなどの対応を取っておくことが重要です。

素材サイトの利用と著作権

Webサイト制作では、外注先が素材サイトを利用する場合もあります。素材サイトで扱われる素材には無料で利用できるフリー素材と有償素材があります。フリー素材の場合でも商用利用や改変に制限があるものが多いため、注意が必要です。フリー素材、有償素材ともに、使用可能範囲やクレジット表示義務等は各素材または素材サイト毎に異なります。素材の不適切な利用は著作権侵害を招くリスクがあるため、契約書には、素材サイトの利用に関しては利用規約を遵守するべきこと、万一不適切な利用であった場合の責任は制作会社が負うとするなどの条項を盛り込んでおくと良いでしょう。

契約書に記載すべき著作権に関する条項

上述のように、システム開発やWeb制作を外注する際、著作権トラブルを防ぐためには、契約において適切な条項を定めるなどの対応を取ることが重要ですが、具体的にどういった内容を定めておくべきか、順にみていきましょう。

著作権の帰属先について明確にする

第一に、成果物の著作権の帰属先を明確に示すことが重要です。そのためにはまず、納入されたプログラムやWebサイトのコンテンツ等を、自社において今後どのように利用したいのかを明確にしましょう。プログラムの他社への販売や、Webサイトのコンテンツの自由な転用を想定している場合は、著作権を譲渡してもらうか、必要な範囲でのライセンスで足りるのかなどを検討し、契約にて定めます。

①著作権を譲渡してもらう場合
成果物の著作権について、制作会社から発注元(自社)に譲渡(移転)する旨を定めます。さらに、著作権の譲渡条件も具体的に記載しておく必要があります。著作権移転のタイミング、著作権の譲渡の対価は委託料に含まれるのか否か、譲渡の範囲、著作権侵害が発生した場合の対応方法なども含めて詳細に取り決めることが推奨されます。

  • 27条・28条の権利も移転することを特記
    また、前述のとおり、著作権譲渡の契約において、特記しなければ、当然には譲渡されない権利があることにも注意が必要です。著作権法27条(翻訳権、翻案権等)、28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)です。条項のなかに、「著作権法第27条及び第28条の権利を含む。」といった文言を入れることで対応可能です。万一特記しなければ、複製などの行為は自由に行えるが、改変などを自由に行えないこととなります。

  • 著作者人格権の不行使
    さらに、20条同一性保持権などの著作者人格権は、一身専属の権利であり他人に譲渡することはできません。したがって、契約において、「受託者(制作会社)は著作者人格権を行使しない」旨を定めておくことも重要です。定めなければ、著作者(制作会社)の意に沿わない改変などは行えないこととなり、自由な事業の妨げとなる可能性があります。

②必要な著作権のライセンスをしてもらう場合
著作権自体は著作者(制作会社)に残したまま、発注元(自社)が必要な著作権の使用について、ライセンス(許諾)してもらう内容とすることも可能です。

当然、①の契約内容として、完全に自社の自由に成果物を利用できるとする方が自由度は高くなりますが、自社の事業計画、制作会社の方針や、委託料、他の条項との兼ね合いも考慮しながら総合的に判断していくこととなります。

第三者の権利侵害について手当

外注でのシステム開発やWeb制作においては、制作会社が制作した成果物が、第三者の著作権などの権利を侵害してしまう可能性もあります。例えば完成したWebサイト公開したら、第三者から、画像の著作権侵害を主張され、使用停止と損害賠償を請求される、といったケースが考えられるでしょう。
そのため、契約において、「第三者の権利侵害については受託者(制作会社)が責任を負う」などの内容を定めておくことも大切です。

その他外注時の著作権トラブルに備える方法

コンテンツが著作権法に違反していないかを確認

契約にて対応する以外に、上述の第三者の著作権侵害のリスクを回避するためには、外注先が使用する素材やコンテンツが著作権法に違反していないかを確認することも必要です。具体的には、素材サイトの利用が適切か、ライセンス契約が適正かどうかなどをチェックすることが考えられます。

契約のみならず、制作会社との認識のすり合わせなどコミュニケーションをとる

また、契約内容に落とし込む前段階として、外注先と著作権の取扱いに関する認識のすり合わせをしっかり行うことも、トラブルを避けるためには重要です。さらに契約後も定期的に制作会社とコミュニケーションを取ることで、契約内容が適正に守られているかを確認し、著作権に関する問題を早期に発見・解決することができます。

ケーススタディ: 実際のトラブル事例とその対策

システム開発におけるトラブル事例

システム開発における外注では、著作権に関連した問題としては、例えばシステム開発会社が開発したソースコードや成果物の著作権帰属が不明確な場合、後に発注側がその成果物を別のプロジェクトで再利用しようとした際に、開発会社から著作権侵害のクレームを受けることがあります。これを防ぐためには、契約時に著作権や知的財産権の帰属を明確にしておくことが重要です。
また著作権に関するトラブルに限らず、様々なトラブルが発生する可能性があります。例えば、開発途中で仕様変更が必要になった場合で、その場合の費用負担が不明確だった場合などが考えられます。このようなケースでは、外注先から追加の費用負担を求められる場合も多く、開発会社との間で紛争に発展してしまうこともあります。
さらに、システム開発後に発生するトラブル対応・メンテナンスや追加開発においてもトラブルが起こりやすいです。具体的には、報酬の支払いタイミングや対応方法について不明瞭な場合、対応が遅れて大きな損失を招くことがあります。こうしたリスク回避のためには、契約内容を詳細に取り決め、仕様変更やトラブル時の対応方法を事前に明確化する必要があります。

Webサイト制作におけるトラブル事例

Webサイト制作の外注でも、様々な著作権トラブルのリスクがあります。例えば、素材サイトから利用した画像やイラストに適切なライセンスが付与されておらず、無断で使用された場合に著作権侵害が指摘されることがあります。このような場合、Webサイトの運営者は高額な賠償金を支払うリスクがあります。また、Webサイトの内容更新や改修を依頼した際に、過去の成果物を再利用できない場合も問題になります。これは、外注契約で著作権の譲渡やライセンスの明確な取り決めがない場合に起きがちです。発注側が自社で運営するつもりのコンテンツに関する権利を持たないと、再度外注しなければならず、コストが増大するリスクがあります。

まとめ

システム開発やWebサイト制作の外注でおさえておくべき著作権の重要ポイントは、契約書に具体的な条項を盛り込み、著作権の帰属やライセンスの範囲を明確にすることです。これにより、後のトラブルを未然に防ぐことができます。しかし、どれだけ準備をしても完全にトラブルを避けることは難しい場合もあります。このような状況に備えるために、専門家への相談を積極的に行うことをおすすめします。著作権法や契約法に詳しい専門家に相談することで、リスクを最小限に抑え、確実にプロジェクトを進めることができます。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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