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2024.03.21
委任契約と請負契約の違いとは?業務委託契約において業務範囲を示すうえでの注意点|委託者側の契約審査(契約書レビュー)Q&A

この記事では、「業務委託契約において、委託の範囲をめぐる争いを防ぐため、どのような点を考慮し委託内容を記載すべきか」について、委託者からのご相談にお答えします。

相談事例

~A社(業務委託契約 委託者)より~

サプリメントなどを製造販売している当社(A社)は、実店舗だけの販売のみならず、より大きな集客と収益を得るため、ECサイト(ネットショップ)での販売を開始したいと考え、自社ECサイトを構築し、公開に踏み切りました。ECサイトの保守については、当社には専門の技術者がいないため、X社にお願いすることとし、ECサイトの保守業務委託契約を結ぶことにしました。その際、当社から提示した業務委託契約書では、委託業務の内容として「A社ECサイトの保守業務」とだけ記載し、具体的な委託内容については特定しませんでした。

今回、当社は、保守業務の内容を具体的に定めてはおりませんが、これはX社に広く対応をお願いしたいためであり、たとえば「新たな商品情報の追加・修正」や「ECサイトのアップデート」等についても、委託の範囲内として、今後対応をお願いしようと思っております。

しかしながら、本契約の委託内容に基づき、いざ対応をお願いした場合、委託の範囲外であるとして対応してもらえない場合や、別途報酬が発生する事態とはならないでしょうか。そもそも今回のように、業務委託契約書の委託内容について記載する際、委託の範囲をめぐるトラブルを回避するため、どのような点を考慮して記載すべきでしょうか。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所の回答

業務委託契約の委託内容について記載する際、委託の範囲をめぐる受託者との争いを防ぐためには、委託内容をできる限り明確かつ詳細に記載しておくことが推奨されます。

以下、詳しく見ていきましょう。
まずは、「業務委託契約」「委託の範囲」「委任(準委任)契約か請負契約か」について、説明します。

業務委託契約とは

「業務委託契約」とは、委託者が何らかの業務を、自己に代わって第三者(受託者)に行ってもらうための契約です。一口に業務委託契約といっても、委託する業務の内容によって様々な類型があります。例えば、部品の製造委託契約、機械の保守委託契約、システムの開発委託契約、コンサルティング契約など、委託する内容によりその種類は多岐にわたります。

なお、「業務委託契約」について定めた法律はありません。しかし、民法の委任(準委任)契約請負契約が、業務委託に関して法的根拠を持つと考えられています。委任契約とは、法律行為に関わる事務を委託する際に結ぶ契約であり(民法第643条)、法律行為を伴わない事務の処理を委託する際に結ぶ契約は、準委任契約といいます(民法第656条)。また、請負契約は、当事者の一方が仕事を完成させることを約し、その仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約です(民法第632条)。

~ご参考~

  • 委任契約の例:税理士や弁護士に業務を委託する契約 など
  • 準委任契約の例:医師による診察やコンサルティングを委託する契約 など
  • 請負の例:建築工事請負契約、運送委託に関する契約、コンテンツ制作に関する契約 など
  • 両方の性質を備えている例:システム開発に関する契約 要件定義工程については準委任契約の性質を有し、開発工程については請負契約の性質を有すると評価される。

・・・

取引実務上、委任(準委任)契約も、請負契約も、「業務委託契約」と呼ばれることがあり、両者には混同が生じやすいとされています。しかし、民法、商法の原則では、委任(準委任)契約であるか、請負契約であるかによって、当事者の権利義務が変わってきます。したがって、業務委託契約書を作成、審査しようとする場合、委託する業務の内容を確認し、法的性質が委任(準委任)か、請負か、あるいはその両方の性質を備えているのか、確認し判断する必要があります。
その上で、民法、商法の原則に従うとどのような権利義務を有するのか(例えば、契約不適合責任の有無、善管注意義務の有無、再委託の可否、報酬請求権の有無、費用負担の有無、中途解約の可否等)を把握し、法の原則以外の権利義務を契約書上で規定するのか等について検討していくことが必要となります。

