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2022.06.21
新型コロナウィルス問題と見直しておきたい契約条項

企業間取引においては、契約書を取り交わす事が多いのですが、昨今の新型コロナウィルスの感染拡大の影響が取引内容に影響し、納品できないなど、トラブルに発展するケースが散見されています。契約内容に「不可抗力」の免債条項が記載されていても、実際に新型コロナウィルスの感染拡大がこの「不可抗力」に該当し、損害賠償請求が否定されるかどうかは、契約書の書き方次第となり、状況に応じて判断せざるを得ない事が多い問題です。今回は自社の債務の履行が困難になった場合、どのような責任が生じるのか、2020年4月1日に施行された改正民法の影響などにも触れながら注意が必要な点を解説します。

契約書の条項例

契約書には下記のような「不可抗力」に関する記載がよくあります。

 「天変地変、戦争、暴動、内乱、ストライキその他の労働争議等の不可抗力により契約当事者が本契約に基づく義務を履行出来ない場合、当該契約当事者は、本契約に基づく何らの責任を負わないものとする」

上記を見ると今回問題となる新型コロナウィルスなどの「感染症」は入っていないため、これが「不可抗力」にあたるのか、また、不可抗力として認められる事情の範囲が争論となり得ます。

不可抗力条項

一般的に不可抗力条項は、戦争等の事情や、地震、台風などの天変地異を原因として、自らの債務を履行できなくなった場合にはその責任を負わなくてよい、といった趣旨で記載されるものであり、大規模な「疫病」または「感染症の流行」など新型コロナウィルスを示唆する文言の明記がない限り、新型コロナウィルスが不可抗力事由に含まれるかは「不可抗力」に関する定義や解釈に委ねられることになります。

この点について、「不可抗力」には確立した定義はないものの、解釈上は、契約当事者が支配管理できない事情であることや、取引に必要な注意をしたとしても防止できないものと考えられているようです。詳しい不可抗力の説明については、本稿の「2 不可抗力とは」をご参照ください。

他方、上述のように、不可抗力条項に大規模な「疫病」または「感染症の流行」といった文言が入っていれば、新型コロナウィルスについても不可抗力事由として、債務者に免責が認められることになります。また、万一裁判に発展しても、通常はその通りに扱うほかなくなります。

普段は目立つことのない条項ですが、不可抗力条項は、様々な場面を想定して、文言が記載されていれば、実際に非常事態が生じた場合に自社を守る役割を果たせる条項であるといえます。

契約の存続ルールに関する条項

「不可抗力」については適切に定めている場合でも、契約期間についてはどうでしょうか。新型コロナウィルスの流行が収束されておらず、「ニューノーマル」な生活様式にシフトしつつある現状では、いつまでも免責されるとは言い難い状況に変化しつつあります。ここで必要となるのは契約期間の見直しです。ここでいう契約期間とは、契約書上に「契約期間」として明示されているものだけではなく、自動更新条項の有無及び内容、中途解約権の有無及び内容、途中解約時の違約金等の条項を含む、広い意味での契約の存続ルールに関する条項全般になります。

不可抗力とは

「不可抗力」についてこれといった定義や、民法上規定はないものの、次のような趣旨と考えられています。

債務者にとって支配不可能な債権者側の事由

債権者による履行の妨害や、債務者が義務を履行するために、債権者が先に履行しておくべき義務を債権者が履行しなかったような場合もこれに当たると考えられます。

債務者の支配下にない第三者側の事由

法令の施行や、予測不可能なストライキ、戦争や内乱の発生などがこれに当たります。

債務者の支配不可能な自然力に関する事由

風雨災害、震災などがこれに当たると考えられます。

新型コロナウィルスによる感染症もこれに該当すると考えられますが、このあたりがまさに解釈の幅が広いところです。

債務の履行に際して、2-1、2-2、2-3の事情が想定される場合には、不可抗力事由としてできる限り明記しておくことが大切になります。また、これら不可抗力に関する免責を主張する場合には、もっぱらそれらの不可抗力事由によることが求められると考えるべきです(そうでない場合には過失相殺の問題として処理されることがあります)。

