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2024.09.03
金銭消費貸借契約における遅延損害金と利率の設定方法について|貸主側の契約審査(契約書レビュー)Q&A

この記事では、「金銭消費貸借契約の遅延損害金の利率をどのように設定すればよいか」について、貸主側からのご相談にお答えします。

相談事例

A社およびA(金銭消費貸借契約 貸主)より~

私(A)は、関西地方で両親が営んでいた衣料品店の事業を受け継いで拡大し、十年ほど前に法人成りしました。現在は、同じ関西地方でアパレルや化粧品の店舗販売・EC通販を行い、数年前に始めた飲食事業も好調です。この度、状況が異なる二者を相手に事業拡大のための資金をそれぞれ一千万円ずつ貸し付けることになり、二件の金銭消費貸借契約の話が進んでいます。私自身も当社も、貸主として金銭消費貸借契約を締結するのは初めてのことであり、貸金業者でもありません。以下のそれぞれのケースにおいて、遅延損害金利率の設定をどうするかアドバイスをいただきたいです。

一件目は、当社(A社)が貸主当社のグループ会社(関連会社)(B社)が借主です。B社の代表取締役は私の姪であり、姪は英国でMBAを取得した後、当社に就職し修行を積んできました。役員に昇格した後も商才を発揮し当社に大きな貢献をした後、独立。当社の関連会社として、インテリアや雑貨、多肉植物のデザインや販売を行う事業を軌道に乗せてきました。今年、ペット事業を新規に始めることになり、富裕層が多い沿線を対象に、ドミナント戦略として、多店舗とEC通販を短期間で同時に展開するために大規模な初期投資を行うことになりました。ペットの洗練されたライフスタイルを多角的に提案するという地域のニーズに合致した事業であり、成功の可能性が高いと考えています。また、姪とは個人的な信頼関係もあり、B社からの貸金の返済についても心配はしていません遅延損害金の利率は一般的な数字で良いと思います。

二件目は、私個人(A)が貸主友人の経営者(C)が借主です。Cが代表取締役を務めるC社は、スポーツクラブを運営する会社です。政令指定都市の駅前商店街に新店舗をオープンする準備を進めているのですが、万博の影響もあり、建設業界の人手不足のため工期が延長し、当初のオープン見込みには間に合わないようです。しかし、Cはそのような状況にも関わらず、シャワー室の仕様を変更して、今流行りのロウリュのあるサウナを追加で作りたいと言い出し、そのための資金を個人的に貸してほしいと頼まれています。当該エリアは、サウナは飽和状態であり、昨今のサウナブームもいつまで続くか不明なため、投資が回収できる見込みは厳しいのではないかと思っています。正直なところ、あまり貸したくないのですが、Cには以前、当社の経営が厳しかった時に、今回貸す金額以上の資金を貸してもらった恩があるため断れません。ちなみに以前、私がCから借金をした際には遅延損害金の利率は年14.6%でした。今回、利率をなるべく高めに設定したいのですが、14.6%が上限でしょうか

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答

一件目のご相談のように、遅延損害金の利率を高く設定する必要がない場合は、法定利率の年3%とすることをお勧めします。また、二件目のご相談のように、遅延損害金の利率をなるべく高く設定したい場合につきましては、今回のご相談の場合は、元本の額が一千万円であり、さらに貸主は貸金業者でないため、利率の上限は、年21.9%となります。14.6%という上限利率は、今回のご相談の場合には適用されません。

以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、「金銭消費貸借契約」「遅延損害金」「利率」について、説明します。

金銭消費貸借契約とは

「金銭消費貸借契約」とは、「消費貸借(金銭その他の物を受け取り、同種・同等・同量の物を返還することを約束すること)」のうち、受け取る物が「金銭」であるものをいいます。 すなわち、金銭を受け取る代わりに、それと同額の金銭(利息付の場合は利息も含む。)を返すという契約です。つまり、一般的に言う「借金」ということになります。

