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2024.09.03
金銭消費貸借契約における貸付実行前条件と表明保証の違いとは?|貸主側の契約審査(契約書レビュー)Q&A

この記事では、「金銭消費貸借契約の貸付実行前提条件と表明保証の違いについて、そして、それぞれどのような事項を定めればよいか」について、貸主側からのご相談にお答えします。

相談事例

A(金銭消費貸借契約 貸主)より~

当社(A社)は東海地方で菓子製造業を営む中小企業であり、創業者の孫である私(A)は三代目の社長となります。会社の業績は安定しており、近年はジェトロのサービスを利用して海外進出にも挑戦しています。あんこや抹茶を使った菓子などの売り上げが海外でも順調に伸びています。

この度、同じ東海地方でパチンコ店やボウリング場、ゲームセンターなどを展開するアミューズメント会社(B社)に事業拡大のための資金を貸し付けることになりました。貸主は私個人(Aですが、借主はBとなります。B社の二代目社長(B)とは、同じ公立高校から地元の公立大学経済学部を卒業し、常々、自動車産業だけではない東海地方の産業の多様さや中小企業の将来性についての展望を熱く語り合ってきた旧知の仲です。

今回の事業拡大は、東海地方のある中核市の駅前再開発に伴い、駅と直結している商業施設内に大規模な子ども向け室内遊技場の店舗をB社が出店するという計画です。中核市の駅直結の新しい商業施設ということもあり、テナント料の負担は大きく、さらに保証金などの初期費用を考えるとB社の当面の資金繰りはかなり厳しくなるようです。しかし、今回の子ども向け室内遊技場は近場に競合が無く、入場料を高めに設定しても十分な集客が見込めるため、無事にオープンまでこぎ着ければ、開店にともなう初期費用は比較的短期間で回収できるとBも私も考えています。何より、私はBの挑戦を応援したいと思っています

先日、Bと会った際に資金を貸す口約束はしたのですが、後々、揉め事にならないようにするため、金銭消費貸借契約を書面で締結したいと思います。しかし、自分が貸主となって金銭消費貸借契約を結ぶのは初めてのことであり、ひな形をいくつか見たものの、特に、貸付実行前提条件表明保証の項目が似ているため、違いがよく分からず、それぞれ何を定めたら良いのかも分かりませんBからは唯一の要望として、B社はクリーンな企業というイメージを大切にしているため、反社条項をしっかりと入れてほしいと言われていますが、これは表明保証条項に記載すれば良いのでしょうか

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答

貸付実行前提条件と表明保証は、「法律要件」(一定の法律効果が生ずるために必要とされる事実のこと。以下「要件」といいます。)は類似していますが、「効果」(要件により生じた法律的な結果のこと)が異なります。また、反社条項については、貸主及び借主の双方向の規定として、表明保証とは別途、詳細な規定を定めることをお勧めします

以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、「金銭消費貸借契約」「貸付実行前提条件」「表明保証」について、説明します。

金銭消費貸借契約とは

「金銭消費貸借契約」とは、「消費貸借(金銭その他の物を受け取り、同種・同等・同量の物を返還することを約束すること)」のうち、受け取る物が「金銭」であるものをいいます。 すなわち、金銭を受け取る代わりに、それと同額の金銭(利息付の場合は利息も含みます。)を返すという契約です。つまり、一般的に言う「借金」ということになります。

消費貸借契約は、従来、一律に「要物契約」(当事者の合意に加えて、物の引き渡しがあって初めて成立する契約)」として規定されてきましたが、民法改正により、金銭等の引き渡しがなくても、書面や電磁的記録で消費貸借契約を締結した場合は、効力が生ずることが明確化されました(これを「諾成的消費貸借契約」といいます)。そのため、貸付の合意や条件等について、契約書で正確かつ詳細に定めておくことの重要性がさらに増したといえます。

なお、金銭の貸し付けを業として行う場合は、貸金業法に定められた貸金業の登録を受ける必要があります。個人が業としてではなく貸し付ける場合や、企業が自社の関係会社に貸し付ける場合は、原則として登録は必要ありません。しかし、個人によるものや関係会社間の融資であっても、反復継続して行う場合は、「業として行う」と考えられるため、貸金業の登録が必要になります。

貸付実行前提条件と表明保証とは

貸付実行前提条件

「貸付実行前提条件」とは、金銭消費貸借契約において、事前に規定された貸付が行われる条件のことを指します。借主がこの条件を全て満たした場合に、貸主に金銭貸付の義務が発生することになります。

前項で触れたとおり、民法改正により、書面等で合意した場合は実際に金銭の受け渡しが行われなくても金銭消費貸借契約が成立することが明文化されました。つまり、金銭消費貸借契約を書面等で交わした場合、貸主は、金銭を借主に貸し付ける義務を負うこととなります。従って、貸主としては、無条件で貸付の義務を負わされることがないよう、契約時に貸付実行前提条件を詳細かつ明確に定めて、貸主の金銭貸付けが条件付きの義務であることを明らかにしておくことが重要です。