上記のような理解に従うと、仕入がストップした影響によって、自社には操業上問題はないが、製造ラインがストップし、納品が出来ないというような例では、もっぱら債務者の支配下にない第三者側の事由とも、自然力に関する事由とも言えず、特に契約書に定めがない場合には、不可抗力に当たらないケースが多いと考えられます。

民法改正との関連

新型コロナウィルス問題に関連して「不可抗力条項」について説明をしましたが、2020年4月1日に施行された改正民法では下記のような影響もあります。

2020年4月1日以降の契約

前提として改正民法が適用されるのは、施行日(2020年4月1日)以降に締結された契約であるため、以下3−2、3−3のような改正後の内容は、原則として2020年4月1日以降に締結された契約にのみ当てはまるということにご留意ください。

契約の解除

改正前民法では、債務者に帰責事由がない場合、特約がない限り、債権者は契約を解除できないと一般に解されていました。しかし、ビジネス上の不都合(合意解除まで代替取引先との契約を躊躇する等)を回避すべく、改正民法541条ないし543条では、債務不履行があれば債務者に帰責事由がなくとも、債権者は契約を解除できることになりました。ただし、債権者の帰責事由により債務不履行が生じた場合には、債権者は解除できない定めになっていますので、ご注意ください。

帰責事由の判断枠組みの明確化

415条は改正民法により次のとおり改正されました。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。

(改正民法415条1項 )

本条但書の内容は、債務者の帰責事由について、契約の性質やその目的、契約締結に至る経緯等の債務の発生原因に加えて、取引上の社会通念も考慮した上で個別的に判断するというこれまでの裁判実務を明確化したものですので、帰責事由の有無の判断枠組みを実質的に変更するものではないと考えられますが、今後はこの条文をより意識した検討が求められてくることになるでしょう。

契約書をどのように見直すべきか

この機会に見直しをする場合、チェックするべきポイントは大きく2つあります。

既存の契約状況を確認する

すべての契約書に一般的な不可抗力条項が盛り込まれているか、もし不可抗力条項が盛り込まれていない場合には、帰責事由の判断に際して考慮の対象となるべき類似の「履行困難」に関する条項や不履行に関する文言はあるかや、不可抗力条項の対象範囲から公衆衛生上の危機などの事由が明示的に除外されていないかを確認し、また、不可抗力条項の適用を主張する場合に、通知手順等の従う必要のある手続き上の要件はあるかを確認するなどして、まずは現状の契約内容を把握しましょう。

契約不履行の回避または責任の軽減の可能性を見極める

新型コロナウィルスなど公衆衛生上の危機が続く間に生じる不履行に対して、業界内企業はどのように対応しているかを調べることもよいでしょう。

場合によっては、不可抗力条項の適用を求める当事者には、感染症の影響を回避するためにあらゆる合理的な努力を尽くしたことを証明する義務が課せられる可能性があることもあります。

したがって、不履行を避けるための対応策に実際にかかる費用を算定してみることも大切です。

まとめ

新型コロナウィルス問題を取り巻く状況は日々動いており、その時々における状況を前提にした個別の具体的な検討が求められてくると考えられます。いざというときに備えて、契約文言や、契約の運用を決めておき、普段からリスクを低減するよう最大限配慮しておくことが重要です。契約書の見直しにあたっては、法律または判例で効力が制限されているものが多いため、法務専門家、弁護士などの助言を受けることをお勧めします。上記チェックポイントを参考に、自社の業態、取引内容を踏まえて検討するとよいでしょう。「このような場合はどうなるのか?」といった個別の疑問点がありましたらぜひお気軽にご相談ください。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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