消費貸借契約は、従来、一律に「要物契約」(当事者の合意に加えて、物の引き渡しがあって初めて成立する契約)」として規定されてきましたが、民法改正により、金銭等の引き渡しがなくても、書面や電磁的記録で消費貸借契約を締結した場合は、効力が生ずることが明確化されました(これを「諾成的消費貸借契約」といいます)。そのため、貸付の合意や条件等について、契約書で正確かつ詳細に定めておくことの重要性がさらに増したといえます。

なお、金銭の貸し付けを業として行う場合は、貸金業法に定められた貸金業の登録を受ける必要があります。個人が業としてではなく貸し付ける場合や、企業が自社の関係会社に貸し付ける場合は、原則として登録は必要ありません。しかし、個人によるものや関係会社間の融資であっても、反復継続して行う場合は、「業として行う」と考えられるため、貸金業の登録が必要になります。

遅延損害金とその利率とは

遅延損害金

「遅延損害金」とは、債務者の支払いが遅れたときに、債務者が債権者に対して、遅延した日数に応じて、元本に対して一定の利率で計算し、支払うお金のことをいい、民法419条に定められています。「遅延利息」と呼ばれることもあります。遅延損害金については、債権者は損害の立証をする必要がなく、契約で定められた利率のとおりに、債務者に対して損害賠償を請求できます。

遅延損害金の定めは、金銭消費貸借契約以外の契約類型でも、売買契約の商品代金や、業務委託契約の業務委託料、不動産賃貸借契約の賃料など、金銭債務の遅延について用いられる規定となります。

なお、契約において、遅延損害金の「約定利率」(当事者間の合意による利率)を定めなかったときは、「法定利率」(法律で定められた利率)が適用されます。

利率

「利率」とは、元本に対して設定される利息の割合のことであり、「1年あたりの利率(年利)」とされることが一般的です。遅延損害金の利率とは、金銭債務の遅延による損害を計算するための元本に対する利息の割合のことです。

利率には、上記「4-1.遅延損害金」の項でも触れたように、「約定利率」(当事者間の合意による利率)「法定利率」(法律で定められた利率)があり、約定利率の定めが無い場合には、法定利率が適用されます。

法定利率については、民法404条において規定されています。法定利率は、改正前の旧民法では、一般の取引に適用される民事法定利率(年5%)と、商行為で生じた債務に適用される商事法定利率(年6%)がありました。しかし、この利率が市中金利を大きく上回る利率であったため、新民法20204月施行)では、これらが一本化されて年3%に統一され、また、市中金利とかけはなれることのないよう、3年に一度見直される、「変動金利」となりました。これは、3年ごとに日銀が公表する、短期貸付金利の過去5年間の平均(=基準割合)が前回の変動時(最初は第1期の基準割合)と比較して1%以上開きがある場合、法定利率も1%刻みで変動するというものです。

現在のところ、第1期(令和241日から令和5331日まで)の基準割合は0.7%、第2期(令和541日から令和8331日まで)の基準割合は0.5%であり、変動(0.2%)が1%未満であるため、法定利率は第2期においても年3%のままとなっています。各期間における法定利率をまとめると、以下のようになります。

  • 令和2331日までの法定利率・・・年5
  • 令和241日から令和5331日までの法定利率・・・年3
  • 令和541日から令和8331日までの法定利率・・・年3
  • 令和841日以降の法定利率・・・未確定(変動の可能性あり)


【参考】「令和541日以降の法定利率について」(法務省)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00317.html

本事例の解説

遅延損害金の利率に関するルール

遅延損害金の利率に関しては、関係法令で詳細なルールが定められています。

まず、前述したように法定利率は、民法により3%からの変動利率と定められており、現在は年3%となっています。約定利率が存在する場合は、約定利率が法定利率に優先します。つまり、法に定められた上限利率以下であれば、遅延損害金の利息について当事者間(A社とB社間、AC間)で自由に定めることが可能ということになります。

なお、14.6%という利率は、国税通則法に定められた延滞税の上限利率や、消費者契約法に定められた事業者と消費者との間で締結された金銭消費貸借契約以外の契約における遅延損害金の上限利率であり、今回のご相談の場合には適用されません