表明保証

「表明保証」(Representations and Warranties:レプワラ)とは、ある一定の時点(金銭消費貸借契約では、契約締結日と貸付実行日とすることが一般的です。)において、契約当事者(金銭消費貸借契約では特に借主側)の法務や財務等に関する一定の事実について、その事実が真実かつ正確であることを契約当事者が相手方に対して、「表明」し「保証」する契約条項となります。金銭消費貸借契約のみならず、事業譲渡契約や株式譲渡契約、投資契約、不動産売買契約など、契約においては広く利用されている規定となります。

本事例の解説

貸付実行前提条件と表明保証の違い

貸付実行前提条件および表明保証のどちらも、借主が貸主に対して、自らの条件や状態等を約束するというような性質がありますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。

まず、貸付実行前提条件表明保証では、それぞれの規定が対象としている事項が異なります。貸付実行前提条件は、あくまで「貸付」という事実のみの前提として規定されているのに対して、表明保証は、「契約」自体をその規定の対象としているといえます。

つまり、貸付実行前提条件と表明保証は、その効果の範囲が異なります。借主の貸付実行前提条件が満たされない場合は、貸付が行われないことが効果となりますが、表明保証は契約全体にかかる規定のため、借主が表明保証に反した場合は、その効果はより幅広く、貸付前であれば、貸付の不実行、貸付後であれば、借主の期限の利益喪失(借主が直ちに全ての元利金を弁済する義務を負うこと)、貸付の前後を問わず、借主の貸主に対する損害賠償等の効果が発生することになります。

要件としては、類似する事項や重複する事項が定められることも多いですが、「貸付」に対する規定である貸付実行前提条件の要件の方が、「契約全体」に対する規定である表明保証条項よりも限定的かつ具体的であり、表明保証は、より幅広く抽象的な要件が定められることが一般的です。

貸付実行前提条件として定めるべき事項

本事例においては、貸付実行前提条件として、以下のような事項を定めると良いでしょう。

  • 借主の表明保証の正確性・真実性
    ※貸付実行前提条件と表明保証の関係性として、表明保証事項が正確かつ真実であることが貸付実行前提条件の一つとなる場合が多いです。
  • 借主の内部手続履践を証する書類(取締役会決議の議事録)の提出
    ※今回の借り入れが「多額の借財」に該当する場合は、取締役会の決議が必要となります。「多額」には数字上の基準はなく、会社の規模や業務内容、資本金・総資産に対する比率などを総合的に勘案して判断されます。
  • 借主に貸主が把握していない借入れが存在しないこと
  • 借主が既存の借入れを完済していること
  • 借主の事業継続に必要な契約が有効に継続していること
  • 借主が事業を継続するために必要な許認可等を取得していること


本事例のように、貸主と借主の間に個人的な信頼関係がある場合でも、後の紛争予防の観点からは、貸付実行前提条件については、詳細かつ明確に規定しておく方が良いでしょう。もっとも、本事例では、貸主は借主に対する貸し付けに積極的であることを考えると、もし、貸付実行前提条件の一部が満たされていない場合であっても、貸主は、自らの裁量で貸付けができると本契約において、定めておくことも可能です。

表明保証として定めるべき事項

本事例においては、表明保証として、以下のような事項を定めると良いでしょう。

  • 借主の提出書類(定款、商業登記簿謄本、財務諸表等)の正確性・適法性
  • 借主の権利能力(※1)および行為能力(※2
  • 借主内部の手続の履行
  • 借主の重要な契約の適法性・有効性・存続性
  • 借主の法令遵守
  • 借主における公租公課の未納または滞納の不存在
  • 借主における労働紛争の不発生
  • 借主における訴訟等紛争の不発生

1 法律上の権利・義務の主体となることができる資格
2 法律行為を単独で確定的かつ有効に行うことのできる法律上の地位または資格

また、上記の表明保証事項に変更があった場合や、表明保証事項のいずれかが真実または正確でないことが判明した場合の借主の対応(貸主に直ちに書面により通知すること等)、およびペナルティ(違反により貸主に生じた損害等の一切の補償、借主が期限の利益を喪失し、直ちに全ての元利金を弁済すること等)についても明確に規定しておく必要があります。

また、依頼者である貸主より相談のあった「反社条項」については、契約類型によっては表明保証に含めることもありますが、本事例においては、表明保証の事項に含めるのではなく、別途、詳細な双方向の規定を設けると良いでしょう。

金銭消費貸借契約の場合、お金を貸す側と借りる側ということで、圧倒的に両者の立場や力関係に差がある契約であるため、貸付実行前提条件、表明保証ともに、借主の貸主に対する一方向の規定となることが一般的である一方、反社条項については、コンプライアンスの観点から貸主および借主の双方向の規定とすることが望ましいためです。

おわりに

以上のように、貸付実行前提条件と表明保証は、一見類似していますが、各規定が定められている目的が異なるため、その効果の範囲に相違があります。貸主からすると、貸付実行前提条件は、十分納得した上で貸付を行うために、また、表明保証は、信頼に足る相手と安心して契約関係を継続するために、どちらも金銭消費貸借契約において非常に重要な規定となります。具体的に、どのような事項をどのような条文によって定めればよいかは、個々の事例によって異なるため、必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら、契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします。

※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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