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2022.04.27
業務委託契約書の書き方のポイントは?知っておくべき基礎知識

企業が何らかの業務を外注する際には、「業務委託契約書」を作成すべきです。
きちんと契約書を作成しておかないと、後々外注先とトラブルになる高いリスクが発生してしまいます。

今回は業務委託契約書の書き方のポイントや作成手順、注意点などの基礎知識を弁護士がお伝えします。そのまま使えるテンプレートもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

契約書を作成する際には、ビジネスに特化した弁護士などの専門家による契約審査を受けておくと安心です。自社では契約書の作成に対応しにくい場合には、検討してみるとよいでしょう。

業務委託契約書とは

業務委託契約書は、発注者が受注者に対して何らかの業務を委託する際に作成する契約書です。
民法上「業務委託契約」という契約類型は規定されておらず、多くの業務委託契約は「請負契約」や「委任契約」、あるいは両者が混じった性質を持ちます。

業務委託契約書を作成する目的や雇用契約との違い、種類など確認しましょう。

業務委託契約書の目的・役割

トラブル防止と契約内容の明確化

業務委託契約書を作成する重要な目的の1つは、トラブルの防止と契約内容の明確化です。
契約書がなかったら、委託する業務内容や報酬額、支払時期、契約期間などの重要な要素が明らかになりません。また相手方と認識の齟齬が発生したとき、大きなトラブルに発展してしまいます。

業務委託契約書を作成していたら、お互いに契約書に定めたとおりに行動するのでトラブルに発展しにくくなる効果があります。

トラブル解決の指針

契約書はトラブル解決の指針となる役割も果たします。
たとえば著作権などの知的財産権の帰属が問題となったとき、契約書にきちんと知的財産権の帰属先や移転時期が明らかにされていたら、その内容に従って解決できるでしょう。
万一裁判になったときにも、契約書を証拠として提出すれば相手方の間違った言い分を崩す根拠となります。

契約内容を明らかにしてトラブルを防止し、万一の際の解決指針とするためにも、外注時には必ず業務委託契約書を作成しましょう。

業務委託契約と雇用契約の違い

業務委託契約と雇用契約はまったく異なります。
一番の違いは「誰が仕事に関する裁量権を持つか」という点です。労働者に該当するのは「使用者従属性」のあるケースです。
業務委託契約の場合、受託者(外注先)が自分の裁量で仕事を進めるため、使用者従属性は認められません。業務の開始時間や終了時間、進捗や具体的な進め方については受注者が自分で決定します。

一方雇用契約の場合には、雇用主が被用者へ仕事の進め方について指揮監督します。
始業時間や終業時間、具体的な業務の進め方について定めたり、適宜報告を求めたりもできます。
業務委託契約では労働関係法令が適用されませんが、雇用契約には適用されるので、労働者は強く保護されるという違いもあります。

このため悪質な事例では労働法の適用を逃れるため、本来は雇用契約とすべきところをあえて「業務委託契約」として、脱法行為をはかろうとするケースも稀にあります。

企業が仕事を外注する際には、個別に指揮監督する内容を入れてはなりません。あくまで受注者の裁量に任せましょう。

業務委託契約を締結する場合の種類

業務委託契約にはいくつかの種類があります。分類方法はさまざまですが、ここでは「報酬の定め方」や「継続性の有無」によって分類します。

報酬の定め方

業務委託契約では、発注する仕事や個別事情によって報酬の支払い方法が変わります。
たとえばコンサルタントなどの継続的な契約であれば、月額報酬制やタイムチャージ式にするケースが多数です。
一方、イラストや写真、文章などの納品物を要する場合には、納品ごとの検収として業務ごとに個別に報酬を定めるのが一般的です。

継続か単発か

契約が継続的か単発の依頼かによる分類も可能です。
たとえばウェブサイトのディレクション、SEO対策やコンサルタント等の場合には通常継続的な契約となるでしょう。
一方で、ライティングや写真、イラストやHP制作などであれば単発にするケースも多々あります。

業務の外注時には状況に応じて最適な業務委託契約の形態を選ぶ必要があります。せっかく契約書を作成しても、個別事情を反映せずに不適切な内容にしてしまうと、トラブル防止効果を期待できません。自社のみではどういった形態を選べばよいかわからない場合には、専門家による契約審査を利用しましょう。ビジネスに特化した弁護士などの専門家が業務委託契約書の内容をレビューして最適な文案を提示してくれます。
現在、十分な契約書作成の体制が整っていないと感じているなら、契約審査の利用を検討してみてください。

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業務委託契約書へ記載すべき項目

以下では業務委託契約書へ記載すべき項目を具体的にご紹介します。

項目①:委託業務の内容

まずは委託業務の内容を明確にしましょう。
業務内容が不明確になっていたら、外注先が不十分な仕事をしたときに追完の請求ができなくなってしまう可能性があります。契約書作成前に委託先と話し合って業務内容を取り決め、契約書内に正確に反映すべきです。