本事例における契約関係

委託の範囲

業務委託契約書を作成する場合において重要な点は、委託する業務をできる限り明確に特定し、しっかりと具体的に記載することです。
委託する業務の内容が契約書において明確でなければ、委託者と受託者の間で想定している委託の範囲に齟齬が生じ、委託者は、受託者から期待通りのサービスが提供されないといったリスクが生じかねません。
したがって、業務の内容については、できるだけ明確かつ詳細・具体的に記載することが望ましくなります。その場合、業務の内容によっては、その記載が膨大なものとなってしまうことも少なくないため、契約書本文ではなく契約書別紙にてこれを記載することも考えられます。

委任(準委任)契約か請負契約か

上記では、委託する業務内容を明確かつ詳細・具体的に記載することが重要であると述べましたが、同様に「どこまでするのかを明確にする」ことについても重要となります。この「どこまでするのか」をどう捉えるかについては、業務委託契約の法的性質を「委任(準委任)」か「請負」とするかによって異なってきます

委任(準委任)契約と請負契約との違いは、委託の目的が「一定の仕事に最善を尽くすこと」か「仕事の完成」かにあります。具体的に言えば、「善良な管理者の注意をもって委任事務を処理すること(=最善を尽くすこと)」が目的ならば委任(準委任)契約、「仕事の完成」が目的ならば請負契約として区別できます。

たとえば、本件のようにECサイトの保守業務委託契約の場合、システムの点検という具体的な事実行為を委託するだけであれば、その性質は準委任契約と考えられます。しかし、保守の結果、異常が見つかった場合、その補修をすることまで委託の範囲とするのであれば、「システムの補修業務の完成」までが要求されていることから、請負契約の側面も持つと考えられ、その区別が必ずしも容易でない場合もあります。

そこで、契約当事者間で認識の齟齬がないよう、契約書の中に契約の性質を「請負」か「委任(準委任)」か明記することも検討されます。ただし、契約書の中にこのような記載があっても、実際にトラブルとなった際の裁判所等の判断においては、「請負」であるか「委任(準委任)」であるかは業務内容に照らして判断されることとなるので(たとえば、契約書に準委任契約であるとの記載があったとしても、業務内容から「仕事の完成」を目的としていることが明らかであれば、その法的性質は「請負」と判断されます。)、法的性質の定めは、契約解釈の際の判断材料の一つとなるに過ぎない点に留意が必要です。

まずは、業務委託契約の法的性質を見極めるため、業務内容の記載は極めて重要となりますので、抽象的ではなく、可能な限り具体的に定め、その上で、実質的に仕事の完成に対して報酬が発生するのか(請負)、業務の遂行に応じて報酬が発生するのか(準委任)をしっかりと検討した上で判断し、本契約の目的を達成するためには、民法、商法上の権利義務を変更して定める必要があるのか を検討することが望ましいと考えます。

本事例の解説

「委託の範囲」について具体的に定める必要性

委託する業務の内容が不明確または不十分な場合、実際に受託者によって業務が実施された場合に、委託者の期待通りのサービスが提供されないおそれがあり、委託の範囲をめぐり、トラブルとなる可能性が高くなります。したがって、委託する業務にどのような業務が含まれ、どのような業務が含まれないのかを具体的に記載し、委託の範囲を明確に定める必要があります。

本件では、契約書に「A社ECサイトの保守業務」とだけ記載しており、委託者としては、「新たな商品情報の追加・修正」や「ECサイトのアップデート」等は、当然に含まれるものと拡大解釈し、要求することが考えられます。一方で、受託者であるX社は、保守業務として、「システム障害の原因調査及び復旧」をメインに考えており、A社の要求には応じられないものとして、トラブルへと発展してしまうリスクが高くなります。 

本件の場合、委託の範囲が不明確であり、そもそも保守業務として何をするべきであるのかがはっきりしていないため、委託者としては、受託者に委託業務として記載のない事項について履行の要求をしづらくなります。また、受託者からは、委託業務に含まれないものとして、別途報酬の支払いを要求される事態を招いてしまうことも想定されます。当然ながら、委託の範囲が明確に規定されていれば、その内容どおりの業務内容の履行を受託者に要求できることとなります。

たとえば、本件では、「商品情報の追加・修正やECサイトのアップデートも含まれるのか」、「保守業務の対応時間はいつからいつまでか」、「システムの不具合発生時には、原因調査までか、復旧作業も含まれるのか」等どの範囲の業務が委託者から支払われる保守料金の範囲で行うべきものかを、できるだけ細かく詳細に定め、また当事者間の認識を一致させるため、その法的性質を、請負契約であるのか、準委任契約であるのかまで明確にしておくと良いでしょう。

三条書面の必須記載事項がなく、下請法違反となっていないか?

