- 2024.07.02
この記事では、「販売代理店契約において競合品の取扱いが禁止された場合、どのような点に注意して受け入れるべきか?」について、代理店の立場からのご相談にお答えします。
目次
相談事例
~A社(販売代理店契約 代理店)より~
商社である当社(A社)は、メーカーであるB社の商品Xについて、B社に代わり顧客に販売する事業を開始するため、B社との販売代理店契約を結ぶことになりました。当社は商品Xを販売するための顧客基盤を既に持っており、事業が始まれば順調に商品Xを販売することができると見込んでおり、この取引はどうしても成功させたいと思っています。
B社から提示された販売代理店契約書において、「B社商品と競合する他社商品の取扱いを禁止する」旨の条項が記載されていましたが、当社は既に競合品を取り扱っており、さらに今後別の会社の製品(競合品)を取り扱う計画があります。
しかしながら、当該条項の受入れを完全に拒否することは、B社とのパワーバランスの関係上難しいと思っています。この場合、どのような点に注意して受け入れるべきでしょうか?
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答
本事例において、条項を受け入れるのであれば販売代理店側の見返り・メリットを得られるよう交渉し、他社商品の取り扱いを継続したいのであれば、適用時期や販売エリアを限定する旨を追加するなど、双方の希望が折り合う取り決めをすることが適切です。
また、メーカー側(B社)の市場シェアが大きい場合は、本条項が排他条件付き取引として独占禁止法(排他条件付き取引)に抵触するおそれがありますので、対応方針について専門家に相談することをお勧めします。
以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、「販売代理店契約」について、説明します。
販売代理店契約とは
販売代理店契約は、メーカー(サプライヤー)が自社の商品・サービスを広く販売するため、代理店に販売を委託、許諾する契約です。「代理店」については、「販売代理店」と呼ぶこともあります。販売代理店契約は、その方式により以下の2種類に分けられます。
- エージェント方式/代理店型
代理店がメーカーの代理人の立場で取引に関わり、販売手数料を受け取る形態。「代理店契約」と呼ばれることもあります。顧客とメーカーは、商品・サービスに関し直接契約を結び、代理店は当該契約の当事者とはなりません。
- ディストリビューター方式/販売店型
商品を代理店が買い取り、自社の在庫とした上で直接に顧客に販売する形態。「販売店契約」と呼ばれることもあります。
前者のエージェント方式での代理店の行為は、法的な「代理」という意味(民法第99条第1項)からしても、メーカーの「代理」ということができ、契約関係としては、メーカーが代理店に対し、顧客への営業活動や契約申込みの取次などの業務を委託する形となります。
一方後者のディストリビューター方式は、法的な意味からすると、代理店の行為は「代理」とはいえず、代理店とメーカーとの契約関係は、基本的には売買契約となります。そのため、ディストリビューター方式における代理店は、「代理店」ではなく「販売店」と呼び分けられることもあります。
しかし、この法的な意味とは別に、ビジネス上はどちらの方式においても、「販売代理店契約」「代理店」などの用語が使用されています。
本記事では前者のエージェント方式(代理店型)を想定し説明します。
本事例における契約関係 ~販売代理店契約(エージェント方式)の一例~
本事例の解説
競合品の取扱い禁止とは
競合品取扱い禁止とは、メーカーが販売する商品と競合する他社商品を、代理店が同時に商材として扱い、顧客に販売することを禁止するものです。
メーカーとしては、自社商品の販売に注力して欲しいものですが、代理店としては多くの取扱い商品から顧客に選んでもらうメリットも大きく、双方の利害が一致しにくいところです。
本事例においても、A社(代理店)は、販売代理店契約の相手方B社(メーカー)から、「B社商品と競合する他社商品の取扱いを禁止する」という条項を提示されています。一方A社は、既に競合品を取り扱っているうえ、今後別の会社の製品を取り扱う計画もあり、できれば当該競合品取扱い禁止条項の受入れは拒否したいところかと思います。
しかしながら、B社とのパワーバランスの関係上、当条項を完全に拒否することは難しいと考えておられます。一般的にも、力関係が上位の相手方からの要望を拒絶することは、すなわち取引不成立へと繋がるおそれがあり、難しい選択を強いられる場面といえるでしょう。
では、本事例のように、競合品取扱いの禁止条項を受け入れざるを得ない場合、代理店はどのような点に注意し、相手方と交渉すべきでしょうか。
受け入れる際の注意点
競合品取扱いの禁止条項を受け入れる場合、代理店側も何らかのメリットを享受でき、一方的にビジネスを制限されることのないよう交渉することが考えられます。
例えば、競合品の取扱いを行わない見返りとして、代理店が一定期間独占して販売する権利を求めたり、手数料(ディストリビューター方式では、卸値についても)を優遇してもらうなどの取引条件を提示するといった交渉になります。「特約店」としてもらい、代理店の中でも特に優遇してもらう、などという場合もあるかと思います。
また、本事例のように、既に競合商品を取り扱っている場合、即座にそちらを販売停止することは、事実上困難であることも考えられると思います。その場合は、条項の適用開始時期や適用エリアについての取り決めを追記するといった対応が必要になるでしょう。つまり、契約開始時点では競合品取扱いを認めてもらい、ある時点から停止する規定としたり、ある販売エリアについては競合品取扱いを認めてもらう、などの取り決めとなります。
こうした取り決めについては、契約書上だけで完結できない場合も多く、個別の取引先毎に細かな取り決めが必要となることも考えられます。
さらに、本事例においては、A社は、将来的に競合商品を取り扱う計画があるとのことです。そうした場合や、現状ではその計画はなくとも、今後のビジネスの方針によっては競合品の取扱いを行いたくなることも予想される場合は、契約期間を短めに設定し、自動更新にしないでおくことも、ひとつのリスク回避のポイントと言えるでしょう。
排他条件付き取引は独占禁止法違反?
排他条件付き取引とは、「不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること」(不公正な取引方法(一般指定)第11項)をいい、これに該当すると独占禁止法に抵触します。
競合品の取り扱いをさせないことを条件とするだけでは原則違法とはなりませんが、それが競争者の取引機会を減少させる可能性がある場合は、違法となりえます。
例えば大手メーカーが多くの取引先と排他条件付き取引を行ってしまうと、競合他社は取引先を実質的に失うことになります。そのため、そういった公正で自由な競争ができなくなる行為が禁止されています。
具体的には、メーカー等の市場シェア20%ほどが排他条件付き取引と判断される目安とされますが、これについてはケースバイケースです。
本事例において、もし相手方であるB社(メーカー側)の市場シェアが大きいのであれば、B社がA社に対し競合品の取扱いを禁止する行為が独禁法違反となる可能性もあるため、その点の検討も必要となるでしょう。
おわりに
以上のように、販売代理店契約の締結では、代理店がメーカーから競合品の取扱いを禁止された場合、自社の取りたい戦略や現状の商品展開に合わせ、受け入れ可能な契約内容とすることが重要です。一方的にビジネスを制限されることのないよう、独占販売や手数料の面での優遇を約束してもらうなどの交渉を行ったり、条項の適用開始時期や適用エリアについての取り決めを行うなど、適切な検討をするようにしましょう。また、相手方の市場シェアによっては、当該禁止条項が独禁法違反となる可能性もありますので、その点の検討も必要となります。必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします。
※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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