項目②:契約期間

継続的に取引する場合には、契約期間についても定めましょう。
期間が満了したときに自動更新とするのか終了させるのか個別に合意すべきとするのかなど、更新の有無や方法についても規定するようおすすめします。
途中解約を認める場合には、どういった手続きが必要になるのか、違約金発生の有無や金額について記載しましょう。

委託料

委託料の取り決め方法については、以下のような定め方があります。

  • 金額を決める
  • 計算方法を定める
  • 契約書には明示せず、個別に協議すると記載する

支払時期や方法についても明確にしましょう。

  • 月額報酬制として翌月末日払い
  • 単発の依頼で納品後の一括払いとする
  • 単発の依頼で数回に分けて支払う

たとえば上記のような定め方が考えられます。

委託料に関する最適な支払条件や支払い方法は、依頼する業務内容や委託料の金額などの事情によっても変わります。

成果物や知的財産権の帰属

業務によって生み出された成果物や著作権などの知的財産権がどちらに帰属するかも定めておくべきです。
たとえば著作権の譲渡を受けておかないと、将来納品物の改変や公開をしたいとき、あらためて外注先の許諾をとらねばなりません。外注先が別途の使用料を求めてくる可能性もあります。発注元の企業としては、著作権や成果物についての権利譲渡を受けておくべきといえるでしょう。

契約書作成前に受注者と話し合い、成果物や知的財産権についての帰属や権利移転時期を決めて、業務委託契約書に内容を反映してください。

再委託について

業務委託契約では「再委託」が問題となるケースが多々あります。
再委託とは、受注者が仕事を別の第三者へ委託することです。
たとえば受注者1人では対応しにくい大きなプロジェクトの場合、受注者が普段からつきあいのある業者に再委託した方が効率的に仕事を進められるケースが少なくありません。

ただ発注者側にとって、まったく知らない第三者へ無断で再委託されるとリスクが発生します。再委託については、事前に発注者側の書面による許諾を要するとしておくと安心です。

秘密保持

仕事を外注する際には、企業の機密情報を一部伝えるケースもよくあります。また仕事内容について外部に漏らされると発注者が不利益を受ける可能性もあります。
そこで、業務委託契約書には必ず「秘密保持」の条項を入れましょう。
秘密保持条項では、どういった情報が秘匿対象となるのか、例外はないのかなど記載すべきです。
たとえば「すでに世間に知られている情報」や「受注者が発注者以外の別途のルートで入手した情報」などは除外されるのが一般的です。

反社会的勢力の排除

企業が反社会的勢力と関わりを持ってしまったら、著しく信用が低下してその後の存続にもかかわります。外注先には反社会的勢力ではないことを確約させねばなりません。

契約解除

お互いに契約違反行為があれば、契約を解除できると定めておくべきです。
違反行為以外にも、相手が破産や民事再生などの破綻状態となったときなどに契約を解除できると定めるケースもよくあります。

損害賠償

相手方の債務不履行によって損害が発生した場合には、損害賠償請求できると定めましょう。
また違約金の定めや損害賠償の範囲の限定も可能です。違約金を定めておくと損害額の立証が不要となって請求をしやすくなります。一方損害賠償の範囲を限定しておくと、義務者にとってはリスク回避策となります。

専属的合意管轄裁判所

専属的合意管轄裁判所とは、紛争が起こって裁判になるときに利用する裁判所についての取り決めです。
管轄の合意をしなければ法律の定める裁判所が管轄となるので、遠方の裁判所を利用しなければならない可能性があります。近くの裁判所を利用できると便利でコストカットもできるので、できれば自社に近い裁判所を専属的合意管轄裁判所にしておくと有利になるでしょう。

業務委託契約書のテンプレート

業務委託契約書を作成する際には、テンプレートを利用すると便利です。以下では一般的な書式を紹介しますので、自社のニーズに応じてアレンジしてお使いください。

業務委託契約書

○○(以下「甲」という)と✕✕(以下「乙」という)は、本日以下の内容の業務委託契約(以下「本契約」という)の締結に合意する。

第1条(委託業務)
甲は、本契約の定めるところにより、以下の業務(以下「本件業務」という)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
 ・○○○○に関する業務

第2条(契約期間)
本件業務にかかる契約期間は令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日までとする。
2契約期間満了日の1か月前までに甲乙いずれからも申し出のないときは、本契約と同一条件で更新され、さらに1年間継続するものとする。

第3条(委託料)
甲は乙に本件業務の委託料として金○○万円を支払う。
2支払方法は、甲が乙指定の金融機関宛に振込むものとし、振込手数料は甲の負担とする。
3支払期限は検収が完了した月の翌月末とする。

第4条(再委託)
乙は、事前に書面によって甲の承諾を得た場合に限り、本件業務の一部または全部を第三者に再委託することができる。

第5条(秘密保持)
甲及び乙は本契約に関する秘密情報につき、相手方から事前に書面による承諾を得なければ第三者に開示してはならない。なお、本契約における秘密情報とは以下のものとする。
① ○○に関する情報



第6条(知的財産権)
本契約にもとづいて発生する知的財産権および本契約に基づく業務遂行の過程で生じる知的財産権は、第3条にもとづいて甲が乙へ委託料を支払った時点で甲に帰属するものとする。