「下請代金支払遅延等防止法」(以下、「下請法」といいます。)が適用される業務委託契約の場合、業務内容は、いわゆる「三条書面」の必須記載事項となります。

~ご参考~
下請法は、適用対象となる下請取引の範囲を、「事業者の資本金規模」と「取引の内容」で定義しています。
「取引の内容」としては、大きく分けて、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託 の4つがこれにあたります。
「事業者の資本金規模」としては、例えば①製造委託 の場合、a)親事業者が資本金3億円超の場合 下請事業者が資本金3億円以下 、b)親事業者が資本金1千万円超3億円以下の場合 下請事業者が資本金1千万円以下 の場合が、下請法が適用される取引となります。
・・・

本件は、下請法が適用される、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託の4つの取引のいずれにも該当しませんが、たとえば、下請法が適用される取引内容の例としては、広告会社(親事業者)が、クライアントから受注したCMの制作をCM制作会社(下請事業者)に委託するケースなどが挙げられます(③情報成果物作成委託の例)。この場合、CM制作会社は、映像や音声などにより構成される情報成果物を、広告会社(親事業者)に納入する義務を負うこととなります。

業務委託契約が、下請法に定める下請取引に該当する場合、委託者(親事業者)は、下請法第3条にもとづき、受託者(下請事業者)に対して、「三条書面」と呼ばれる発注書面を交付する必要があります。

この「三条書面」には、必須記載事項として「下請事業者の給付の内容」を記載する必要があります。すなわち、「業務内容=下請事業者の給付の内容」を具体的に記載することは、委託者の法的義務、ということになります。なお、親事業者がこの三条書面を下請業者に交付しない場合には、50万円以下の罰金に処せられるため、注意が必要です(下請法第10条第1号)。

では、この「下請事業者の給付の内容」についてですが、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」によると、次のような内容で記載する必要があります。

第3 親事業者の書面交付の義務
1 3条書面の記載事項
・・・
(3) 3条書面に記載する「下請事業者の給付の内容」とは,親事業者が下請事業者に委託する行為が遂行された結果,下請事業者から提供されるべき物品及び情報成果物(役務提供委託をした場合にあっては,下請事業者から提供されるべき役務)であり,3条書面には,その品目,品種,数量,規格,仕様等を明確に記載する必要がある
(公正取引委員会 「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」第3 1(3)より抜粋)

業務委託契約の場合、業務委託契約書が三条書面の記載事項を網羅していれば、業務委託契約書を三条書面とすることも差し支えありません。したがって、別途三条書面の作成・交付を考えていない場合には、上記のとおり、三条書面の記載事項を満たす必要がありますので、十分に留意する必要があります。

おわりに

以上のように、業務委託契約において、委託者の立場である場合には、受託者から期待通りのサービスが提供されるよう、委託内容はできるだけ詳細かつ具体的に記載し、委託の範囲を明確にすることが重要となります。委託する業務の内容を確認し、法的性質が請負か、委任(準委任)か、あるいはその両方の性質を備えているのかを判断し、その上で、民法の原則に従うとどのような権利義務を有するのか、さらには、法に定められた権利義務を変更して規定するかどうか等を検討していくことが必要となります。

また、下請法が適用される業務委託契約の場合には、業務内容(給付の内容)は、下請法の三条書面の必須記載事項となります。そのため、業務内容を十分かつ明確に記載し、適法な書面を交付できるよう、内容を検討しましょう。 必要に応じて、弁護士等の法律専門家に確認を依頼しながら契約書作成や契約審査(契約書チェック・契約書レビュー)を行うことをお勧めします。

※本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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