金銭消費貸借契約上(本事例はこれにあたります)の債務を履行しない場合の遅延損害金の利率の上限は、利息制限法に詳細な定めがあり、同法41項により、同法1条に定める利息の上限利率(以下のかっこ内の利率)の1.46になります。まとめると以下のようになります。

  • 元本の額が10万円未満の場合・・・29.2%(年20%)※20×1.4629.2
  • 元本の額が10万円以上100万円未満の場合・・・26.28%(年18%)※18×1.4626.28
  • 元本の額が100万円以上の場合・・・21.9%(年15%)※15×1.4621.9


この上限にはさらに例外があり、利息制限法71項により、貸金業者による貸付けの場合には、元本の額に関わらず20%が上限となります。

~ご参考~
事業者と消費者、金銭消費貸借契約とそれ以外の契約における、それぞれの遅延損害金の上限利率をまとめると以下のようになります。

  • 金銭消費貸借契約における遅延損害金の上限利率・・・上記のとおり
  • 事業者と消費者との間で締結された金銭消費貸借契約以外の契約における遅延損害金の上限利率・・・年14.6%
  • 事業者間または個人間で締結された金銭消費貸借契約以外の契約における遅延損害金の上限利率・・・上限なし契約自由の原則による。もっとも公序良俗違反により裁判所に無効と判断される可能性はあり。)

本事例における上限利率

今回の事例の契約類型は、「金銭消費貸借契約」であり、1件目2件目とも、貸主(相談者側)は貸金業者ではありません。
貸付金額(元本)は、1件目2件目とも、1千万円とのことです。
よって、1件目2件目とも、上限利率は、前項でご説明した、
元本の額が100万円以上の場合・・・年21.9% (利息制限法41項)が当てはまることとなります。

利率を高く設定する必要性がない場合(本事例1件目)

今回の事例の一件目のように、貸主と借主の間に信頼関係があり、返済の見込みについても不安要素が少なく、返済が遅延するリスクが低い場合などは、遅延損害金の利率を高く設定する必要性は低いといえます。

そのような場合は、法定利率の年3%(例えば、元本の額が一千万円である今回のケースでは、返済が一年遅れた場合の遅延損害金の額は30万円)とすることをお勧めします。

なお、遅延損害金の利率について、契約書に記載しなかった場合には、法定利率が適用されることになります。しかし、法定利率は変動利率であり、返済の遅延が発生した時点の利率が適用されることになるため、現在の法定利率と異なる利率となる可能性もあります。利率を明確にしておくため、現在の法定利率とする場合にも、契約書には利率の数字を明記しておいた方が良いでしょう。

利率をなるべく高く設定したい場合(本事例2件目)

今回の事例の二件目のように、返済の見込みに不安があり、返済が遅延するリスクが高い場合は、貸主としては、遅延損害金の利率をなるべく高く設定し、借主に返済を動機づけることにより、返済の遅延を防ぎたいと考えることが多いと思います。

そのような場合には、法律の定める範囲内であれば、約定利率を上限まで高く設定し、先方に提示することが可能です。もちろん、先方が合意するかどうかは交渉次第となります。

今回のご相談の場合は、元本の額が一千万円であり、さらに貸主は貸金業者でないため、利率の上限は、年21.9%(例えば、返済が一年遅れた場合の遅延損害金の額は219万円)となります。繰り返しとなりますが、年14.6%という利率は、国税通則法に定められた延滞税の上限利率や、消費者契約法に定められた事業者と消費者との間で締結された金銭消費貸借契約以外の契約における遅延損害金の上限利率であり、今回のご相談の場合には適用されません。

おわりに

以上のように、遅延損害金の利率は、法定利率約定利率の上限利率で大きな数字の開きがあり、貸主、借主の立場や契約類型、金銭消費貸借契約においては元本の金額によっても、上限利率が異なります。そのため、遅延損害金の利率は、個別の事情に応じて適切に設定する必要がありますが、違法となる利率を設定することがないように注意しなければなりません。必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら、契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします。

※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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