第7条(反社会的勢力の排除)
甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、自ら及び自らの役員が、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員ではないことを確約する。

第8条(解除)
甲または乙は、相手方に以下の記載に該当する事由が生じた場合は、何らの催告を要せず直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
① 本契約に違反する行為をした



第9条(損害賠償)
甲および乙は、本契約に関して相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合には、相手方に対しその賠償を請求することができる。

第10条(協議)
本契約に定めのない事項または本契約内容の解釈等に関して疑義が生じたときは、甲乙が誠実に協議して解決を図るものとする。

第11条 (管轄裁判所)
本契約に関する裁判については、甲の住所地を管轄する簡易裁判所または地方裁判所を第一審の管轄裁判所とすることに合意する。

以上、本契約締結の証として本書を2通作成し、甲乙それぞれ記名捺印し、各自1通ずつ保管する。

令和  年  月  日
甲 住所 
           会社名及び代表者名         印
乙 住所 
           会社名及び代表者名         印

業務委託契約書の作成手順

業務委託契約書の作成は、以下の手順で進めましょう。

相手と契約内容について協議する

まずは外注先と話し合って契約内容を確定させなければなりません。
業務内容や報酬の金額、支払い方法を始めとした諸条件を取り決めましょう。

たたき台を提示

契約内容が固まったら、契約書のたたき台を作成します。
どちらがたたき台を提示してもかまいませんが、自社にひな形がある場合にはそちらを提示するようお勧めします。自社でたたき台を用意すると、自社に著しく不利な条件が含まれるリスクを避けられて有利になるからです。

交渉と調整

契約書のたたき台を相手に提示したら、相手から修正を依頼される可能性があります。
交渉を行って契約書に記載する内容を調整しましょう。
相手がたたき台の内容にそのまま納得すれば、交渉や調整の必要はありません。

記名捺印と保管

お互いに契約書の内容に納得できたら契約書を作成した日付を入れて、記名押印(署名捺印)をします。
また業務委託契約書は当事者の人数分作成し、各自1通ずつ保管するものです。
なくさないように厳重に保管しましょう。

業務委託契約書作成時の注意点

業務委託契約書を作成する際には、以下の点に注意が必要です。

成果物・支払いについて明確に定める

業務委託契約書では、成果物や支払いに関する取り扱いを明確に定めておく必要があります。
成果物の権利帰属先だけではなく、納品を受けた後の検収にかかる期間や修正を依頼できる回数などについても定めておくと、トラブル防止につながります。
支払いについては、いつのタイミングで支払義務が発生するのか、支払期限についても明確にしましょう。

委託業務に関する詳細の記載

業務委託契約において、委託する業務は契約の根幹となるものです。
具体的な仕事内容をできるだけ詳しく特定しましょう。

個別事情の反映

業務委託契約書を作成するときには、書式(テンプレート、ひな形)を利用すると便利です。
ただし個別事情を反映しないと、本当の意味でのトラブル予防効果やトラブル解決機能は期待できません。
契約ごとの特性に配慮して、料金や権利帰属、再委託などについて定めましょう。

下請法に注意

相手方との規模に差がある場合、下請法が適用される可能性があります。下請法とは、小規模事業者が下請けをするときに不利益を被らないように保護するための法律です。
下請法が適用されると、発注者側は法定書面を発行しなければならず支払い遅延が禁止されるなど、さまざまな規制を受けます。
自社の規模が「資本金1,000万円を超える場合」に下請法が適用される可能性があるので、事前に法的な要件に照らして下請法が適用される事案かどうかを確認しましょう。

作成した契約書に関する専門家によるチェック

業務委託契約書を作成する際には個別事情を反映する必要がありますし、下請法が適用される可能性もあります。
自社のみでは適切に判断しにくい事項も多いでしょう。将来のトラブルをより確実に防ぐには、弁護士などの専門家による契約審査を受けておくのが安心です。
ビジネスに特化した法律の専門家から御社の状況や契約の個別事情に応じたアドバイスやサポートを受けられるサービスもあるので、自社内で契約審査体制が整っていない企業では、これを機に導入を検討してみるようお勧めします。

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WRITER
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。
慶應義塾大学環境情報学部、青山学院大学法科大学院卒業。企業法務、国際取引、知的財産権、訴訟に関する豊富な実務経験を持つ。日本及び海外の企業を代理して商取引に関する法務サービスを提供している。2008年に弁護士としてユアサハラ法律特許事務所に入所。2012年に米国カリフォルニア州に赴任し、 Yorozu Law Group (San Francisco) 及び Makman and Matz LLP (San Mateo) にて、米国に進出する日本企業へのリーガルサービスを専門として経験を積む。
2014年に帰国。カリフォルニアで得た経験を活かし、日本企業の海外展開支援に本格的に取り組む。2017年に米国カリフォルニア州法人TandemSprint, Inc.の代表取締役に就任し、米国への進出支援を事業化する。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。世界市場で戦う日本企業をビジネスと法律の両面でサポートしている。
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